相模湾一帯を「湘南」と呼んじゃっていい?
「湘南」という呼称の由来には諸説あるが、その中のひとつが「中国湖南省、洞庭湖の南に『湘南』というエリアがあり、相模湾一帯の風景がそこに似ているから」というもの。そうなると、三浦半島の南端から真鶴岬までが全部「湘南」ってこと? 計16の検証結果を読みつつ、あなたにとっての「湘南」の境界を考えてみません?
「湘南」をバイパスの区間データから考える
「西湘バイパス」(1967年に開通)は大磯町と小田原市、「新湘南バイパス」(1988年に開通)は藤沢市と大磯町を結ぶ自動車専用道路。海水浴シーズンは国道1号と134号の渋滞がひどく、それを回避するために造られた。名称についてだが、当時の建設省は「大磯町が湘南と西湘の境目」「しかし、どちらも湘南」と判断したのだろうか。この理屈だと、藤沢以東と小田原以西は「湘南ではない」ということになりますね。
湘南信用金庫の北限は東京の武蔵小山だった
「湘南」の名を冠しているものの、1号店となる本店の所在地は横須賀市。また、自治体ごとの支店数を調べてみると、トップは横浜市で15店。これに、14店の横須賀市、茅ケ崎市が続く。なお、「絶対に湘南じゃないだろう」という東京都にも大田区と品川区に1店ずつあり、「湘南の息がかかる北限」は品川区の武蔵小山でした。
「湘南国際マラソン」はすべて海沿いを走る
2007年から行われている大会。2019年に行われたフルマラソンのコースを見ると、西湘バイパス大磯西ICを出発し、江の島入り口、西湘二宮ICの2カ所で折り返し、大磯プリンスホテルでゴールするというルート。最初から最後まで、すべて相模湾沿いを走る。これが大会事務局が考える「湘南」ということなのだろう。コロナの影響で2020年と2021年は中止されたが、コロナが収束していれば2022年2月に3年ぶりの開催となる。
伊勢原市も「湘南」になっちゃいました
湘南ベルマーレのホームタウンはザ・湘南の平塚市。選手のキャッチフレーズも「常勝湘南」(山本脩斗)、「湘南乃宝」(石原直樹)など、「湘南」を含むフレーズが多い。しかし、残念ながら湘南出身の選手はゼロ(※)。しかも、平塚市のみだったホームタウンを徐々に増やし、現在は伊勢原市などを含む9市11町に拡大。湘南感は薄まる一方…!?
食品業界では「鎌倉」も「湘南」という認識か
七里ガ浜で行列が絶えない『珊瑚礁』。鎌倉カレーの代名詞的存在で、中でも「ドライカレー」の評判が高い。これをヱスビー食品が「湘南ドライカレー」としてレトルト商品化した。「鎌倉」ではなく「湘南」とすることで、より広いエリアに訴えかけている。今年2月にはカルダモンの清涼感をアップするなど、リニューアルを実施した。
小誌は大磯町出身の湘南の海を応援します!
幕下14枚目の力士、「湘南の海」をご存じだろうか。本名は谷松将人、大磯町の出身。ドラマ『千代の富士物語』を観て相撲界に興味を抱いたことが角界入りのきっかけだ。高田川部屋の親方が付けた四股名の全表記は「湘南乃海 桃太郎」。「湘南で生まれた力士が鬼を退治するほど強くなる」ということ? なお、過去6場所は37取組中20勝と健闘している。この調子で、個別取材を受けられる十両以上を目指してほしい。
藤沢は「湘南」、鎌倉は「横浜」という見解
神奈川県には4つのナンバープレートがある。ちなみに、2020年3月時点の登録数は「横浜」(171万832)、「湘南」(86万9398)、「相模」(81万3985)、「川崎」(44万2801)の順。1994年誕生と最も後進なのに「湘南」ブランド強し。なお、藤沢市は湘南ナンバーだが、隣接する鎌倉市は横浜ナンバーというのが陸運局の見解だ。
大磯には「湘南発祥の地」と刻まれた石碑がある
平塚の西隣に位置する大磯。海にほど近い場所には郷土資料館があり、敷地内には「湘南発祥の地」と刻まれた石碑が立っている。どうやら、室町時代に日本に移住した中国人の子孫が大磯を初めて「湘南」と呼んだのだという。写真は国道1号沿いに建てられた石碑。こうなると、「湘南」から大磯を外すわけにはいかないかも。
逗子、鎌倉、茅ケ崎、すべて「湘南」でいい
『「湘南」の誕生 音楽とポップ・カルチャーが果たした役割』の著者、増淵敏之氏は言う。「大磯の別荘文化から始まり、文士たちが集住。やがて、マリンスポーツのメッカになった。さらに、『湘南』が形成された背景には数多くの歌や映画なども寄与している。だから、僕は逗子、鎌倉、茅ケ崎、大磯、すべて『湘南』でいいと思う」。「湘南」はそれぞれのイメージの上に成り立っている言葉であり、正解も誤りもないってことか。
「湘南」に店舗がないブックセンターの謎
1969年創業の『湘南ブックセンター』。社名だけ見ると、鎌倉辺りでお洒落なカフェを併設した書店を営んでいそうな雰囲気だが、実態は出版物の総合卸業者で、本社は茅ケ崎のすぐ北隣、寒川町にある。不思議なのはお膝元であるはずの「湘南」に店舗がない代わりに、仙台市に2軒、東松島市と栗原市に1軒ずつ出店していること。先の増淵氏が提唱するように、「湘南」を名乗ってしまえば、そこは「湘南」になるということ!?
丹沢山地の端にあった幻の「湘南村」って?
神奈川県津久井郡(現・相模原市緑区)には、1955年まで「湘南村」が存在した。山深い自治体が、なぜ「湘南」? 同地に今も残る湘南小学校のウェブサイトには、こんな記述がある。「命名したのは役場の戸長(編注・行政事務の責任者)、馬場健二氏。明治22年の町村制施行の際に、相模川を相模湾と見立てて、川の南に誕生する新しい村を『湘南村』と名付けた」。戦後の町村合併で村名は消えるが、小学校の校名に残った。
ほとんど鎌倉市内を走る「湘南モノレール」
湘南江の島駅~大船駅を結ぶ「湘南モノレール」。急カーブやトンネルがあり、高低差も激しいコースを最速75km/hで疾走するため、「まるでジェットコースター」とも称される。藤沢市内の「湘南江の島駅」と「目白山下駅」は、まあ「湘南」だとしても、大船駅を含むそれ以北の駅はすべて鎌倉市。さすがに「湘南」とは言い難い!?
「湘南キャンパス」の立地を勝手に検証
大学はやたらと「湘南キャンパス」を名乗りたがる。しかし、かろうじて納得できるのは神奈川大学湘南ひらつかキャンパス(平塚駅からバスで約30分)ぐらい。それ以外は、東海大学(東海大学前)、多摩大学(湘南台)、慶應大学湘南藤沢SFCキャンパス(湘南台)、日大湘南キャンパス(六会日大前)と、海からかなり遠い立地ばかり。その他、文教大学、産業能率大学、松蔭大学、いずれも山の方で湘南感はありません。
座間市の自販機でも買える「湘南クッキー」
知る人ぞ知る「湘南クッキー」。本社工場は平塚市にあるが、有名なのは24時間営業の自販機。東は横浜市、西は平塚市、南は由比ケ浜、北は座間市と広範囲に設置されている。平塚の自販機で看板商品の「じゃこ瓦」(170円)を買って食べてみたが香ばしくて美味。さすが、「湘南ひらつか名産品」に認定されただけあるな。
「湘南で家を買う」、大和市も対象エリア
藤沢市に店舗を構える不動産会社、「TOHO HOUSE湘南」。公式サイト「湘南の家探し」によれば、東は横浜、西は湯河原、南は三浦半島、北は大和市と、紹介エリアはかなり広域にわたる。「湘南クッキー」の自販機が座間にあるぐらいだから、その南の大和市もギリギリ「湘南」なのかも。エリア別に見ると他と比べて鎌倉、逗子・葉山ブランドが強く、中古戸建でも最高価格は4億円近い。やはり、駅近&海近物件が人気のようだ。
「湘南の風」を湘南のビーチで感じてみた
人気レゲエグループ「湘南乃風」。果たしてそれはどんな風なのか。身をもって感じようと訪れたビーチはあいにくの曇天。リサーチでは「湘南の風」は海から陸に向かって吹く「オンショア」だという。しかし、この日は逆の「オフショア」で湿気を帯びたやさしい風。ビーチでは海の家の営業準備を進めていた。現場からは以上です。
結論
調査してみると、人や団体によって見解が違いすぎた。というわけで、研究結果は全員引き分け! あなたは「ここは湘南だ」と感じたら、誰が何と言おうと湘南なのだ。それぞれの「湘南」にリスペクトを!
取材・文=石原たきび 撮影=編集部・石原たきび
『散歩の達人』2021年8月号より