ガラスメーカー「HARIO」がショールームを兼ねてオープン
ガラスメーカーの「HARIO」は、コーヒーのドリッパーやサーバーで知られている。『HARIO CAFE室町店』は、コーヒーを通して「HARIO」が作る商品の魅力を伝えるために作られたカフェだ。
このカフェには「HARIO」が販売している“コーヒーを淹れるための器具”なら、なんでもあると言っていいだろう。ドリッパーだけでも複数の形があり、素材も樹脂やステンレス、有田焼などさまざま。1万円弱の家庭用サイフォンや、20万円もする背が高く立派な水出しコーヒー器具まで、コーヒーマニアが唸るようなラインナップだ。
一般に問屋などを通して流通している商品を、目の前でユーザーに手に取ってもらって特徴の説明もできる場所として作られたのが『HARIO CAFE』だ。だから店内に並ぶ商品はもちろん購入可能。
店長を務めているのは高橋文哉さん。2016年と2019年のジャパンサイフォニストチャンピオンシップでファイナリストになったサイフォンのスペシャリストで、後進の指導も行っている。サイフォンだけでなく、あらゆるコーヒーの抽出方法に精通。「HARIO」が毎年販売している新しい器具の開発にも関わっている。
たくさんの人にコーヒーを淹れる楽しみを
高橋さん達がやっているのは、実演販売とも言える。店内でコーヒーのセミナーを頻繁に行っている。まったく初めてハンドドリップを経験する人から、趣味としてコーヒーを掲げるような人を対象にした飲み比べ目的のものまでレベルもさまざまだ。
インスタグラムでのライブ配信も頻繁に行って、新しい商品が販売されたら特徴や使い方を説明したり、コーヒー業界の有名人と一緒にコーヒーに関する疑問に答えたりと、とにかく熱心にコーヒーを淹れる楽しみを広めているのだ。
「『オンラインで紹介していた新商品でコーヒーを入れてほしい』とお客さんからリクエストされて、お応えすることもあります。ドリップ用のケトルの購入を迷っている方には、湯を注いで試してもらうこともありますよ」と高橋さん。
さらに『HARIO CAFE』では、コーヒーの世界大会で優勝歴もある粕谷哲氏セレクトの希少な豆が準備されている。豆はその時で変わるが、中には極浅煎りでフルーティーな味わいを感じられる豆があって、コーヒーの世界の広さやおもしろさを教えてくれる。
日本トップクラスのサイフォニストが淹れるスペシャリティコーヒー
店にはグレードの高いスペシャリティコーヒーもあるが、スタンダードな味わいの豆も用意されている。通常は「HARIO」の代表的なドリッパーV60を使って抽出されるが、店内で飲むなら同じ豆をサイフォンコーヒーとして淹れてもらうこともできる。
『HARIO CAFE室町店』で淹れるサイフォンはフィルターにネルを使っているので、紙のフィルターを使う時よりもコーヒー豆に含まれる油分がコーヒーに移る。そうすると、コーヒーがとろりとした味わいに仕上がる。
高橋さんにサイフォンでおいしいコーヒーをいれるポイントを聞くと、大きく2つあるという。1つはコーヒーの粉と湯をおいしい割合にすること。店では湯の量をスケールで正確に測っている。もう1つは、サイフォン独特の撹拌(かくはん)作業だ。温まった空気に押し出された湯が豆と混ざったときに、ムラなく一気に撹拌するにはスキルがいる。「最初はよく知っている人に見てもらうといいですよ」と高橋さんは言う。
フードは日本橋の名店から取り寄せて飲み物とセットで提供している。サンドイッチなら『赤トンボ』、チョコレートケーキのクラッシックショコラは日本橋浜町の『パティスリーイソザキ』。クラシックショコラは、どっしりしているが濃厚すぎない大人の味わいだ。もちろんおすすめのペアリングコーヒーも教えてくれる。
コロナ禍以降、訪日外国人も含めて店内でコーヒーを飲む人は減ってしまったが、家でコーヒーを淹れる道具の販売は堅調だ。特にネルドリップやサイフォンといった、手間やコツが必要な道具を買う人は増加。当然、高橋さん達にコーヒーの淹れ方を教わりたいという人も増えている。
高橋さん自身は、地球上のほとんどの人と共通の話題にできることに魅せられてコーヒーの世界に進んだ。「自宅でどんな風にコーヒーを楽しんでもらうか。そのことを探求していきたい」とコーヒーが生み出す楽しさや喜びを、広く伝えていきたいようだ。
『HARIO CAFE室町店』はコーヒーを飲む以上の楽しみ方を目の前で見せて、味合わせてくれる。自宅でのコーヒーが趣味に加わった人はぜひ訪れたい店だ。
取材・撮影・文=野崎さおり