『しずる 経堂店』確かな腕と上質な空間、神接客でリピート必至[経堂]
目の前で焼き上げられた肉が熱々の鉄板にのせられて運ばれてくると、ジュウジュウ響く音が食欲をそそる。オープンキッチンの臨場感と奥行きのある重厚なテーブルのおかげで、定食屋というより鉄板焼き店のようだ。
看板メニューは牛ハラミやハンバーグだが、ボリューム目当てならチキン! 皮はパリッとして中はしっとり柔らかく、火入れが最高だ。「肉の良し悪しも関係あるけど、下処理や火加減などちょっとしたことの積み重ねですね」とは、店主の大森崇さん。原宿にある本店を経て25年以上というグリルの腕を実感する。定食に付く麦ごはんや水のおかわりなどを、やさしい笑顔でこまめに対応してくれる妻・淑恵さんの至れり尽くせりの気配りにも気分が上がる!
『しずる 経堂店』店舗詳細
『とんかつ・天ぷら 山之内』農大生のために生まれた満腹になれる極厚かつ丼[千歳船橋]
東京農業大学の間近に店を構えて半世紀以上。開業時は割烹(かっぽう)料理店だったが、昼のカツ丼が人気で夜も出すようになり、今では農大の食堂のような存在だ。名物は、その名も「農大カツ丼」。
「旨味が強く脂身が多くて食べ応えのある三枚肉(バラ肉)を使っています。学生さん向けに考えたものだったので分かりやすくしようと、学校にお願いして“農大”と付けさせてもらったんです」とは、店主の山内行雄さん。
お箸でカツを持ち上げると肉だけでなく衣も厚く、ずっしりと重い。相撲部の学生の「もっと厚く!」という声を受けて、粉の後に付ける卵にも小麦粉を加えるようになったそう。つゆが染み込んだ衣だけでもごはんが進む。ぜひおなかをすかせて訪れたい。
『とんかつ・天ぷら 山之内』店舗詳細
『中国菜館 岡田屋』密かな改良を重ねてさりげなく進化[祖師ヶ谷大蔵]
1956年創業のここを訪れる人のほとんどが頼む餃子は、厚みのあるもちっとした皮とみっちり包まれた肉餡が独特の香り。餃子と一、二を争う人気の炒飯は、ふんわりしながら口の中でぱらりとほぐれる絶妙な炒め加減だ。3代目の岡田亮祐さんいわく「先代が作った味をベースにしてますが、時代に合わせながら気づかれないように味を調節しています」。
同じく少しずつ手を入れているのが、店内の壁や床。女性1人でも入りやすいように清潔感を大切にしているという空間は、大きい窓から自然光が降り注いで気分がいい。代々続く丁寧な味にこの清らかな雰囲気が加わり、なじみの客はもちろん、子供連れや若い男女など次世代のファンも着実に増えている。
『中国菜館 岡田屋』店舗詳細
『成城洋食 まる・まーる』成城で数少ないほっと安らぐ町洋食[成城学園前]
今はなき銀座の名店「胡椒亭」で働いていたご主人。腰を痛めて広告業界に入ったが、好きなことで締めくくりたいと2009年に再び洋食の世界へ。共に店に立つ妻の典子さんが「慣れ親しんだ成城に、1人でゆっくり食事できる個人店が減っていくのを見て、地元の方が必要としている場所を作りたいと思ったのもきっかけです」と教えてくれた。
注文を受けてから成形する名物のハンバーグは肉感がありながらジューシーで、奥行きのある香りに魅了される。タネに練り込んだ炒めタマネギやキノコ類のペーストが隠し味とか。「お客さまの様子を見ながら、どういう接し方がいいかしら?と考えるのが楽しいの」と笑う典子さんの、空気を読む接客もこの店の知る人ぞ知る名物だ。
『成城洋食 まる・まーる』店舗詳細
取材・文=井島加恵 撮影=佐藤侑治、井原淳一(『成城洋食 まる・まーる』)
『散歩の達人』2024年9月号より