お茶を保管していた納屋が緑あふれるカフェに
門を入ると、風が通り抜ける広々とした庭。まるで森の中のように、見上げるほどの大きな木々に緑の葉が揺れている。小径の先には、テラスを配した古い日本家屋がどっしりと構えていた。
店の母体はすぐそばで営業する『青山茶舗』。明治初期創業の老舗日本茶販売店だ。
その『青山茶舗』がかつて使っていた明治24年(1891)築の納屋を改装し、カフェ・ギャラリーとしてスタートしたのが1992年のこと。納屋は長い間使用されていなかったというが、太い木を組み合わせた梁が美しく、古い木には風格が感じられる。
もっとおいしく日本茶を飲んでほしい。カフェに寄せる想い
店長は『青山茶舗』の5代目でもある青山守一さん。日本茶のプロフェッショナルとして、長年日本茶と関わってきたが、売るだけでは伝わらないこともあると感じていた。
たくさんの種類があることや、淹れ方、飲み方など、もっともっと日本茶を知ってほしかったと話す。
その中でも、特に強かったのが「おいしく飲むところに関わりたい」という気持ち。だから、自然な流れでカフェを作ることに向かっていった。
最初はほかの場所にカフェを開くことを考えていたが、オープン1〜2年前の春先のこと。花が咲き誇るこの庭を、多くの人が外から覗いていたという。そこで庭を開放すると、たくさんの人が来て花を楽しんでいった。このことがきっかけで、「この場所でやろう」と決心したという。
納屋の改築は、建築雑誌で「この人なら」と思う建築士を偶然見つけ、依頼した。
古い造りを活かすことをコンセプトとしながら相談を重ね、入り口のテラスなどの新しい部分と、古い木の重みが感じられる落ち着いた空間ができあがった。
たくさんのお茶の中から好みの味を見つける楽しみ
よく飲まれている煎茶は葉っぱの部分で、本茶ともいうそう。茎は茎茶、芽は芽茶、そして仕上げの段階で出た粉は粉茶、と、日本茶はすべての部分がお茶になる。無駄がない。そして、焙煎すればほうじ茶、仕上げの揉みを入れないのがぐり茶、など作り方もさまざま。こんなに種類があるんだな……と改めて感じた。
丁寧に淹れたお茶と、上質な和菓子をセットでいただく
今回は荒茶をいただくことに。荒茶は製茶の途中段階で、仕上げの加工をしていないので、一般的にはあまり流通していない。少しだけ生に近く、茶葉本来の味が楽しめるのが特徴だ。
青山さんが、茶器を温め、丁寧にお茶を淹れてくれた。淹れたてのお茶からは、すうっとさわやかな香りが漂い、鮮やかな緑色が美しい。
一口いただくと、若々しいすっきりとした苦味に、気持ちがしゃっきり整えられる感じ。それでいて、ほっと一息つく気持ちにもなる。
この日の和菓子は、新緑のモミジがモチーフの青楓。和菓子は3〜4日で種類が変わるそう。色や形から季節の移り変わりを感じられる。
お茶は3煎めぐらいまで楽しめるので、自分のペースでゆっくりいただこう。
さまざまなジャンルの展覧会が行われる2階のギャラリー
2階は十分な広さを持つギャラリー。絵画だけでなく、写真や陶器、着物など、ジャンルは多岐にわたる。展示スペースとしての貸し出しに加え、『楽風』の主催する企画展も行っているのは、青山さんと、副店長である弟の正博さんが、アートに造詣が深いからだろう。
作家を見つけてくるのは主に正博さん。作家たちの見せ方や、組み合わせなどを考慮しながらプランを練る。作家の知り合いも増え、安定して年間6本程度の企画展を行えるようになってきた。
カフェだけ、というのではなく、いろいろな表情をもつ場所にしたかったから、ギャラリーの併設は初めから決めていたことだったという。確かに、豊かな四季が楽しめるオアシスのような広い庭、長い歴史を持つ建物、その中でゆっくりお茶を楽しむ時間、そしてアートを楽しめるギャラリー。たくさんの要素が共存してできているのがこの空間だと改めて感じた。
変わっていくものの中で、変わらずにいるということ
「街は変化を続けるが、この店はこれからもずっと変わらずにいたい」と話す。
1986年頃、青山茶舗の5代目となった。同じ茶葉、同じ淹れ方であっても日によって違いが出る日本茶。今でも難しいと思いながら、またそこが面白いという。じっくりと本質を見つめる青山さんと、どっしりと構えるこの建物。深く強いつながりを感じた。
取材・⽂・撮影=ミヤウチマサコ