初午のお祝いに餅をつく習慣があった

稲荷神社に祀られている農耕の神様・稲荷神が2月最初の午の日に降臨したとされることから、2月の初午の日には全国各地の稲荷神社で五穀豊穣などを願って「初午祭」が執り行われる。東京都杉並区の馬橋稲荷神社では、初午祭に合わせて毎年餅つきが行われている。

なぜ餅つきが行われるようになったのか。「元々この辺りは農家だったから、近隣の方々がお稲荷さんを祀っている家でもちつき唄を歌いながら五穀豊穣を祈り餅をつく習慣がありました」と教えてくれたのは馬橋稲荷神社の本橋さん。ところが、宅地化が進むにつれて地域の習慣が薄れていき、戦後すぐの頃からは神社に集まって餅つきが行われるようになった。

神社の境内では、10時頃から古式にのっとって餅つき唄を歌いながら餅をつく。餅つき唄にはおめでたい言葉が盛り込まれていて、土地によって曲は異なるが、歌詞の内容はだいたい同じだという。「地域に伝わる餅つき唄を歌える人がだんだん減ってきているので、ちゃんと歌えるように練習しています」と本橋さんは笑う。

初午の日には五穀豊穣や商売繁盛を願って多くの参拝者が訪れる。
初午の日には五穀豊穣や商売繁盛を願って多くの参拝者が訪れる。

集まった人たちでにぎやかに行うのが大事

「昔は地域に年中餅つきの行事があったので技にも長けていました。『かけづき』といわれる小さな杵で餅をつく技は、かつては4名でテンポよく行っていましたが、今は3名でゆっくりとしたリズムでやっています。大きな杵でつく『本づき』とついた餅をひっくり返す『手返し』なんかも、呼吸がぴったりと合っていてものすごいスピ―ドでしたよ」と本橋さん。「昔のようにはできない」と話すが、氏子総代や婦人会、青年会の人たちなどの協力を得て、古くから続く神事を継続させている。

餅つきは全部で10臼ぐらいを予定。「餅つきは希望者がいればつかせてあげますよ。和気あいあいとやるのが大事ですから」。本橋さんいわく、祭りとは集まった人たちで楽しみながら神様に捧げるもので、昔から地域づくりの重要な役割を果たしていた。この神事はそんな昔ながらの雰囲気を今もしっかりと残している。ついた餅は稲荷神社を称え神前に捧げられる。また15時からは紅白の祝い餅と甘酒が参拝者に振る舞われるので、ぜひ参拝に訪れよう。

つきあがった餅は地域の婦人会が丸めて、神様にお供えする。
つきあがった餅は地域の婦人会が丸めて、神様にお供えする。

開催概要

「初午祭もちつき式」

開催日:2025年2月6日(木)
開催時間:10:00~11:00ごろ(紅白の祝い餅と甘酒の配布は15:00~)
会場:馬橋稲荷神社(東京都杉並区阿佐谷南2-4-4)
アクセス:JR中央線阿佐ケ谷駅から徒歩7分

【問い合わせ先】
馬橋稲荷神社☎03-3311-8588
公式HP:https://www.mabashiinari.org/index.html

 

取材・文=香取麻衣子 ※画像は主催者提供