クラフトビールをもっと気軽にカジュアルに。日常的に味わって欲しい。
2019年に『CARVAAN』の姉妹店としてオープン。いつでも誰でもふらっと立ち寄れる開放的な入り口。アラビア建築を思わせるシックな店内の中央には、一人で訪れた客でもゆっくりとくつろげるカウンターが存在感を放っている。
「平日は地元のお客様、休日はレジャー帰りのお客様がよく訪れますね。飯能という土地柄もあり、登山客の方も多いです。山登り後にグイッと一杯を味わって軽快に帰宅されていきますよ」と語る店主の岩田大一さん。
多くの客の目当ては、自家ブルワリーで醸造しているクラフトビール。常時4種類のビールをチョイスすることができる。
季節で変化するメニューには果実やスパイスをふんだんに使っている。口に含むとスパイスとホップの薫りがふわっと広がり、鼻腔を抜ける。他とは一線を画した華やかかつ複雑な味わいだ。
というのも、店舗の運営元がハーブやスパイスなどの卸販売もしている貿易会社であり、ビールにその利点が大いに活きている。世界から厳選された素材と、飯能で自家栽培するホップを使って造りあげるビールの数々は、この地でしか作れない唯一の品と言えるだろう。
流行に左右されない、歴史と文化を継承するビール作り
こだわりはそれだけではない。ブルワーが一つのビールを開発するために、発祥地域の歴史や時代を遡り、その時に料理に使われていたスパイスやハーブについてまで入念に調べ、研究する。なぜそこまで遡るのか。それは流行に流されることなく、各々のビールが脈々と築いた、生きた歴史を現代に受け継ぎ、多くの人に伝えるためなのである。
実は岩田さん、『CARVAAN』の客の一人だったそう。店舗で提供されるビールに魅了されて姉妹店が立ち上がるタイミングで店の門をたたき、ついには店主となったのである。
「ひとりのお客さんとして店によく通っていました。ビール醸造のこだわりも素晴らしいと思っていたけれど、何より歴史や文化を大切にするその心意気に惹かれましたね」と魅力を語る。
ありふれた言葉ではない、それぞれが考え感じた魅力を言葉で伝える
この店ではスタッフ全員が熱心にビールについて勉強をする。重ねた知識は定型的なマニュアルではなく一人ひとりが自分で考える言葉で、そのビールの魅力や歴史、文化について客にむけて語る。その語り口は同じものが一つも存在しない。これも店舗の魅力と言えよう。
「スタッフの話す内容が面白くて、代わる代わる話を聞きに訪れるお客様も多いです。話す相手が変われば、同じビールでも見える世界がガラッと変わる、そのことがとても好評ですね」
なるほど、このカウンター越しの会話は、異文化や歴史との媒介になっているようだ。
世界各国の料理とフードに込められる多種多様なスパイス
異文化との媒介はスタッフとの会話だけではない。フードにもふんだんに盛り込まれている。店内に構える釜でグリル料理を調理し、熱々のまますぐに提供できることが自慢。
これぞ『CARVAAN』とも言える、スパイスやナッツ、ドライフルーツをふんだんに使用したタルトフランベ、タジン、カレー料理など、地中海・アラビア料理を中心に世界各国のメニューを揃えており、ビールに負けないくらいに異文化を提供している。
特に、男性でも大満足のボリュームたっぷりのオリジナルのバーガーは、人気の一品だ。自家製の花蜜メロンパンを使用し、牛肉100%のパティを挟む。マヨネーズにはこの店らしくスパイスを効かせたジンジャーマヨネーズを使用している。
気軽に異文化を感じる、街のハブとして存在する
店名の『CARVAAN』の意味するところは、「隊商」。古き時代、隊商は物や文化を運び、繋いできた。この店もまた、飯能という土地のもつ自然の豊かさと、ビールやスパイス、ナッツ、ハーブの持つ土地や歴史、文化の良さをつなぐ場所でありたいと願っている。
誰もがカジュアルに知って楽しむことができる、そんな街の「ハブ」がここにキラリと存在していた。
取材・文・撮影=永見 薫 写真提供=CARVAAN CRAFT BEER & GRIL