バスに揺られてたどり着く、光がいっぱいの空間

カフェを併設した生活道具を扱うお店『park』は調布駅からバスに乗り換えて10分ほどのところにある。決してアクセスがよいとは言えないし、オープンしているのも木・金・土が中心。しかし、遠くから訪れる人が後を絶たない。

店には、店主・町田紀美子さんがセレクトした生活の道具、衣類、食品がならび、12席ほどのカフェスペースでは厳選した材料を使ったドーナツやカレーが食べられる。

『kijirushi』のブックスタンドは、今も『park』で取り扱っている。
『kijirushi』のブックスタンドは、今も『park』で取り扱っている。

そもそもの始まりは約15年前に遡る。元来生活道具好きだった町田さんは京都を旅して横幅35センチほどのブックスタンドを見つけた。『kijirushi(木印)』というブランドのもので、木槌がついていて、組み立てられるというもの。ブランドのカードを持ち帰って連絡してみたところ、作り手と意気投合し、なんとその後、家族で京都に5年ほど住むきっかけにもなった。現在『park』で使われているテーブルや椅子は『kijirushi』のものだ。

京都で暮らすうちに、友達が友達を呼ぶように考え方に共感できる作り手との出会いが増えていった。「京都では生活に根付いた考え方でものづくりをしている人にたくさん会いました。職人さんから職人さんへ貴重な技術が継承されていく様子を見て、そのストーリーに惹かれていったんです」。

2017年に東京に戻ることになったとき、夫のデザイン事務所を調布に構えることにした。町田さん自身はまだ京都にいたものの「物件を探していた夫から『神代植物園のそばに、こんな物件があるんだけど』と電話があって、いいね、決めちゃおうと」と契約することになった。

窓が多くて、目の前は大通り、そばには公園がある。町田さんは「光が本当にきれいなんです。朝、太陽が上って行く時も、夕方沈んでいくのもいい感じです」と、とても気に入っている様子だ。

当初はギャラリーとして営業することも検討したが、駅から遠い場所ということもあり、一度来たらのんびりしてもらえるような店にしたいと考えた。そこで生活道具を扱いながら、カフェを併設することにした。

素材選びにも時間をかけたドーナツやカレー

町田さんはカフェ好きではあったものの、飲食店で働いた経験もほぼなく、まさか自分がカフェを開くとは思っていなかった。家族の体調不良や自身の出産・子育てを経て、食への関心を高め、自然に即した料理の教室に通ったり、資格を取ったりしていたのが偶然にも今の『park』に繋がっている。

「いくつかのメソッドを勉強して、わかったのは素材を選ぶことが大切だということ。忙しくて時間がかけられなくても厳選した素材で料理すると、びっくりするほどおいしくなって、おもしろいと思うようになったんです」

販売する暮らしの道具もカフェのメニューも、一貫しているのは、作り手の考え方に共感できたものを扱うということ。道具なら潔くシンプルなデザインで、実際に使って使いやすいと感じたものが並ぶ。カフェのメニューは、農薬等に頼らず、素材そのものの健やかさが追求された食材で作っている。

カフェメニューはカレーとドーナツがメイン。ドーナツは、小さな子どもが『神代植物園』でおやつとしてドーナツを頬張る姿が思い浮かんだから。カレーも公園で遊び疲れたあとに、寄り道してお腹を満たしてほしいという発想でメニューに加えた。

黒糖の甘さとしょうががきいた黒糖生姜カフェラテは690円。粉の味を楽しみたいプレーンのドーナツは230円。
黒糖の甘さとしょうががきいた黒糖生姜カフェラテは690円。粉の味を楽しみたいプレーンのドーナツは230円。

ドーナツに使う小麦粉は、北海道や九州各地などから、国産の無農薬小麦をいくつも取り寄せて吟味した。最終的に九州で栽培されている無農薬の薄力粉と強力粉をブレンドして使っている。「どの小麦粉もおいしいのですが、ほのかな甘みや生地がふんわりする感じのバランスがよかったんです。ほんの少しだけ入れているお塩の利き方が滑らかに感じます」と町田さん。

ドライキーマカレーは1200円。10種のスパイスや自家製味噌が隠し味。付け合わせの豆やピクルスの内容は時期によって変わる。
ドライキーマカレーは1200円。10種のスパイスや自家製味噌が隠し味。付け合わせの豆やピクルスの内容は時期によって変わる。

カレーなどに使うお米も、山口県で友人が栽培する無農薬米と、兵庫県の『ひかり農園』が栽培する自然農のみどり米というもち米をブレンドしている。もち米をブレンドしているので、もっちりとした食感で甘味も強く感じる。ドライキーマーカレーはちゃんとスパイスを効かせているが、小さな子どもでも完食するほどだという。米のおいしさがポイントなのだろう。

店で出すピクルスや、豆、カレーの隠し味に使う味噌などもすべて自家製にしている。一時期は食に対してストイックだったこともあったそうだが、「何よりニコニコおいしく食べるのが一番ですね」と町田さんは笑顔で話す。

「チャチャっと用意した炒め物なんかも、お気に入りの器にのせて食べれば、ご馳走になったような感じになるでしょう?」と町田さんはいう。器は大切に使っていても、割れたり欠けたりもしてしまうが『park』では、金継ぎという漆を使った手法で直して使ってもいる。

ラテは、金継ぎで直したカップで提供されることも。
ラテは、金継ぎで直したカップで提供されることも。

「間に合わせで道具を買ってしまうよりも、気に入ったものをずっと大切に使うと、生活が豊かになっていくと思うんです」

週3日程度の営業だが、店が開いていなくてもお休みしているかというとそんなことはない。調味料などから全て作るために仕込みに時間をかけ、オンラインショップの運営、商品撮影、展示会の運営など業務は多岐に渡る。さらに家庭や子どもを持つスタッフがほとんどであることもあって「働き方」のバランスも大切にしているのだ。

「スタッフの心持ちは直に伝わってしまうと思っています。信頼できるスタッフと、心地良い空気感を保ちながらお客様をお迎えしたいんです」と町田さん。『park』のカレーやコーヒー、ドーナツがおいしく感じるのは、空間、素材、丁寧な作り方、そして素敵な器にあたたかな接客と、いくつもの要素が重なり合っているからといえそうだ。

住所:東京都調布市深大寺北町1-2-1/営業時間:12:00~16:00/定休日:不定/アクセス:京王電鉄京王線調布駅より小田急バス「神代植物公園前」から徒歩1分

取材・撮影・文=野崎さおり