生きるための本を受け継いでいく『ほん吉』
天井近くまでのびる棚に並ぶのは、料理など生活に近しいものから、思想・歴史などの専門書まで。開店以来、力を入れているのは店内右側の列と突き当たりの区画で、精神医学やジェンダー、人文・思想の本が充実している。
「近所のお店で分厚く揃えている分野はそちらに譲って、自分の店に来てくれるお客さんに向けて球を投げる」と店主の加勢理枝さんは話す。その真っ直ぐな姿勢に相対し、安心して球を受けとめることができる。
『ほん吉』店主の加勢さんがお隣・『古書ビビビ』で購入した本
「洋書の編み物の本です。日本のものと違うのは、編み方を文章で書いているところ。詳細な編み図より、文章で手順を書いてあるほうが、私は分かりやすいんですよね。思わぬ編み方が載っていたりするので楽しいです」
『ほん吉』店舗詳細
美しく混沌としたワンダーランド『古書ビビビ』
店主の馬場幸治さんは、元古本ハンター。かつては古書店を1日10軒以上回って掘り出し物を探していた。その献身と鑑識眼が今の店にも息づいている。お客さんからの買い取りだけで成り立つ品揃えは何かのジャンルが抜きん出ているわけではなく、日々流動的だ。だが素通りできない熱がある。本を買う人、本を売る人、自作の本を置いている人、それぞれが「古書ビビビ」の熱に引き寄せられて店を訪れ、本が回っていく。
『古書ビビビ』店主の馬場さんがお隣・『古書明日』で購入した本
5冊購入(写真は一部)。「上/函入りの漫画で表紙もかわいらしいので。中/シンガーソングライターとしての楳図かずお先生のインタビュー記事だけで価値あり。下/新日本プロレスの坂口征二が、本好きだという記事目当てです」
『古書ビビビ』店舗詳細
親しみやすい日常づかいの店『古書明日』
店主の田中大士さんが「いろいろなジャンルの本が、ちょっとずつある」と話すように棚に並ぶ本は変化に富み、隅々まで見る楽しさがある。古書組合の市場で田中さんが面白そうだと感じた本を仕入れ、なるべく定価より低く値付けするというスタンスで、古本といえどもいつも新鮮な品揃えが魅力だ。戦前の本の棚もあり、小説や学術書など、時代の空気の記録として思いがけない発見がある。古本の醍醐味が詰まっている。
『古書明日』店主の田中さんがお隣・『クラリスブックス』で購入した本
「上/カラーブックスのシリーズは時代を感じる写真がたくさんあって楽しいです。中/橋本治が好きで久しぶりに読んでみようと。下/鴨居玲はいちばん好きな日本の洋画家。姉の羊子さんとの関係を書いた本に興味がありました」
『古書明日』店舗詳細
オープンから11年を経て街に根づく『クラリスブックス』
開店は2013年。当初から、店主の高松徳雄さんが興味をもつ哲学、思想、社会学の分野には力を入れていたが、場所柄、デザイン事務所や、ファッション関係のスタジオが多く、アート関連・写真集の取り扱いが増えた。「全体的に、お客さんからの買い取りも増えました。それによって最近はミステリーやサスペンスが充実してます」。店が街になじみ、広く認知されることで、品揃えが刻々と変わっていく。古書店は生きものだ。
『クラリスブックス』店主の高松さんがお隣・『ほん吉』で購入した本
「ポーランドのSF作家スタニスワフ・レムの作品集『レム・コレクション』の1冊です。レムは何作か読んだことがあって、面白いんです。ほん吉さんだと、60年代の映画雑誌かなと思ったけど、自分の趣味で選びました」
『クラリスブックス』店舗詳細
取材・文=屋敷直子 撮影=山出高士
『散歩の達人』2025年1月号より