飯能ライフを豊かに、日常に寄り添う場所として開園
創業は1996年。UR都市機構(当時の住宅・都市整備公団)が開発するビッグヒルズ飯能美杉台の一角に、『生活の木ハーバルライフカレッジ』としてオープンした。カレッジ内の『ベーカリー』も、街のベーカリーといった佇まいで、ご近所の人が毎日散歩がてら、パンを買い求めにくることも多かった。
「ご近所の人にとって毎日気軽に使ってもらうパン屋といった感じとは裏腹に、メニューはこだわりがあふれ過ぎたものばかりで(笑)」と笑うのは、2019年より店長を務める岩崎翔さん。
ガーデン内の各コーナーは、全てハーブのプロフェショナルが携わっている。もちろんこのベーカリーもだ。その熱量と知識は圧倒的に高く、もはや「パン職人の作るパン」というよりは「ハーブ職人が作るパン」といった方が正しいのかもしれない。
幅広い層が訪れる開けた場所へと変化していく
大きく変化したのは、2005年。『生活の木メディカルハーブガーデン薬香草園』へとリニューアルした。それからはメディカルハーブに特化した施設として、北は北海道から南は九州まで、全国から来園者も増えていき、近所の人の憩いの場としてだけではなく、全国の幅広い層に知名度も広がったのだ。その分多くの人に愛され、受け入れられるためのパン作りについて一考していったそう。
「それまで『少し癖が強すぎる』『子供が食べられないかも……』といというご意見も多かったんですね。こだわりも大切ですが、多くの人に食べていただけること、愛してもらえるような商品作りを考える方向にシフトして行きましたね」と話す岩崎さん。
店として「一押ししたいハーブ」と「幅広い人に愛される」のバランスは実に難しいものだと感じる。
「一番大切なのは何よりもまず『おいしいこと』。ハーブってちょっとクセがあるんじゃない?という抵抗感を持ってる方がどうしてもいらっしゃる。そこを払拭したいし、ハーブは立ってるんだけどおいしい、というのを外さないことを目指してますね」
そのバランス探しは試行錯誤の連続だ。一つの商品が製品化されるまで長いものだと2ヶ月近くかかる。具材とハーブの相性も大事だが、生地とのマッチ感もまた難しい。
答えは自分たちで探す。そのために、スタッフ一人ひとりの意見や考えが全て受け止められている。「決められたものを作るというよりは、自分で『こうしたい』とみんなが提案してくれる。知識だけではなく、情熱がなければハーブとパンを組み合わる研究はできない。熱量高い周りのスタッフに感謝しています」と目を細める岩崎さん。
ハーブだけではなく、原材料へもこだわりを追求する
研究熱心なのは、ハーブとパン生地のマッチだけではない。原材料にもこだわる。
「職人志向が強く、材料一つとっても手を抜かなかったんです。砂糖だったり小麦だったり、オーガニックや国産の高級なものをどうしても取り入れたい、という意思も強くて。価格度外視の商品もあったし、本社泣かせだなと思っています(笑)」
原材料をこだわりすぎるとどうしても値段が上がってお客様が買いにくくなってしまう。そこで岩崎さんは店長に就任してから、良いものを適切に持続的に続けるためには?とバランスを選んで原材料も見極めているそうだ。
想いを持っているからこそ悩むところなのだろう。精製砂糖を使わない代わりに、天然甘味料として注目されているアガベシロップを取り入れることや、糖分や塩分を控えめにする代わりにハーブや天然の果物の素材を生かして、パンそのものの風味が引き立つようにして味わいを感じられるようにするなど、手に取りやすい価格だけではない、様々な工夫をしているのだ。
「いらっしゃるお客様から『これ、美味しかったです』とか、『こういう風にしてほしい』、『こんな商品が欲しい』などお声をいただくんです。そうした日ごろの会話から汲み取ることをこの工房で反映していますよ」。
こうして手間と時間をかけて、小さな工夫を地道に重ね続けている商品は、毎日焼菓子含めて40種類を作っているのだから驚きだ。
ちょっと非日常へトリップ。暮らしにハーブを取り入れるきっかけになりたい。
行楽に出かけることも悩ましい最近だが、それでも訪れる客は絶えないという。ここ『薬香草園』でちょっとした非日常を楽しみつつ、そのエッセンスを日々の暮らしに持ち帰ることを楽しむ人が多いのだろう。まずは食の面からハーブに触れることへトライしてみたら良いのかもしれない。
取材・文・撮影=永見 薫