2011年1月 「シネセゾン渋谷」

ミニシアター文化の一翼を担った映画館

渋谷道玄坂の『ザ・プライム』6階にあった「シネセゾン渋谷」が1月閉館となった。『レオン』やジャームッシュ、トリアー作品など、ちょっと尖ったアート系、サブカル系の作品を多く上映し、渋谷のミニシアター文化の一翼を担う存在だった。オールナイト上映やイベント上映、トークイベントなども頻繁に行い、個性的な映画館としてファンも多かった。2000年代前半、ここをはじめ渋谷のミニシアターは次々と閉館し、一つの時代が終わってしまった感も強い。現在は、演劇中心の『CBGKシブゲキ!!』に生まれ変わっている。

2011年3月 「グランドプリンスホテル赤坂」

丹下健三設計・40階建ての“バブルの塔”

我々の世代には「赤坂プリンスホテル」「赤プリ」という名称の方がピッタリくる「グランドプリンスホテル赤坂」が、3月に営業を終了した。1983年に建てられた丹下健三設計・40階建ての新館は、80年代後半「バブルの塔」と呼ばれるほどバブルの代表的なスポットだった。バブル時代のカップルは、40階のバー「トップ・オブ・アカサカ」で夜景を見ながらカクテルを飲み、そのまま部屋に行くのが最高にトレンディだった。特にクリスマスは、夏休み明けには予約で部屋が埋まってしまうほどの大人気だったという。芸能人の結婚式やパーティーもよく行われ、宴会場には随分足を運んだものだ。大みそかはレコード大賞の受賞者パーティーが毎年深夜に開かれ、元日の未明まで盛り上がったことも思い出される。1階の「マーブルスクエア」は明るく開放的で、打ち合わせや取材でよく利用した。

多くの人達の数々の思いを残し新館は解体されたが、2016年『東京ガーデンテラス紀尾井町』として生まれ変わり、敷地内にプリンスの最高ホテルブランド『ザ・プリンスギャラリー紀尾井町』が営業している。1930(昭和5)年に建てられた旧館は、宴会場やレストランを備えた『赤坂プリンス・クラシックハウス』として2021年の今も残っている。

2012年9~10月 「浅草新劇場」など

浅草最後の映画館たち

浅草六区にあり、昭和初期に建てられた“浅草最後の映画館” 5館がこの秋、姿を消した。9月に「浅草シネマ」と「浅草世界館」が、10月には邦画3本立ての「浅草名画座」「浅草新劇場」、洋画専門の「浅草中映劇場」と、5館全てが閉館し、浅草から映画の灯が消えてしまった。浅草六区は映画発祥の地と言われ、かつては映画館、芝居小屋、寄席、ストリップなどが立ち並ぶ日本一のエンターテインメントの街だった。最盛期は浅草に映画館が30館あったとも言われている。しかし次第に賑わいを失い、ついに映画館が街から消えてしまったのである。邦画3本立ての「浅草名画座」と「浅草新劇場」は、昔の裕次郎や東映時代劇から寅さんまで、他では観られない懐かしいラインナップで、昔の日本映画のポスターを見てるだけでも楽しかった。栄枯盛衰、今や六区には寄席とストリップがわずかに残っている現状である。

2013年3月 「東急東横線渋谷駅」

かまぼこ型の屋根も印象的だった始発・終着駅

3月15日、東急東横線の渋谷の地上駅が85年の歴史を閉じ、地下に移って、東横線と東京メトロ副都心線の相互直通運転が始まった。広い改札口といくつものホームを持ち、東京では数少ない始発・終着駅だった。竹内まりやのヒット曲「駅」も、この駅をイメージして作詞されたものらしい。私にとっても、50年近く前、高校に通うために毎日利用した青春の思い出の駅である。改札口は待ち合わせの場所としてよく友人と落ち合った。東急文化会館側から見る、かまぼこ型の屋根も印象的だった。

副都心線との乗り入れで、埼玉、池袋、新宿と横浜方面がつながったのは便利になったが、地下5階の新渋谷駅はJRや京王井の頭線への乗り換えは一段と不便になった。現在この場所は、47階建ての『渋谷スクランブルスクエア』と『渋谷ストリーム』が建ち、往年の面影は全く無いが、通路に線路が敷かれていて、かつての東横線の面影を一部残している。

2013年3月 渋谷「東急百貨店東横店東館」

日本初の名店街である「東横のれん街」があった

JR渋谷駅に直結していた「東急百貨店東横店東館」が再開発のため、3月いっぱいで営業を終了し、その後取り壊された。この東館は一番古く1934年創業、ここで特に有名だったのが「東急のれん街」である。デパ地下ブームのはるか前、1951年に日本初の名店街として誕生、以来沿線の人達を中心に、絶大な人気を誇った。駅からも道路からも入りやすく、お土産や差し入れを買うのによく利用させてもらった。東館の閉館に伴い、東急のれん街は『渋谷マークシティ』、さらに今は『ヒカリエ』に移っている。この時は東館だけのクローズだったが、東急東横店はその後、2020年3月全館が閉館となり、今後再開発される予定である。

2013年3月 「小田急線下北沢駅」

ボロボロのホーム、ガタガタした階段、開かずの踏切……

東横線渋谷駅に続いて、小田急小田原線下北沢駅も3月23日、地下駅に変わってしまった。旧駅は昭和の香り漂うボロボロのホームで、ラッシュ時は人が落ちてしまいそうな狭さが下北沢らしかった。井の頭線に上がるガタガタした階段も懐かしい。いつも若者たちがたむろしている駅前は、最も下北沢らしい風景だった。ホーム横の踏切は開かずの踏切で、上がっているのをほとんど見たことが無かった。現在はすっかり綺麗になった地下ホームだが、地上へ出るのも井の頭線に乗り換えるのも、昔の方が便利だった。

その後、駅及び周辺も再開発され、2020年11月には駅構内に商業施設『シモキタエキウエ』が開業。地上の線路跡には温泉施設や商業施設ができるなど、かつてのゴチャゴチャした下北沢が変わりつつあるのは、一抹のさみしさも感じる。