三代目が切り盛りする、秩父を代表するラーメン店

西武線秩父駅から徒歩5分ほどの場所にある『珍達そば』。取材時は平日の14時ごろ、普通に考えればランチタイムのピークは過ぎている。ましてや平日、観光客も少ないはず。しかし、店の中は常に満員! その活気に驚き、同時にワクワクしてしまう。

店の創業は1958年。今の店主・小崎雅也さんで三代目になるので、普通に考えれば初代はお祖父さん?……と思いきや、二代目が小崎さんのお祖父さんだとか。初代が高齢で店を閉じようとしていたところ、もともと常連だった小崎さんのお祖父さんが申し出て店を引き継いだ、そんな経緯だったらしい。そして2007年、孫である小崎さんが正式に三代目を継ぐことになった。

珍達そば750円。
珍達そば750円。

こちらが名物の珍達そば。丼の縁までなみなみとつがれたスープ、そしてその上に浮かぶのは大量のネギと豚肉! あつあつの丼に、こぼさないよう気をつけて箸を入れる。肉とネギを煮込んで作る独特の作り方により、この柔らかく煮込まれたネギと豚肉、麺が一体となり、身体を温めていく。

おいしさのカギとなるネギは、埼玉県北部で生産された「土男(つちおとこ)ネギ」を使用。自ら畑に足を運ぶという小崎さんのこだわりが、おいしさにあらわれているのだろう。

この麺も味の大きなポイント。
この麺も味の大きなポイント。

豚骨と醤油、煮干しでとられたあっさり目のスープが、つるっとした食感の細麺によく絡む。小麦のおいしさを味わえるこのオリジナル麺は、創業以来同じところに依頼しているそう。製麺所かと思いきや「実はレストランなんですよ。うちのためだけに作ってくれてるんです」と小崎さん。茹で時間が短いので、お客さんを待たせなくて済むというメリットもある。

今の人気の裏には、苦い経験もあった

幼い頃から、自分は祖父の店を継ぐものだと自然と思っていたという小崎さん。高校を卒業し、祖父と一緒に店に立って修行もした。しかし。

「代替わりして2〜3年は、本当に暇でしたよ(笑)」

昔ながらの職人気質だった二代目の性格もあるのか、一見さんが入りづらい雰囲気だったというかつてのお店。お店を埋めていた常連さんは、代替わりすると顔を見せなくなった。

「辛かったですけど、このままじゃダメだと思って。作り方の基本的なところは変えず、素材をもう一度見直すところから始めました」

肉を国産豚に変え、ネギも地元のブランドネギを探した。そうやって自分のできることをひとつひとつ積み上げていく中で、徐々にお店には客足が戻るようになってきた。決め手となったのは7〜8年前のとあるテレビ番組出演。そこから一気に、今の活気へとつながった。

沙代さんと小崎さん。お二人の人柄が、店の空気にも現れている
沙代さんと小崎さん。お二人の人柄が、店の空気にも現れている

「でもね。僕はきっかけはテレビ出演じゃなくて、嫁さんが店を手伝ってくれるようになったからだと思ってるんです」

結婚し、奥様の沙代さんが店に立つようになったのが2013年。その頃からお客が増えていったのだという。実際に店を訪れるとすんなりと腑に落ちる。小崎さんが厨房でラーメンを作る一方、沙代さんは丼を下げ、お客を誘導してラーメンを運び、笑顔で接客。並んでいる人たちへの気遣いも忘れない。忙しい有名店はときに殺伐としがちなものだが、沙代さんの人柄とご夫婦のコンビネーションが、あの活気を産んでいるのだろう。

「家だと怖いんですけどね(笑)」

小崎さんはそんなことを言うが、照れ隠しなのは明らか。

観光地の店ながら、今はお客さんの半数が常連さん。

「お昼時とか、混んでしまうときもあるんですけど。そんなときでも、常連さんが並んで待ってくれる、その光景が凄くうれしいんですよ」と語る小崎さん。

地元で愛される店は、間違いない。

住所:埼玉県秩父市東町23-4/営業時間:11:00〜16:00(土・日・祝は〜19:00)※売り切れ次第終了/定休日:水/アクセス:西武秩父駅から徒歩3分、秩父鉄道御花畑駅から徒歩3分

構成=フリート 取材・文・撮影=川口有紀