創業75年を迎えた、町田のシンボル的存在
小田急線町田駅前に立つ『久美堂 本店』は、店と街に暮らす人との距離が近い。
たとえば、近隣の中学校の生徒たちがつくった手書きポップフェアを、2011年から毎年開催している。副社長の井之上健浩さんの同級生が国語の先生をしている縁で始まった企画で、生徒たちがおすすめコメントを書き、その本を店が仕入れてポップとともに並べる。2年生の春休みの宿題として取り組み、毎年5月下旬くらいに売り場ができあがるという。「取りあげる本のジャンルや出版社はいろいろですし、ポップの形も立体的だったり、切り絵だったり、四コマ漫画だったり。なにより彼らは売ろうと思って書いていないので、おもしろいんです。ネタバレしているのもありますけど」と井之上さんは話す。その統一感のなさが売り場の熱を生み、じっくり見る楽しさがある。
クリスマスシーズンには、井之上さん自らがサンタに扮して本を届けている。
12月23日から25日までの3日間、3000円以上の購入が条件で、毎年20〜30件の申し込みがある。本を届けるだけでは終わらず、家に上がって写真を撮ったり、通知表を見せられたりなどの交流があるという。「毎年うかがっているお宅もあるので、子供たちの成長がわかりますね。最初のころは、手袋をせずに素手だったんですが、『サンタさん、なんで指輪してるの?』って言われたりして、夢を壊しちゃいけないと試行錯誤を重ねてきました」。
取材時には、「孫の日」(10月第3日曜日)に合わせて、幼稚園の園児たちが描いた似顔絵を店頭に掲示していて、地域の交流の場となっていた。「小さいお子さんから高齢の方まで、本はどの世代にも必ずヒットするものがあります。人が成長するように、『久美堂』もお客さんと互いに成長できると思う。だから、パートナーのような近い関係でいられるといいなと思っています」 。街の本屋さんは、そこに暮らす人とともにある。
季節ごとのイベントいろいろ
中学生手書きポップフェア
町田市内にある桜美林中学校の生徒たちによる魂のポップ。湊かなえ、東野圭吾、重松清などの小説に人気が集まるが、ノンフィクションの新書を取りあげる生徒も。学校以外の場で子供の作品を見ることができるのも保護者に好評。
「孫の日」似顔絵展示
孫に何かを買ってあげようという「孫の日」の書店版で、孫に本を贈るキャンペーンの一環。町田こばと幼稚園の園児たちが描いた祖父母の似顔絵を、店入り口、書店にとっては“一等地”に掲示している。孫の絵を見に書店へ行く、新たな来店機会の発掘だ。
サンタ便
クリスマス前に店頭で本を購入して申し込むと、ラッピングして小さなお菓子とともに届けてくれる。童話や絵本、音が出る児童書から辞典までと幅広い。毎年サンタさんが本のプレゼントを届けてくれた、という光景は、子供たちの記憶に長く残るだろう。
『久美堂 本店』店舗詳細
地域のお客さんの需要に応える支店
業界初、ドライブスルー併設店
2018年オープンの最新店
取材・文=屋敷直子 撮影=本野克佳
『散歩の達人』2020年12月号より