【コースガイド】
新桐生駅~桐生駅方面間は約3㎞あるので、おりひめバス、または土・日なら無料運行の低速電動コミュニティバス「MAYU」に乗るのも手(運休の場合あり)。わたらせ渓谷鐡道や西桐生駅から上毛電鉄の鉄道旅も楽しい。
アクセス
〔行き〕東武鉄道浅草駅から東武桐生線〔特急りょうもう〕約1時間40分の新桐生駅下車。
〔帰り〕桐生駅からJR両毛線で約1時間の小山駅下車。小山駅から東北新幹線約40分で上野駅。
小高い新桐生駅から見た街は山が近くて驚いた。国道122号へ出ると、天草を天日干しする『心太(ところてん)のかみや』が出現。海がないのに自家製ところ天⁉
「生まれは伊勢でね、いつも岩場で干して、よく食べていたから」と卒寿を過ぎたご店主がにこり。ヘルシーなところ天をすすり群馬名物の焼きまんじゅうも一緒に食べたら、朝の栄養は満タン。本町方面へ北上だ。
ギザギザの屋根は市内に200も⁉
本町通りでは4階建てのレトロビルを発見。大正時代に織物会社が建て、当時は桐生一の高さだったそう。証券会社を経て、今は刺繍(ししゅう)メーカーが『KINARI』を開店。桐生の織物や刺繍が洗練された雑貨となって並ぶ。あ〜、財布のひもが緩む。
1300年前の奈良時代から絹織物が盛んで織物の街として発展した桐生。明治以降は洋装生地にも力を入れ輸出も開始。撚糸(ねんし) 、染め、織り、編み、縫製、刺繍と、繊維関係のあらゆる会社が集結することから“織都(しょくと)”とも称される。街を歩けばそこここに織物工場のノコギリ屋根。レンガ、大谷石、板張りなどと建材も異なり個性的で、市内に約200軒も残る。本町通りの北側には重厚な町家や長屋、蔵や洋建築など、年代も様式も様々な古建築が連なり、かつての繁栄ぶりが伝わる。また、地産の製品ずくめの洋品店があるとか、ブティックが妙に多いのも街の色か。
「桐生は小売店が元気なんです。私も商売をするなら地元がいいと他県から戻ってきました」とは『食と器ming』の水谷なおこさん。のんびりお茶もできるし、使ってみたい器ばかり。お持ち帰りしちゃおうかな。
『織物参考館 紫(ゆかり)』は展示も見ごたえはあるけど売店も充実。製品の端切れや撚糸機(ねんしき)の古道具まで売られ、使い道を考えるだけで楽しい。陶器のしずわは箸置きにしてみたいなあ。
わざと迷子になりたい路地が次から次へと
表通りでも路地でもよく出合う時が止まったような古い建物。価値を見いだされ、店や工房など新たな形で生きる姿が多いのも街の魅力だ。
夕食に立ち寄った古民家の『OKIYA Guest House』もその一つ。「大きな目玉がある街ではなく、小さないいものがちょこちょこある。歩かないと気づかない所が多いから、そういう意味じゃ桐生は絶好の散歩向きでしょう」。店主の高橋さんから話を聞いていると、後ろ髪を引かれる思いになってきた。日帰りの予定だったけど明日も歩いちゃおうか。今夜、泊まれますか?
1 心太(ところてん)のかみや
上州名物との相性もよし!
伊豆や九州の良質な天草から時間をかけて作るところ天専門店。酢醤油をさっとかけて食べる味わいは、独特な清涼感でみずみずしく喉越しよし! 甘党には蜜ときな粉で食べる角切りタイプをぜひ。味噌だれたっぷりのふっかふかの焼きまんじゅうもある。4席のカウンターで食べられるが、持ち帰りも可。
●10:00~16:30、火・水休。☎0277-52-1338
2 Life&Gift KINARI
人にあげたい、自分もほしい逸品ぞろい
大正12年(1923)ごろ築の国登録有形文化財「金善ビル」に開かれたギフト雑貨店。天井高5mもの開放的な店内には、全国選りすぐりのハイセンスな布系小物や生活雑貨が並ぶ。桐生や群馬にちなんだ逸品も多く、みやげにも◎。刺繍会社が営むため、タオルなどの名入れ加工にも対応可能。
●11:00~18:00、水・日休。☎0277-47-6977
3 小さな本やさん ふやふや堂
格子窓に囲まれた一部屋書店
旧織物工場の建物を活用するデザイン事務所の一室でひっそり開かれる書店。仕事で関わった出版社や好きな出版社の本を中心に、絵本、生活や食、群馬・桐生、新着本などと独特なテーマに分かれて陳列される。近所の姉妹店『カイバテラス』内にも同じ取り扱い本が並ぶ書籍コーナーあり。
●月・金12:00~19:00、第1土10:00~16:00営業。☎0277-32-3407
4 桐生新町の町並み
文化財のオンパレード!
桐生新町とは徳川家康の命を受け、桐生の街の造成の礎となったエリアで、今の本町1~6丁目と横山町を指す。特に本町1・2丁目を中心に「桐生新町重要伝統的建造物群保存地」と呼ばれ、江戸~昭和初期の歴史的建物が密集する。
5 桐生天満宮
表だけじゃわからぬ魅力
観応年間(1350年ごろ)、京都・北野天満宮のご分霊が合祀された関東五大天神の一つ。寛政5年(1793)に落成した社殿は、表こそ重厚で質素に見えるが、本殿、幣殿へ回ると派手さにびっくり。極彩色の塗装と精巧で華麗な彫刻は細部までじっくり眺めたくなる。毎月第1土曜には関東三大骨董市として名高い古民具骨董市も開催。
6 ギャラリーレストランARIS(アリス)
鉛筆画に囲まれた、不思議空間食堂
アットホームな店内を埋め尽くす有名人の鉛筆画は、店主・高橋久晴さんの友人の作。どれも緻密でそっくりだ。料理は作りたてにこだわり、ソースカツ丼なら注文を受けてから豚ヒレ肉を切るので、待ち時間は絵画鑑賞を楽しもう。手打ちのひもかわは他店より肉厚で小気味よい弾力!
●11:00~20:00、月休。☎090-7223-1030
7 食と器 ming(ミン)
使いたくなる器ときっと出合える
暮らしになじむ手仕事の器を展示販売するカフェ。取り扱うのは店主の水谷なおこさんが親交のある作り手たちの作品で、自ら陶芸を学んだ岐阜の作家をはじめ、桐生や隣の太田市の作家の品も目にできる。窓の向こうは西桐生駅。上毛電鉄の発着風景を眺めつつのんびりするのもまた一興。
●12:00~16:00(土・日は~18:00)、水・木休。☎080-8733-3246
8 異国調菜 芭蕉
創業80年を超える文化財級食事処
昭和12年(1937)創業から続く民家造りの洋食&喫茶の店。昭和初期活躍した作家・坂口安吾ら地元ゆかりの文化人に愛され、棟方志功による壁画も残る。迷路のような店内には馬好きの初代が集めた馬具や馬モチーフの民芸品が飾られる。
●11:00~16:00ごろ、火・第2または第3水休(祝の場合は翌休)。☎0277-22-3237
9 織物参考館 紫
織物ってすごい! としみじみ実感
八丁撚糸機やジャンボ高機、ジャカード機など、1200点以上の資料を通して、織物産業の歴史が学べる資料館。解説員が丁寧に案内してくれるだけでなく、稼働中の織物工場も見学でき、売店にはオリジナルの織物製品や道具もわんさか。要予約で手織りや染色も体験可。
●10:00~16:00、月休。入館料700円。☎0277-45-3111
【泊まるならここ!】10 OKIYA Guest House
築100年超えの古民家で舌鼓!
桐生生まれの高橋裕子さんとアルゼンチン人のガブリエルさん夫妻が、置屋だった築100年以上の古民家をリノベーション。20年秋にタパスバーとゲストハウスにオープンさせた。約20種そろうアルゼンチンワインと、生地から手作りのピザやパン、エンパナーダ(具入りのパン)が自慢だ。宿泊スペースは全3室で、共用部にはシャワー、トイレ、洗濯機、キッチンが完備。
●IN15:00~・OUT~10:00(タパスバーは18:00~23:00、土は12:00~15:00・18:00~23:00、日は12:00~16:00)、月・火・水休。01泊1人7150円~(休前日8250円~)。☎0277-43-0048
取材・文=下里康子 撮影=原 幹和
『散歩の達人』2021年4月号より