『キクヤ』飽くなき好奇心がワクワクの原動力[三軒茶屋]
マスタードシードで漬け込んだ新大根の浅漬けやエスニックな香りが広がるおひたしなど、前菜から個性的。おでんはサンバルと和風出汁を合わせ、いか玉は普通のお好み焼きかと思いきや仕上げにパルメザンチーズを振りかけて、九条ネギたっぷりのふわふわ新食感! ワクワクするメニューが並ぶが、店主の三木さんは元々調理経験がなく、「大阪出身=お好み焼き」という発想が始まりだったとか。途中で調理技術を磨こうと飲食店で修業し、その過程でスパイス料理と出合って遂にクラフトビールまで造るように。「思いつきで動いているだけ」と三木さんは笑うが、訪れたお店で気になる料理があればメモするなど、実はコツコツ積み重ねてきた集大成が『キクヤ』なのだ。型にはまらない自由さが楽しくて仕方ない!
『キクヤ』店舗詳細
『かまびす』滋味深い料理と楽しむ蒸留酒の世界[清澄白河]
店主は『虎ノ門蒸留所』で蒸留家として働く一場鉄平さん。「料理もお酒もおいしくて値段のバランスがいいと思うお店がない。じゃあ自分で作ろう」というのがオープンのきっかけだという。料理は、『虎ノ門蒸留所』で共に働いていたもみさんが担当。和食やビーガンの経験があるため、素材や調味料の使い方が実に繊細。例えば、軟骨ソーキの煮込みの味付けは塩のみなのに、発酵白菜や豚肉の滋味深さが身に染みる。合わせるクラフトジンのおすすめの飲み方は、なんとお湯割り! 深いうまみと溶け合いながら、赤丸薄荷(はっか)のふんわり立ち上がる爽快な香りの余韻がいい。体になじむようなやさしい味の料理とクラフトジンがこんなに合うなんて。驚きと心地良さが見事に共存。これこそグッとくる酒場に欠かせない要素だ。
『かまびす』店舗詳細
『酒肴 あおもん』店の活気と細やかな心配りが人を呼ぶ[五反田]
口の中でサクサクという軽快な歯触りが響くアジフライ。まさに、メニュー名にも謳っているとおり、重さゼロ! 火入れに2種類あり、レアは内側がしっとりとして、完熟は身がふわふわだ。薄〜くまとったきめ細かいパン粉の衣と油も特注で、揚げ時間も秒単位で調整したという。飲み始めて数品つまんだあとに提供されるタイミングもベスト。「アジフライだけでなく、お客さんの食べる速度を意識して料理を出す順番を考えたり、活気ある雰囲気の中で心地良く過ごしてほしいので、個々には丁寧に対応するよう心がけたりしています」とは、店長の永野さん。料理の味だけでなく、お客さんとの絶妙なコミュニケーションで、また来たいと思ってしまうのだ。平日も19時以降はほぼ満席。予約は必須!
『酒肴 あおもん』店舗詳細
『ヨイノフネ』お出汁料理と日本酒の一期一会を[久我山]
静かにゆったり日本の豊かな旬を楽しみたい夜は、ここ。ふわぁ〜っとリラックスできる雰囲気と上質な料理、酒通もうならせる日本酒が迎えてくれる、居酒屋と割烹の間をゆく新店だ。料理長の渡邉北斗さんが大事にするのは、お出汁と旬菜。塩ベースの透明に近い出汁は、とことんやさしく素材を引き立てる。日本酒の担当は石本孝生さん。10年以上お燗番を勤め、温度帯で表情が変わる日本酒の個性を知り尽くしている。二人は飲食店で働き始めた頃に知り合い、「いつか一緒に店を」と約束。個々に腕を磨き10年目の2023年春、夢を叶えた。孝生さんが客の好みを探り日本酒を選び、北斗さんが料理を合わせる。あるいはその逆もあるが、二人の感性の沸点が最高に心地良い。今宵も二人にすべて託して、ほろ酔いたい。
『ヨイノフネ』店舗詳細
『山田ワイン』街角で軽やかに、ワイン三昧しよう[幡ヶ谷]
「ふらっと寄ってさっと飲んで食べて。そんな店にしたい」。2022年3月、店主の大村(旧姓:山田)有香さんは、この街にナチュラルワインに親しむ日常の種をまいた。幡ヶ谷という土壌はワイン好きが多いのかすぐに人気店となり、仕事帰りに一杯、読書しながら一杯と、毎夜グラスを傾ける人の笑顔でいっぱいだ。現在育休中の大村さんと店長の岡崎渚さんは京都出身で、大村さんが働いていた河原町のワイン酒場『ekaki』で親しくなった。個性あるナチュラルワインの友は、フレンチのエッセンスを感じる小皿料理。京都市内で醸造する「千鳥酢」を使ったり、特産漬物「すぐき」を春巻きの具にしたり、さりげなく潜む京都愛がチャーミングだ。デザートにフランス菓子のカヌレが登場することも。
『山田ワイン』店舗詳細
取材・文=井島加恵(キクヤ、かまびす、酒肴 あおもん)、松井一恵(ヨイノフネ、山田ワイン) 撮影=加藤熊三(キクヤ、かまびす、酒肴 あおもん)、鈴木愛子(ヨイノフネ、山田ワイン)
『散歩の達人』2024年1月号より