会話を大切にする、銘酒揃いの老舗『鈴木三河屋』[ 溜池山王 ]
ひとつの蔵の酒を種類豊富にストック
昭和30年代から、東京の中心に店を構える『鈴木三河屋』。2代目店主・鈴木修さんが若くして店を継いだ頃は洋酒を主に扱っていたが、石川県の「菊姫(きくひめ)」との取り引きを機に日本酒中心へとシフトした。それから約30年、コンパクトな店内に日本酒界をリードしてきた面々が並ぶ様子は、少数精鋭と呼ぶにふさわしい。この店独自のスタイルといえば、売り場に冷蔵庫を置いていないこと。棚の上に並ぶのはサンプルのダミー瓶で、客自身が商品を手に取るスタイルではないため、自然と会話が生まれる。
「お待たせしてしまう事になりますが、より良い状態で商品をお渡ししたい。コロナ禍で、営業時間を短縮したからこそ充実した接客を心掛けています」と、鈴木さん。目当ての銘柄を持つ常連客も多いが、一見さんにも常に公平に接し、まるでかかりつけ医のような親身な姿勢でぴったりの酒を提案してくれる。
「これから日本酒を飲み始めたいという方も、ぜひお待ちしています」
【店主のおすすめPICK UP!】
天美(てんび) 純米吟醸生原酒 長州酒造(山口県) 1760円(720㎖)
R01BY 丈径(たけみち) 生原酒 王祿酒造(島根県) 2200円(720㎖)
会津娘(あいづむすめ) 穣(じょう) 純米吟醸 羽黒前27 2021BY(有機)髙橋庄作酒造店(福島県) 2310円(720㎖)
『鈴木三河屋』店舗詳細
あふれ出る酒愛で、全国各地の蔵を発掘『地酒屋こだま』[ 大塚 ]
冷蔵庫にぎっしり並ぶお酒たちが生き生きして見える
「俺を選んでくれ」。そんな声が聞こえる気がする。「狭いからでしょ?」と、店主の児玉武也さんは笑うが、冷蔵庫にぎっしり並ぶお酒たちは、水槽の中で泳ぐ魚のように、生き生きして見えるのだ。児玉さんが店を開店したのは2010年のこと。店内ほぼすべての商品が無料で試飲できるのは、お客さんに酒選びを絶対に失敗してほしくないという思いから。「同じ銘柄でも毎年酒質は違う。噓をつきながら商売はできないからさ」。
取引きする蔵元の基準は、「結局は友達になれるかどうかだね」と、児玉さん。そんな蔵との二人三脚を経て、満を持して店に並ぶ酒は、無名で小規模なものも多い。しかし、日本各地にはこんなにおいしくて溌剌(はつらつ)とした酒が、まだまだある事を感じずにはいられないものばかりだ。「でも“こだま色”に染める気はないんです。その酒がどこに向かったらもっと良くなるか、導くのが僕の仕事です」
客のため、酒蔵のため、なにより酒のために児玉さんの愛は今日も注がれる。
【店主のおすすめPICK UP!】
本金(ほんきん)諏訪純米吟醸 火入れ2020BY 1595円 (720㎖)酒ぬのや本金酒造 (長野県)
辰泉(たついずみ)純米吟醸生原酒 京の華1号生2020BY 1870円 (720㎖)辰泉酒造 (福島県)
北安大國(ほくあんだいこく)純米生原酒 別誂米旨熟成2017BY 1760円 (720㎖)北安醸造 (長野県)
『地酒屋こだま』店舗詳細
日本酒の楽しさを広げてくれる、燗酒の聖地『大塚屋』[ 武蔵関 ]
「おいしい燗酒で、身も心も温まってください」
「酒は純米、燗ならなお良し」。日本酒界の重鎮・上原浩氏の格言を店先に掲げる酒屋が、武蔵関の住宅地にある。
約30年前、時代は「淡麗辛口」全盛期。店主の横山哲也さん・京子さん夫妻は、他の酒販店らと共に日々勉強会をしていた。その後、一般的に冷酒の「芳醇旨口」の時代が到来するが、横山夫妻がピンときたのは「日置桜(ひおきざくら)」、「鷹勇(たかいさみ)」と、どちらも鳥取県の燗上がりする銘柄だった。「売れ残っても、どうせ自分たちで飲むし」と、二人が好きになり、造り手に共感したものを集めていったところ、いつしか「燗酒の聖地」と呼ばれるまでになった。
店内の酒は、生酛(きもと)や山廃(やまはい)仕込みといった天然の乳酸菌を用いて時間と手間をかけて醸されたものが多い。「自然な香りがあって、微生物の働きを感じられて、体になじみます」と、京子さん。こうしたオーガニックな志向や、酸味のある味わいは、 ワイン愛好家の共感も得やすいという。「一升瓶で買っていただき、ゆっくりと味の変化を楽しむのも醍醐味ですよ」
【店主のおすすめPICK UP!】
酔右衛門(よえもん)特別純米 吟ぎんが 3410円 (1 .8ℓ)川村酒造店 (岩手県)
杉錦(すぎにしき)山廃純米にごり酒 3080円 (1 .8ℓ)杉井酒造 (静岡県)
辨天娘(べんてんむすめ)生酛強力(ごうりき)純米 3768円 (1 .8ℓ)太田酒造場 (鳥取県)
『大塚屋』店舗詳細
酒の境界線を取り払う、ニューカマー『Caliquors Tokyo』[ 神田 ]
「ポップにキャッチーにお酒選びをお手伝い◎」
神田駅近くの雑居ビルに、夜な夜な酒ラバーが集う風変りな酒屋が現れた。店主の白石達磨(たつま)さんは、自他共に認める無類の酒好き。20代の頃から音楽活動の傍ら全国各地の酒関係者と交流を重ね、突然クラフトビール専門誌の編集長になったかと思えば、飲食業に転身したり、イベントを企画したりと、まさに神出鬼没。新しいアプローチで酒を発信する基地にしたい、との思いで2020年に開店した。
扱うのは、クラフトビールとナチュールワイン、そしてオールお燗向けの日本酒の3本柱。どれも造り手の思想が色濃く反映された代物で、その道のプロが見てもギョッとする尖(とが)りっぷり。有料試飲に来る客は飲食店関係者も多く、皆が「酒の事なら白石君に聞こう」といった具合で、3種の酒が軽やかにクロスオーバーする。つまり、ワイン目当てで来ても、ビールにも日本酒にも出合う“着火点”だらけの空間が広がっているのだ。
「この店は自分の酒部屋のようなもの。遊びに行く感覚で、来ちゃってください」
【店主のおすすめPICK UP!】
冨玲(ふれい) 純粋清酒(上撰)2310円(1.8ℓ)梅津酒造(鳥取県)
初桜(はつざくら) 特別純米火入れ 玉栄2620円(1.8ℓ)安井酒造場(滋賀県)
十旭日(じゅうじあさひ) きもと純米雄町13%レトロラベル 3080円(1.8ℓ)旭日酒造(島根県)
『Caliquors Tokyo』店舗詳細
取材・文=高橋 輝(編集部) 撮影=逢坂 聡