モロボシ・ダン ≒ 森次晃嗣(もりつぐこうじ)

1967~68年放映の特撮テレビ番組『ウルトラセブン』で主役のモロボシ・ダンを熱演。以降、ウルトラマンシリーズをはじめ、ドラマ、映画、舞台などで活躍する。鵠沼の洋食店『ジョリーシャポー』を営み、ツイキャスにて月に1度、ファンミーティングも発信中だ。

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閑静な住宅地に立つのは、季節の花で彩られたロッヂ風建物。『ジョリーシャポー』の店名と共に、愛らしく描かれたウルトラセブンが、ここが基地だと告げている。

扉を開けると、ダンディーな姿のモロボシ・ダンが、ダイニングテーブルに席をとり、ゆったりくつろいでいた。ダンは俳優の森次晃嗣としてここ、鵠沼(くげぬま)で暮らしているという。

「ウルトラセブンが始まる前には暮らしていたので、もう55年になります」

風来坊とばかり思っていたが、ちゃんと拠点があったのだ。

看板の原画は森次さんの手描き。初代の看板は、妻の江美さんと手作りしていたとか。

「ふふ。実は北海道の雪国出身でね、海に憧れがあったんです。知り合いが湘南にいたから、ちょくちょく来ていて、いいとこだなぁって。鵠沼は何と言っても風がいい。海風が爽やかでね。少し内陸に入ったこのあたりでも、路地に海風が通り抜けていって心地いいんです。この風の匂いを嗅ぐと、あぁ、帰ってきたなって思います」

海風に誘われ、茅ケ崎方面へとサイクリングロードをひた走り、ぐるりと巡るのもお気に入りの時間だという。

「富士山がどーんと見えて、景色が本当にいい。でも、出かけるのはもっぱら春から秋にかけて。冬は寒くて(笑)」

ひと仕事終えたら、藤沢駅近くの行きつけの店でゆっくりグラスを傾けることも少なくないという。鵠沼界隈は、モロボシ・ダンをはじめとした数々の仮面を脱ぎ、森次晃嗣その人へと戻れる場所なのだ。

そして1986年、この地にカフェテリアを開店した。

「当時のカフェは、定番といえばカレーだったんです。でも、それじゃつまらないし、辛いものが苦手な人でも食べられるようにしたくて」と、好物のハヤシライスを据えたと目尻を下げる。

単なるカフェではなくウルトラの聖地へ 「セブンは今も世界中で愛されているんです」

「詳しい作り方は内緒」と笑うが、創業以来、工夫を重ね続けて味わいはどんどん進化。早速口に運べば、まろやかでクリーミーな舌触り。奥深い甘みと香りが口中に広がり、シャキッとしたタマネギやピーマンが食感の妙を生んでいる。最近では、ミャンマーコーヒーを用いたコーヒーフロートも評判で、ほどよい苦みと酸味、バニラアイスの甘みが絶妙。添えられたウエハースには、ウルトラセブンが印刷され、食べるのが惜しくなるほどだ。

名物の、ダンのハヤシライス 800円と、ウルトラセブン ミャンマーコーヒーフロート 700円。セブンが刻印されたウエハースにも注目だ。

ふと見渡せば、明かり取りから光が注ぐ店内は、松の一枚板のダイニングテーブルや木製電柱などが据えられ、木を贅沢に用いた独創的なデザイン。そこに、ウルトラアイ、アイスラッガー、実物マスク、ミニチュアのポインターなど、ウルトラセブンとウルトラマンシリーズの品々でにぎやかに埋め尽くされ、目移りするばかり。ウルトラ兄弟や、錚々(そうそう)たるメンツのサイン、貴重写真の数々も随所に展示され、興奮は一気にヒートアップ!

「全国からいらっしゃいます。なかには中学生の方も。あと、海外からも多くて、アメリカやペルー、中国に、ブラジルも。日本に来たらここを訪ねたいと思ってたって。うれしいですよね。世界中にファンがいらっしゃるんですよ」と、感慨深げだ。

ウルトラセブンは1967年が初回放送だが、70年代、80年代に再放送が繰り返され、ファンの年齢層は思いのほか、幅広い。海外でも放映されたうえ、2020年には4Kリマスター版が登場。再び人気に火がついた。ファンを少しでも楽しませられるようにと催していた恒例のファンミーティングは、コロナ禍ゆえに中止したが、1年前よりツイキャスでの生配信を開始。今なお、遠方ファンを喜ばせている。

ウルトラセブンの実物マスクが! さりげなく後ろに、ウルトラ警備隊のヘルメットも控えている。

「毎回、ゲストを呼ぶんですが、特撮がらみが多いです。お客さんは、擦り切れるほど何度も何度も見返しているから、僕らよりもご存じ(笑)。だから、当時の撮影話より、今はどうやって作るかとか、そんな話が盛りだくさん」

特撮モノは昔と異なり、CGで作られるようになっている。

「CGはスピード感がすごいです」と、感嘆しながらも「でも、特撮のすごさって、やっぱり手作りによるものだと思うんですよね」と、淋しげに呟いた。かつてはミニチュアセットを手作りし、1mもあるデカさのものを、テレビで見た人にはわからないようにピアノ線で吊って、人間の手で飛ばしていた。

「手作業で作るから、映像の面白さや、温かみもありました。今、そこに戻ろうという考えもあるようですが、手作りできる職人がほぼいないし、やり方が変わったから育ってもいない。本当はミニチュア作って、昔のやり方しながらも、プラスアルファのところでCGを使うみたいなことができれば」と、沈思の表情を垣間見せた。

店は自由に表現できる場。いろんな才と顔を見せつける

発信は、特撮や、ウルトラセブンだけでは終わらない。実は森次さん、シャンソン歌手の一面を持つ。そもそも「表現の場を作ろう」と始めた店ゆえ、創業前からライブ演奏を視野に入れ、ピアノやライブ用セッティングを用意。これまで、毎週シャンソンライブを催し続け、欠かさず訪れる常連ファンも少なくなかったという。

「若い頃、銀座のシャンソニエ『銀巴里』に通ったぐらい、シャンソンに心惹(ひ)かれているんです。シャンソンは人生を謳(うた)い、人生を表現するもの。旋律そのものもきれいですが、語ってみたり、囁(ささや)いてみたりと、自分流にいかようにも表現を変えられるし、歳を重ねてはじめて心に沁(し)みるものにもなる。俳優に通じるところがありますね」

さらに、壁には印象派を彷彿とさせる絵画が飾られている。これもまた、森次さんの手によるものだという。

「小学生の頃から絵は描き続けているんですよ。ロケに出かけて、いいなと思ったら、写真に撮っておいたりしてね。鵠沼の風景? この辺りは描かないなぁ。だって、風景がきれいすぎる! なんたって富士山と海ですからね。実物を見て感じるのが一番!」

他にも、仲間たちとモロボシ・ダン&ジョリーシャポーのオリジナルグッズを企画し、茶目っ気・多才っぷりも披露。セブングッズもわんさかそろい、ここは無傷では帰れない。地球に真の平和が戻るその日まで、ダン、いや森次晃嗣は、果てなき活動を続けるのだ。

ジョリーシャポー

聖地で名物料理と垂涎の品々を堪能!

モロボシ・ダンこと俳優・森次晃嗣が、表現の場として開店。タマネギをじっくり炒め、トマトを加えて煮込んだ、ダンのハヤシライスが名物だ。また、ミャンマーに畑をもつ焙煎店から仕入れるコーヒーも香り高く、ウルトラセブンパッケージの豆は220g 1512円で購入も可。
店内はさながらミュージアム。セブンの貴重なグッズ類、ドラマや映画の記録の数々に心躍る。

モロボシ・ダンのオリジナルTシャツも手に入る。2021年夏復刻のダンディーな黒 5500円のほか、新作の陸サーファー 5500円もあり、遊び心とともに湘南愛もアピールしている。

『ジョリーシャポー』店舗詳細

住所:神奈川県藤沢市鵠沼海岸6-8-3/営業時間:11:30~14:30LO/定休日:月(祝の場合は翌火)/アクセス:小田急江ノ島線本鵠沼駅から徒歩15分

取材・文=佐藤さゆり(teamまめ) 撮影=小澤義人
『散歩の達人』2021年8月号より