不遇な環境をものともせず生み出し続けた作品に圧倒される

田中一村 肖像。
田中一村 肖像。

田中一村(1908-1977)の神童と称された幼年期から、終焉の地である奄美大島で描かれた最晩年の作品まで、その全貌を紹介する大回顧展。

自然を主題とする澄んだ光にあふれた絵画は、その情熱の結晶であり、静かで落ち着いた雰囲気のなかに彼の魂の輝きをも宿しているかのよう。本展は、奄美の『田中一村記念美術館』の所蔵品をはじめ、代表作を網羅する決定版。近年発見された資料を多数含む構成により、この稀にみる画家の真髄に迫り、「生きる糧」としての芸術の深みにふれようという試みになっている。

未完の大作も。工芸品なども含む250件を超える作品が一堂に

「椿図屏風」 昭和6年(1931)絹本金地着色 2曲1双 『千葉市美術館』蔵。
「椿図屏風」 昭和6年(1931)絹本金地着色 2曲1双 『千葉市美術館』蔵。

生涯に一度も個展などの形で作品を発表することなく、無名のまま奄美で没した一村。三回忌に奄美の人たちの手で行われた展覧会を機に知られるようになり、1984 年にNHK教育テレビ「日曜美術館」が取り上げて大反響となった。以降、評伝や画集が何度も編まれ、2001年には鹿児島県が主要な作品を収集して「奄美パーク」に『田中一村記念美術館』が開館した。

「最後は東京で個展を開いて、絵の決着をつけたい」と述べたという一村。ついにその機会となる本展は、絵画作品を中心に、スケッチ・工芸品・資料を含む250件以上の作品が一堂に会し、一村の回顧展として最大規模の展覧会となる。

奄美で描かれた代表作『不喰芋(くわずいも)と蘇鐵』『アダンの海辺』はじめ、未完の大作も展示されるので必見だ。

「残された作品から、背後にあった人々との関係性や、生涯の集大成への道筋とその思想を探ってきた経過をあらためて提示し、時を越えて人々を魅了する普遍性を描き得たのはなぜか、一村とは何だったのかに迫ることができたらと思います。激変の40年のうちに、一村は伝説化を繰り返し、それぞれに『私の一村』像も築かれてきたことでしょう。これからもっと多くの人々が、不屈の情熱の軌跡に触れ、その先にある奄美の光に満ちた絵画の魂を見出していただけたらと願っています」(監修者・松尾知子氏)

緻密かつダイナミックな作品群に触れ、その魅力を体感してみよう。

「奄美の海に蘇鐵とアダン」 昭和36年(1961)1月 絹本墨画着色 『田中一村記念美術館』蔵。
「奄美の海に蘇鐵とアダン」 昭和36年(1961)1月 絹本墨画着色 『田中一村記念美術館』蔵。
「ずしの花」 昭和30年(1955) 絹本着色 『田中一村記念美術館』蔵。
「ずしの花」 昭和30年(1955) 絹本着色 『田中一村記念美術館』蔵。
「不喰芋と蘇鐵」 昭和48年(1973)以前 絹本着色 個人蔵。
「不喰芋と蘇鐵」 昭和48年(1973)以前 絹本着色 個人蔵。
「白い花」 昭和22年(1947)9月 紙本金砂子地着色 2曲1隻 『田中一村記念美術館』蔵。
「白い花」 昭和22年(1947)9月 紙本金砂子地着色 2曲1隻 『田中一村記念美術館』蔵。

一村の魅力に迫る、監修者による記念講演会も開催

10月20日(日)記念講演会第2回「田中一村 不屈の情熱の軌跡」

登壇者に監修者で、『千葉市美術館』副館長である松尾和子氏を迎え、記念講演会第2回「田中一村 不屈の情熱の軌跡」を10月20日(日)14時~15時30分、『東京都美術館』講堂(交流棟 ロビー階)で開催。定員は225名、聴講無料。展覧会公式サイトにて事前予約を。

開催概要

「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」

開催期間:2024年9月19日(木)~12月1日(日)
開催時間:9:30~17:30(金は~20:00。入室は閉室の30分前まで)
休室日:月(ただし9月23日・10月14日・11月4日は開室)・9月24日(火)・10月15日(火)・11月5日(火)
会場:東京都美術館(東京都台東区上野公園8-36)
アクセス:JR上野駅から徒歩7分、地下鉄銀座線・日比谷線上野駅から徒歩10分、京成電鉄京成本線京成上野駅から徒歩10分
入場料:一般2000円、大学生・専門学校生1300円、65歳以上1500円、高校生以下無料。
※身体障害者手帳などの手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)無料。
※土・日・祝および11月26日以降は日時指定予約制

【問い合わせ先】
ハローダイヤル☏ 050-5541-8600
展覧会公式サイト  https://isson2024.exhn.jp/

取材・文=前田真紀 ※画像は主催者提供