表現はどこから生まれるのか? 世界と美術の交差点を探る

奈良美智《Agent Orange》2006年 アクリル/カンヴァス 162.5 × 162.5 cm 個人蔵 (C) NARA Yoshitomo, 2025。
奈良美智《Agent Orange》2006年 アクリル/カンヴァス 162.5 × 162.5 cm 個人蔵 (C) NARA Yoshitomo, 2025。

日本においてグローバル化が本格的に進展した1989年から2010年。社会的な構造の変化とともに経済的な繁栄によって国際社会で知名度が高まる日本をプラットフォームに、美術館の開館が相次ぎ、オルタナティヴ・スペースの興隆、アーティスト・イン・レジデンスや芸術祭の活況といった同時代の美術を支える土壌が豊かになっていった。その中でどのような作品が生まれていったのかに着目する本展。

「日本を起点に核や戦後の問題と向き合う作品」、「他者との関係を通じアイデンティティを問う試み」、「コミュニティのなかで新たな関係性を構築するプロジェクト」など、アーティストによる実践を紹介することで、日本のアートシーンを彩った革新的な表現に光をあてる。

広報担当者は「本展は、『国立新美術館』と香港のM+のキュレーターが協働し、1989〜2010年に日本で生まれ、発信された美術表現を紹介します。国内外50組以上のアーティストの実践を通じて、社会の変化にひらかれた表現の魅力を感じていただけるでしょう。新しい発見に出会い、見て、考えて、語りたくなる展覧会です」と見どころを語る。

ナムジュン・パイク、ヨーゼフ・ボイス《2台ピアノのためのパフォーマンス》撮影=安齊重男 「『草月ホール』、1984年6月2日【1984年6月2日】 ゼラチン・シルバー・プリント 24.0 × 29.6 cm 国立新美術館ANZAÏフォトアーカイブ (C)Estate of Shigeo Anzaï, 1984. Courtesy of ANZAÏ Photo Archive, The National Art Center, Tokyo」。
ナムジュン・パイク、ヨーゼフ・ボイス《2台ピアノのためのパフォーマンス》撮影=安齊重男 「『草月ホール』、1984年6月2日【1984年6月2日】 ゼラチン・シルバー・プリント 24.0 × 29.6 cm 国立新美術館ANZAÏフォトアーカイブ (C)Estate of Shigeo Anzaï, 1984. Courtesy of ANZAÏ Photo Archive, The National Art Center, Tokyo」。

3つの章(レンズ)で導く複眼的な鑑賞体験

志賀理江子〈螺旋海岸〉より《おかあさんのやさしい手》2009年 発色現像方式印画 180 × 120 cm 『金沢21世紀美術館』蔵 (C)SHIGA Lieko. 画像提供=『金沢21世紀美術館』。
志賀理江子〈螺旋海岸〉より《おかあさんのやさしい手》2009年 発色現像方式印画 180 × 120 cm 『金沢21世紀美術館』蔵 (C)SHIGA Lieko. 画像提供=『金沢21世紀美術館』。

本展は「プロローグ」、「イントロダクション」に続いて、3つの章(レンズ)で構成される。1章では「過去という亡霊」、2章では「自己と他者と」、3章では「コミュニティの持つ未来」といったテーマで展開。鑑賞者はテーマに即した作品と対峙しながらめぐることで、一つの物語ではなく、複数の視点を横断的に体験することができる。

参加アーティストは、会田誠、マシュー・バーニー、蔡國強、クリスト、フランソワ・キュルレ、ダムタイプ、福田美蘭、ドミニク・ゴンザレス=フォルステル、デイヴィッド・ハモンズ、ピエール・ユイグ、石内都、ジョーン・ジョナス、笠原恵実子、川俣正、風間サチコ、小泉明郎、イ・ブル、シャロン・ロックハート、宮島達男、森万里子、森村泰昌、村上隆、長島有里枝、中原浩大、中村政人、奈良美智、西山美なコ、大竹伸朗、大岩オスカール、小沢剛、フィリップ・パレーノ、ナウィン・ラワンチャイクン、志賀理江子、島袋道浩、下道基行、曽根裕、サイモン・スターリング、ヒト・シュタイエル、トーマス・シュトゥルート、束芋、高嶺格、フィオナ・タン、照屋勇賢、リクリット・ティラヴァニャ、椿昇、フランツ・ヴェスト、西京人、山城知佳子、やなぎみわ、柳幸典、ヤノベケンジ、米田知子、ほか。

※姓アルファベット順。

森村泰昌《肖像(双子)》1989年 Cプリント、透明メディウム 210×300cm 『森美術館』蔵 東京 (C)MORIMURA Yasumasa. 展示撮影=武藤滋生。
森村泰昌《肖像(双子)》1989年 Cプリント、透明メディウム 210×300cm 『森美術館』蔵 東京 (C)MORIMURA Yasumasa. 展示撮影=武藤滋生。
束芋《公衆便女》(スチルイメージ)2006年 ヴィデオ・インスタレーション 6分5秒 作家蔵 (C)Tabaimo. Courtesy of Gallery Koyanagi.。
束芋《公衆便女》(スチルイメージ)2006年 ヴィデオ・インスタレーション 6分5秒 作家蔵 (C)Tabaimo. Courtesy of Gallery Koyanagi.。
小沢剛《ベジタブル・ウェポン-さんまのつみれ鍋/東京》 2001年 Cプリント 113.0×156.0cm『国立国際美術館』蔵(C)Tsuyoshi Ozawa。
小沢剛《ベジタブル・ウェポン-さんまのつみれ鍋/東京》 2001年 Cプリント 113.0×156.0cm『国立国際美術館』蔵(C)Tsuyoshi Ozawa。

関連イベントも開催

アーティスト・トーク

2025年9月13日(土)、14~17時より「過去という亡霊」「自己と他者と」「コミュニティの持つ未来」の3つの章(キュレトリアル・レンズ)と、本展の導入にあたる「イントロダクション:新たな批評性」から3名と1組のアーティストが登壇するトークが『国立新美術館』3階講堂で開催。出品作品の制作と発表の背景やその時代に作家は何を経験し、実践していたのか。さまざまな視点から時代と作家たちの表現をリレー形式で検証する。参加費は無料(本展の観覧券が必要。半券可)。出演は森村泰昌、風間サチコ、フィオナ・タン、西京人(小沢剛、ギムホンソック)ほか。詳細は公式HPにて確認を。

シンポジウム

2025年11月7日(金)15~17時にシンポジウムを『国立新美術館』3階講堂で開催。参加費は無料(本展の観覧券が必要。半券可)。詳細は公式HPにて確認を。

開催概要

展覧会「時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010」

開催期間:2025年9月3日(水)~12月8日(月)
開催時間:10:00~18:00(金・土は~20:00。入場は閉館30分前まで)
休館日:火(ただし9月23日〈火・祝〉は開館)・9月24日(水)
会場:国立新美術館 企画展示室1E(東京都港区六本木7-22-2)
アクセス: 地下鉄千代田線乃木坂駅直結、地下鉄六本木駅から徒歩5分
入場料金:一般2000円、大学生1000円、高校生500円
※中学生以下は無料。
※障がい者手帳をお持ちの方と付き添いの方1名は入場無料。

【問い合わせ先】
ハローダイヤル☏050-5541-8660
公式HP https://www.nact.jp/exhibition_special/2025/JCAW/

 

取材・文=前田真紀 ※画像は主催者提供