立ち呑 脱藩酒亭 新橋浪人
にごりも季節で醪の造りを変える、広島県・三宅本店「千福」
店主の芳賀徳之信さんは、蔵人として千福を醸していたが、2011年、蔵元が直営店を出すと決めた際、白羽の矢が立った。以来、見知った人のいない東京砂漠で孤軍奮闘。やがて、広島出身者の集合場所となり、東京で千福が飲めると評判に。しかも、普通酒から大吟醸まで、地元・広島人たちも納得の価格。人気席は、芳賀さんが目の前に立つカウンターだ。
「にごり酒も冬と夏じゃ、醪(もろみ)の造り方を変えていて、アルコール度数も違うんですよ。冬は14度でぬる燗にしてもベタベタ甘くないし、夏は12度で飲み口すっきり」。軽妙な芳賀さんの酒話や、東京じゃ滅多(めった)に口にできない呉のご当地グルメ・がんすをつまみに、酒がするする喉元を滑りゆく。
『立ち呑 脱藩酒亭 新橋浪人』店舗詳細
居酒屋ほまれ
能登の風土と技が育んだ甘み、石川県・御祖(みおや)酒造「ほまれ」「遊穂(ゆうほ)」
飲み屋ひしめく神田の路地に、1985年から蔵元が直営する居酒屋がある。のどかな中能登町の小さな蔵だからこそ、「東京で知ってもらえるように」始めたと、店長の松本和夫さん。地元誉れの酒「ほまれ」に、2代目の藤田美穂さんと能登杜氏の横道俊昭さんが手がけ、品評会で最高金賞を何度も受賞した「遊穂」が自慢だ。まずは地元定番の本醸造「ほまれ」を。能登の粗塩ともろみそが供され、口中の塩辛さを拭うように、米の旨味がじわり。「遊穂」の雑味のない味も捨て難し。
開業当初は何でもありだったと笑う料理は、どんと塊で出す豪快なぶり大根に、フグの卵巣を毒消しに糠で3年、塩で1年漬けた珍味、イカの魚醤・いしるの鍋など、今や能登の味が満載。
『居酒屋ほまれ』店舗詳細
樽平 神田店
吉野杉の樽で寝かせた純米辛口、山形県・樽平酒造「樽平(たるへい)」「住吉」
暖簾(のれん)をくぐると、コの字カウンターで妙齢の紳士たちが独酌を楽しんでいる。元禄年間創業の山形の酒蔵が、昭和5年(1930)、直営酒場の先駆けとして神楽坂で開業。現在は、銀座とここ神田の2店舗を営む。酒は2銘柄4種が主力看板だ。辛口の「住吉」と、辛口ながら旨味のある「樽平」で、金は山田錦を、銀はササニシキを用い、どれも吉野杉の樽で1週間ほど寝かせた樽酒。「住吉のほうが人気ですが、私は常温の樽平が好きでねぇ」と、店長の原田喜久也さん。ほんのり黄味がかった色と香りに、誰もがほくそ笑む。
酒肴は多彩だが、山形名物ははずせない。玉こんにゃくは干しイカの出汁がしっかり染み、芋煮はこっくりとした味で、こりゃ2合じゃ済まないな。
『樽平 神田店』店舗詳細
八海山千年こうじや
軟らかな水で仕込む淡麗な味わい、新潟県・八海醸造「八海山」
直営店はいくつかあれど、カウンターであれこれ飲める日本酒バーは希少な存在だ。本醸造、吟醸などに加え、三段仕込みの最後に、水ではなく酒で仕込む、ほんのり甘い貴醸酒や、発泡にごりなどもずらり。迷ったら、3セットある呑み比べセットで3種を利いて。八海山の仕込み水は、霊峰八海山の伏流水。超軟水ゆえに、すっきりきれいな淡麗旨口になるというが、酒の味の多彩さには驚かされる。
また、酒蔵料理もいい。仕込み水と同じ伏流水で育った八海山サーモンや、越後もち豚などが用いられ、酒造りから生まれた麹や酒粕によって旨味を増幅。すかさず杯を傾ければ、酒の底力を思い知る。さらに、壁一面の販売棚には限定酒やあまさけが。見逃せない。
『八海山千年こうじや』店舗詳細
酒ノみつや
ここは酒の宝箱? 150種の圧巻の品揃え
「小売りの酒屋さんが元気がない」なんて最近聞くが、この店を見ると「店次第?」と思う。輸入ビールやカリフォルニアワインの充実でも有名だが、日本酒も壮観。約150種の品揃えには、レアな銘柄がずらり。質問すればどんな酒かをすらすらと答えてくれる。
「超一流の蔵元の酒ばかり売れても面白くない。僕はマニアックな蔵元に魅力を感じます」とは店主の三矢治さん。「蔵元を訪れて直接交渉を?」と聞くと、「ですね」とさらり。そこへすかさず「治さんはすごいんですよ。蔵元から信用されるために、まずはお金をかけて立派な冷蔵庫を作ったんだから」と常連さん。「俺より詳しいじゃねえか」と笑いつつ、「日本酒は保存状態が大事だからね」。“小売店のマイスター”と勝手に表彰したい。
『酒ノみつや』店舗詳細
角打ちフタバ
酒がつなぐ、地元コミュニケーション
創業70年の酒屋が角打ちを始めたのは、2013年のこと。酒離れが進む折、酒に親しめ、交流が図れる場を作るべくスペースを設けた。ぜひトライしたいのは、地元の町名を冠したオリジナル日本酒「江戸 鳥越」。“生まれ育った町を活気づける酒を造りたい”という思いから、店長・関明泰さんが企画し、誕生に至った。
月一度催す試飲会で振る舞った銘酒もメニューに登場。月毎にラインナップが変わり、“めっけもん”に遭遇できる。
『角打ちフタバ』店舗詳細
構成=フラップネクスト 取材・文=佐藤さゆり(teamまめ)、菊野令子、沼 由美子 撮影=オカダタカオ、丸毛 透、金井塚太郎