生きるための本を受け継いでいく『ほん吉』

長く読み継がれてきた本が並ぶ。
長く読み継がれてきた本が並ぶ。

天井近くまでのびる棚に並ぶのは、料理など生活に近しいものから、思想・歴史などの専門書まで。開店以来、力を入れているのは店内右側の列と突き当たりの区画で、精神医学やジェンダー、人文・思想の本が充実している。

「近所のお店で分厚く揃えている分野はそちらに譲って、自分の店に来てくれるお客さんに向けて球を投げる」と店主の加勢理枝さんは話す。その真っ直ぐな姿勢に相対し、安心して球を受けとめることができる。

加勢さんが羽織るケープはお手製。
加勢さんが羽織るケープはお手製。
ジェンダーの棚には「性暴力救援ダイヤル」の番号が貼付。
ジェンダーの棚には「性暴力救援ダイヤル」の番号が貼付。

『ほん吉』店主の加勢さんがお隣・『古書ビビビ』で購入した本

「洋書の編み物の本です。日本のものと違うのは、編み方を文章で書いているところ。詳細な編み図より、文章で手順を書いてあるほうが、私は分かりやすいんですよね。思わぬ編み方が載っていたりするので楽しいです」

『ほん吉』店舗詳細

住所:東京都世田谷区北沢2-7-10 上原ビル1F/営業時間:12:00~21:00 ※変更あり/定休日:火/アクセス:小田急電鉄小田原線・京王電鉄井の頭線下北沢駅から徒歩5分

美しく混沌としたワンダーランド『古書ビビビ』

下北沢で20年営業。
下北沢で20年営業。

店主の馬場幸治さんは、元古本ハンター。かつては古書店を1日10軒以上回って掘り出し物を探していた。その献身と鑑識眼が今の店にも息づいている。お客さんからの買い取りだけで成り立つ品揃えは何かのジャンルが抜きん出ているわけではなく、日々流動的だ。だが素通りできない熱がある。本を買う人、本を売る人、自作の本を置いている人、それぞれが「古書ビビビ」の熱に引き寄せられて店を訪れ、本が回っていく。

平台には小出版社の本やZINEなど。
平台には小出版社の本やZINEなど。
VHSビデオの映画も買い取り、再生を確認した上で販売。
VHSビデオの映画も買い取り、再生を確認した上で販売。
高塚Qさんの漫画が好きすぎて馬場さん自ら復刊した1冊。
高塚Qさんの漫画が好きすぎて馬場さん自ら復刊した1冊。

『古書ビビビ』店主の馬場さんがお隣・『古書明日』で購入した本

5冊購入(写真は一部)。「上/函入りの漫画で表紙もかわいらしいので。中/シンガーソングライターとしての楳図かずお先生のインタビュー記事だけで価値あり。下/新日本プロレスの坂口征二が、本好きだという記事目当てです」

『古書ビビビ』店舗詳細

住所:東京都世田谷区北沢1-40-8 土屋ビル1F/営業時間:12:00~20:00/定休日:火/アクセス:小田急電鉄小田原線・京王電鉄井の頭線下北沢駅から徒歩4分

親しみやすい日常づかいの店『古書明日』

2017年に開店。入り口は左右2カ所ある。
2017年に開店。入り口は左右2カ所ある。

店主の田中大士さんが「いろいろなジャンルの本が、ちょっとずつある」と話すように棚に並ぶ本は変化に富み、隅々まで見る楽しさがある。古書組合の市場で田中さんが面白そうだと感じた本を仕入れ、なるべく定価より低く値付けするというスタンスで、古本といえどもいつも新鮮な品揃えが魅力だ。戦前の本の棚もあり、小説や学術書など、時代の空気の記録として思いがけない発見がある。古本の醍醐味が詰まっている。

店内右側は、画集や雑誌など。
店内右側は、画集や雑誌など。
戦前に発行された本。古いから価格が高いとは限らない。
戦前に発行された本。古いから価格が高いとは限らない。

『古書明日』店主の田中さんがお隣・『クラリスブックス』で購入した本

「上/カラーブックスのシリーズは時代を感じる写真がたくさんあって楽しいです。中/橋本治が好きで久しぶりに読んでみようと。下/鴨居玲はいちばん好きな日本の洋画家。姉の羊子さんとの関係を書いた本に興味がありました」

『古書明日』店舗詳細

住所:東京都世田谷区北沢3-21-1 1F/営業時間:12:00~20:00/定休日:月/アクセス:小田急電鉄小田原線・京王電鉄井の頭線下北沢駅から徒歩7分

オープンから11年を経て街に根づく『クラリスブックス』

高松さん(左)と石村光太郎さんのふたりで営む。
高松さん(左)と石村光太郎さんのふたりで営む。

開店は2013年。当初から、店主の高松徳雄さんが興味をもつ哲学、思想、社会学の分野には力を入れていたが、場所柄、デザイン事務所や、ファッション関係のスタジオが多く、アート関連・写真集の取り扱いが増えた。「全体的に、お客さんからの買い取りも増えました。それによって最近はミステリーやサスペンスが充実してます」。店が街になじみ、広く認知されることで、品揃えが刻々と変わっていく。古書店は生きものだ。

ミステリーの棚には同人誌も多数。
ミステリーの棚には同人誌も多数。
2階への階段を上るとまず均一コーナー。
2階への階段を上るとまず均一コーナー。
映画のことを書きたくて店でZINEを発行。
映画のことを書きたくて店でZINEを発行。

『クラリスブックス』店主の高松さんがお隣・『ほん吉』で購入した本

「ポーランドのSF作家スタニスワフ・レムの作品集『レム・コレクション』の1冊です。レムは何作か読んだことがあって、面白いんです。ほん吉さんだと、60年代の映画雑誌かなと思ったけど、自分の趣味で選びました」

『クラリスブックス』店舗詳細

住所:東京都世田谷区北沢3-26-2-2F/営業時間:12:00~20:00(日は~18:00)/定休日:月・祝/アクセス:小田急電鉄小田原線・京王電鉄井の頭線下北沢駅から徒歩3分

取材・文=屋敷直子 撮影=山出高士
『散歩の達人』2025年1月号より