日本初のビール工場は大井町にあった⁉ 世に知られる日本初は横浜の醸造所で、しかも結局、稼働に至らず幻と化したが、明治2年(1869)にこの街でビール旋風が起きていたとは驚きだ。「そんな地元でやりたい」とクラフトビール専門バーを旗揚げしたのは、『Canal brewing』の濱口恵さん。スタッフも「女性一人でサク飲みできる場が大井町にできました」と誕生を喜ぶ。『大井町PUB 810』の狩野有希さんは、「2018年ごろは扱う店があまりなかったけど、ビールにお客さんが付いてきました」と、相好を崩す。
「大井町は自由な街。小さな店ばかりですが、それぞれ魅力があります」
確かに、他の店でも北海道産に特化していたり、大衆酒場や横丁で樽生が飲めたりと、シチュエーションはさまざま。しかも、産地の幅も広い。『ITALIAN BAR GADGET』ではイタリアの「バラデン」製だけで7種も揃え、『KAMACHO』では、ウクライナやノルウェーなど、他とは異なるラインナップにも出合える。オーナーのマリアさんは「みんな、自分の国のビールを教えてくれます」とニンマリ。
多種多様な産地とビールタイプが勢揃い。大井町のクラフトビール熱はますますヒートアップする予感だ。
『Canal brewing』醸造を視野に入れる立ち飲みビアバー
LAでクラフトビールにハマった濱口恵(けい)さん。情熱を抑えきれず、各地で飲みまくってセレクトし、2023年5月に専門店を開いた。樽替わりで銘柄を変え、訪れるたびに新味に出合える楽しさよ。また、4サイズのグラスを揃え、少量からあれこれ味わえる。限定醸造の缶・ボトルも約30種あり、国産の幅広さには目を見張るばかり。さらに、醸造も学んだ濱口さんのオリジナルレシピ誕生も間近。2024年春に開栓予定だ。
『Canal brewing』店舗詳細
『大井町PUB 810(ハチイチマル)』もう1杯、の店で厳選銘柄の底力に感服
鉄板料理『八天』の真裏にあり「裏八天」の異名をもつのは、営業日不定の隠れ家的パブ。「以前はもっと多かったけど、客の好みに合わせて絞りました」と話すのは、代表の狩野有希さん。箕面、九十九里オーシャンビールなど国産を軸に約8種と厳選。メニューにない限定醸造のゲストビールをさりげなく勧めてくれることも。軽い一品料理や駄菓子をつまみに、もう1杯飲みたい気分の時、立ち寄りたくなる。
『大井町PUB 810』店舗詳細
『ITALIAN BAR GADGET(イタリアン バール ガジェット)』料理とともに味わうのがイタリア流
「イタリアのクラフトビールは食中酒です」。2021年の開業当初はアメリカ産が主だったが、イタリアン出身の山吹俊介さんが店長を任されて以来、料理とともに楽しむ味を求め、イタリア初のクラフトビール「バラデン」製を軸に据えた。小麦系などフルーティーなタイプは香りも味わえる丸いグラスを、IPAなど飲み応えのあるタイプはビールグラスを添えて提供。「柑橘入りで、ワインに近い感覚で飲めますよ」。
『ITALIAN BAR GADGET』店舗詳細
『KAMACHO』ビール片手にワールドワイドな夜
世界のビールが冷蔵庫にぎっしり。気になったラベルを自分で取り出すシステムだ。オーナーのマリアさんは「ビールが一番好き」と、郷里のアメリカ産を主流に揃えていたが、スペイン、ノルウェー、フィリピンなど、歴代スタッフの出身地産も置くように。近年は外国人客の日本産要望も高く、「今は半々かな」。フレンドリーなスタッフが英語と日本語を橋渡しして、ボーダレスなビール談義が夜更けまで続く。
『KAMACHO』店舗詳細
取材・文=林さゆり 撮影=小野広幸
『散歩の達人』2024年1月号より