キャラクター化される「歯」
確かに歯単体を見てみれば、白くてコロンとしており、かわいらしい造形と言えなくもない。太古の昔から獣の歯が装飾品に用いられてきたのも、宝石のような感覚で見られてきたためだろう。一方で、歯根が下方に伸びた独特の形は、一目で「歯」とわかる。
キャラクター化することで、「親しみやすさ」と「歯医者としての宣伝効果」が望めるというわけだ。では、街にはどのような「歯キャラ」が存在するのだろうか。
愛嬌ある「歯キャラ」
まず簡単なのは、歯にそのまま目鼻がついたタイプのキャラである。
いま目鼻と言ったが、このタイプの歯キャラに鼻が付いていることは少なく、目とほほ笑む口の組み合わせが多い。スマイルマークのように、最小限の表現でかわいらしさを演出しているのだ。
ところがここに、「歯医者のキャラである以上、歯ブラシを持たせたい」という欲が出るとどうなるか。「歯に手を付ける」という結果になる。
幸い、歯根が足のように見えるため、手を付けるだけで何となくキャラクターっぽくなるのだ。
こうしてキャラクターとして完成された歯の中には、服を着せられているものもある。
「歯に衣着せぬ」という慣用句とは対極にある。ちなみに、日本歯科医師会のPRキャラクターである「よ坊さん」(https://www.jda.or.jp/jda/about/character.html)も着衣歯の一人であり、法衣を身にまとった「よ坊さん」とその仲間たちが、虫歯を未然に防ぐことの大切さを説いている。
「歯キャラ」の本体は歯なのか?
こうして街の歯キャラを見ていくうちに、友人Mさんから「桜新町のサザエさん通りにすごい歯キャラがいた」という情報が寄せられた。早速見に行ってみたところ、シルクハットに蝶ネクタイの歯が、歯ブラシを持って微笑んでいた。
ここまでは他の歯キャラと大きな違いはない。ところがよくよく見てみれば、この歯キャラ、白い前歯をのぞかせて笑っているのである。歯の中に歯。なんとシュールな光景ではないか。
西早稲田の歯科医院の入口に立っている人形もまた、歯の中に歯があるタイプのキャラである。
どことなくアメリカンな雰囲気の漂う歯が、白い歯を見せて満面の笑みで立っている。健康な歯の持ち主であることをアピールし、歯科医院の看板キャラとしての役割を果たしているが、それではその本体は何なのだろう。考え始めると夜も眠れない。
イラスト・文・撮影=オギリマサホ