小野川沿いを巨大山車が巡行「佐原の大祭秋祭り」
千葉県香取市/10月10日(金)~12日(日)
小野川西側の新宿地区で諏訪神社の秋祭りとして14台の山車が曳(ひ)き廻される。佐原の山車は二層で上部に約5mの大人形を載せているのが特徴。下座連と呼ばれる十数人の囃子(はやし)方が中天井に乗って、日本三大囃子に数えられる佐原囃子を奏でる。佐原では山車同士が動きながらの曳き違いはしないという約束がありお囃子の競演はないが、前の一輪だけに重心をかけて右回りに山車を回す「のの字廻し」などの豪快な曲曳きが見どころ。
“すっごい”ポイント
電柱がやたら高かったり、信号が縦型だったりと山車が運行できるよう街がお祭り仕様に。のの字廻しやそろばん曳き、小判廻しと呼ばれる曲曳きには商都の名残が感じられる。
●JR成田線佐原駅すぐ
江戸天下祭の伝統を今に伝える「川越まつり」
埼玉県川越市/10月18日(土)・19日(日)
江戸の天下祭の影響を強く受けて発展したといわれる、川越氷川神社の例大祭で見られるのは江戸系川越型山車。29台ある山車の中で2025年は16台が参加予定。小江戸と呼ばれる蔵造りの町並みを豪華な装飾が施された山車が巡行する。見どころは山車同士がすれ違うときに行われる町どおしの挨拶「曳っかわせ」。山車同士が向き合ってお囃子と踊りを披露すると周囲は熱気に包まれる。18日には現在の山車行事の原型となった神幸祭が行われる。
“すっごい”ポイント
江戸の流れを汲(く)む川越の山車は多くの囃子台が回転式で、曳っかわせの際はくるっと向かい合わせに。人形を載せた大きな山車が蔵造りの町並みを通る様子は迫力たっぷり!
●JR・東武鉄道東上線川越駅、西武鉄道新宿線本川越駅すぐ
日光東照宮の職人技が息づく「鹿沼秋まつり」
栃木県鹿沼市/10月11日(土)・12日(日)
今宮神社の例祭では“動く陽明門”と称される、全面を精巧かつ豪壮な彫刻で飾られた最大27台の彫刻屋台が運行。かつて界隈(かいわい)は江戸と日光を結ぶ宿場町で、日光東照宮を手掛けた彫刻師が冬に下山して制作したともいわれる。すべての彫刻屋台が古峯原宮通りに並ぶ屋台展示では、屋台を360度回す「一斉きりん」が見どころ。また複数の屋台が交差点で披露する「ぶっつけ」では、相手のお囃子に惑わされないように激しいお囃子合戦が繰り広げられる。
“すっごい”ポイント
彫刻屋台のうち半数は江戸期の制作。黒漆塗りの屋台に彩色の彫刻が施されていたものが幕府の禁令などにより白木造白木彫刻に置き換わるなど、装飾や構造から時代の変遷が見て取れる。
●東武鉄道日光線新鹿沼駅から徒歩10分
そもそも山車とは?
全国33の山車祭りが「山・鉾(ほこ)・屋台行事」としてユネスコ無形文化遺産に登録。そもそも山車ってなんだろう?
筆者(私)の夫の父上は大の祭り好き。教えてください、山車のこと。
私 お義父さんは、佐原の祭りで山車に乗っていたことがありましたよね。
義父 下座連で19~25歳は笛を吹き、48~68歳は小鼓を打っていたよ。
私 そんなに! 山車祭りは全国各地にありますが、佐原の山車の特徴は?
義父 そもそも「山車」という言葉は江戸の方言。佐原だと「屋台」「幣台(へいだい)」なんて呼ばれていた。佐原型は四輪二層構造で、江戸の経済圏にありながら江戸型とは異なる独自型。下の層には下座連と呼ばれる囃子(はやし)方が乗り込んで、上の層には大人形が飾られているよ。
私 約5mもある人形があるって聞いたことがあります。ちなみに江戸型山車とは?
義父 初期の江戸の山車は一本柱笠鉾(かさほこ)といって、二輪の台車の中央に高くそびえる一本柱を立て、その頂に神様が降りてくる目印となる依代(よりしろ)をつけたシンプルなものだった。神様を呼んで街を練り歩いて喜ばせるというのが祭りの基本。依代として榊(さかき)や御幣、人形などの飾りを出すことから「出シ(出し)」といわれ、現在の表記になったのは明治時代なんだ。
江戸で栄えた山車文化
義父 しかし八代将軍徳川吉宗が祭りを制限するようになると、弾圧から逃れるために踊りと囃子が一緒だった大型の屋台を踊り屋台と底抜け(囃子)屋台に分けたりしている。幕末には、江戸城の門を潜れるように人形を二層目に格納できるせり出し付きの三層構造が主流に。川越の山車は天下祭の影響を受けていて江戸型に近い。ちょっと変わったところでは、見事な彫刻で彩られた栃木県鹿沼の彫刻屋台も有名。明治時代になって街に電線がひかれ、東京では神輿が中心になっていったんだ。
私 山車にも地域性があるんですね。お囃子はどうでしょう?
義父 江戸囃子は大太鼓、締太鼓2台、篠笛(しのぶえ)、鉦の5人で演奏される。川越は江戸囃子の中の葛西囃子が主流。鹿沼は江戸囃子の変型といわれる五段囃子。佐原は笛が5~6人、大太鼓、小太鼓、大鼓、小鼓4~5人、すり鉦(がね)と15人ほどいて、お囃子も独自なんだ。
私 私には、どのお囃子も同じように聞こえますが……。
義父 使われる楽器は大体一緒だけど、地域によってテンポやニュアンスが全然違うからじっくりと聞いてみて。先日も朝4時30分に起きて、朝イチでお気に入りの神輿と江戸囃子を聴きに行ったよ(笑)。
では麻衣子さん、いい原稿を期待しています。
取材・文=香取麻衣子
『散歩の達人』2025年9月号より
※掲載の祭り情報は2025年7月末時点のものです。お出かけ前に最新情報を必ずご確認ください。





