「臺虎精釀」が神楽坂に上陸
ひょっとすると日本人以上に勤勉かつ几帳面かもしれないセンスを発揮して産み出される美味なクラフトビールにありつくのは、今や個人的にも台湾散歩の楽しみのひとつとなっている。
ことに有名なのが「金色三麥」「掌門精釀啤酒」、それに「臺虎精釀」あたりか。いずれも洒落た造りの店で、レベルの高いフレッシュなクラフトビールを味わえる。中でも「臺虎精釀」はことに攻めている。デザインにも凝って、場所ごとに店の雰囲気をがらりと変えてみたりするから、あちこち行ってみたくなる。
写真は現地の友人に撮ってもらった信義店(店名は『啜飲室 Landmark』)。台北のランドマーク、101タワーがそびえる屈指のゴージャスエリアのビルの谷間で立ち飲みさせる洒脱な角打ちといった風情だ。日本のガイド本でもちょくちょく紹介されている。
この「臺虎精釀」が2020年『Taihu Tokyo』の名で日本に上陸した。場所は和の風情漂う神楽坂の、大人びた飲食店街、本多横丁の一角である。それまで割烹だった店の外観はそのままに、真っ白なのれんまで掛かっているから、台湾クラフトビールの店とは最初ちょっと気づかなかったりする。ロケーションを活かした意外性、遊び心がまた楽しい。建物上方の虎の練り歩くひょうたんマークが目印になるはず。
台湾からやってくるビールは常時十数種
のれんをくぐって踏み入ると、奥に延びる店内は照明を抑えてシンプルで落ちついた大人の雰囲気。スツールやテーブル席でゆっくりまったり自慢のビールを味わえる。右手カウンターの壁には黒いレバーがずらり十数本。それぞれ降ろせば、特製クラフトビール各種が注ぎ込まれる次第。日本でも馴染み深いラガータイプに始まり、ペール、エール、IPA、スタウト等、様々なスタイルのビールが台湾から送り込まれ、常時十数種味わえる。S(250ml)、M(400ml)、L(550ml)の3サイズから選んで注文して、Sで一杯800〜900円前後。MIT(メイド・イン・タイワン)のシンプルな特製ビアグラスが手に馴染む。
取材時にいただいたのは(写真左から)、すっきりさわやかな飲み心地、いかにもビールらしい味わい「タイフードラフトハイ S800」、ホップの苦味が味わい深い「タイフーIPA S900」、文字通りコーヒーのような風味がある黒ビール「タイフーコーヒースタウト S800」、氷を浮かべて供されるレモンの風味の利いた「ロングアイランドアイスビール S800円」。
果物の宝島でもある台湾らしく、フルーティな味わいのものが多いように個人的には感じる。ビールのほろにがい味わいと混ざり合い、華やかなで飲みやすい。台湾ビールの進化を、美味しく確認できることであろう。
渡されるメニューにはビール毎の詳細な説明が添えてある。上隅に日付がついているのは、品目が何かしら入れ替わっていくから。けっこう一期一会の品揃えである。初めてだと物珍しさも手伝って、あれやこれやとついつい試したくなってしまう。あぶないあぶない。
店には2階席もある。こちらは真昼の街頭のように明るくライティングされ、台湾の露店でおなじみの金属製の小卓と腰掛けが配されている。台湾好きにはたまらぬ懐かしさ。現在は1階が混雑してきたら利用しているそうだが、まるっと雰囲気の異なるこちらの空間も捨てがたい。
おつまみも充実、缶ビールの販売も
一方、ビールに合うつまみ類も充実。台湾でおなじみの軽食類をつまみ風にあつらえ、日本人の舌にも合うよう微調整している。写真は、本来鶏卵を用いる茶葉+醤油+八角で煮込んだゆで卵「茶葉蛋」を、うずらでつまみ化した「うずらの茶葉蛋(チャイェダン)300円」、台湾風フライドチキン「鹽酥雞(イェンスージー)ハーフ600円」、ぶっかけそぼろ肉丼の「滷肉飯(ルーローファン)S500円」などは、もはや1食分のご飯だ。
テイクアウトも可で缶ビールも販売。店で飲めるビール全種類はさすがに揃わないが、一方で缶ビールのみの限定品などもある。デザインがまたこっていて空き缶を飾っておきたくなるほど。500ml缶1500円ぐらい。
デザインといえば、センスを活かしてグッズも販売中。東京店限定の武士虎マークに弾かれて思わず購入したスタッフTシャツ3000円は、生地がしっかりしていて愛用している。
臺虎精釀は、今のところ日本でチェーン展開する予定はないそうな。台湾から上陸したオンリーワンの美酒を神楽坂でお試しあれ。幸か不幸かコロナの影響で、昼から開店している。今ならまったり昼飲みも楽しめるよ。
取材・文・撮影=奥谷道草