病院には診療拒否され、保健所の相談窓口にも電話が繋がらず……緊急事態宣言が発令された春頃よく聞かれた話だ。最近は改善されつつあるというが、特効薬もワクチンもないのに冬にかけて第3波が来たらいったいどうなるのか? 不安は尽きない。

そんな状況のなか「救急クリニック」の存在がいま注目されている。24時間予約いらずに利用でき、町中のお医者さんでは対応できない高度な治療や検査が可能。コロナのPCR検査も、面倒な手順を踏むことなくすぐに対応してもらえる。

ここで紹介するふじみの救急クリニックも、「すぐにPCR検査してもらえる医療機関」として、緊急事態宣言の頃からマスコミによく取り上げられていた。当時は大病院も大量の検査希望者に対応するノウハウがなく、受け入れを躊躇していた。なぜ、ここだけ大量検査が可能だったのか? ふじみの救急クリニック院長の鹿野晃先生に聞いてみた。

コロナから逃げない、その覚悟があったからできたこと

Q.PCR検査は1日にどれくらいの数を行っているのですか?

鹿野 鹿野

多い日で1日370人の検査をしたことがあります。だいたい1日150〜300人くらいはこなしていますね。

Q.それだけ多くの検査が可能な理由は? 他の医療機関とは何が違うのでしょう?

鹿野 鹿野

A.インフルエンザが流行する時期になると、当院では例年1日100〜200人の検査をしています。大量検査には慣れていますから、コロナもできるという自信はありました。

また、どこかが対応せねばならないことです。それなら、うちがやるべきだろう。と、そのための体制を整えて臨みました。コロナから逃げない。その覚悟を決めたから、できたことだと思います。

大型扇風機や散水機が置かれ、防護服姿の医療従事者が行き交う「発熱外来」。もちろんPCR検査もここで行う。
大型扇風機や散水機が置かれ、防護服姿の医療従事者が行き交う「発熱外来」。もちろんPCR検査もここで行う。

Q.「そのための体制を整えた」とは、具体的にどのようなことを?

鹿野 鹿野

A.感染症の疑いがある患者さんを大勢受け入れる場合は、感染防御を徹底させねばなりません。そのため、病院の隣接地にコロナに対応する発熱外来を設置しました。

受付や待合所は風通しの良い屋外に設置し、扇風機や散水機を稼働させつづけて飛沫対策をしています。また、入院が必要な患者さんのために、2月中旬、敷地内にプレハブの病棟を建てました。人工呼吸器やECMO(人工肺)も揃っていますから、重症患者にも対応できます。

Q.希望者が検査を受けるには、どのようにすれば? 予約とかは必要ですか?

鹿野 鹿野

A.基本的には必要ありません。直接、発熱外来に来ていただければ、24時間いつでも検査できます。また、少しでも待ち時間を少なくしたいのならば、スマホのアプリを使った予約も可能です。

コロナのPCR検査を行う病院は非公開が原則ですが、24時間検査可能な病院は公表してもいいという特例があるんです。だからうちがよくテレビで紹介され、ますますたくさんの検査希望者がいらっしゃるようになったということです。

 

検査はスピードが命。午前中にやれば午後には結果が

Q.検査はどのような手順でおこなわれるのでしょうか?

鹿野 鹿野

A.受付はできるだけ簡素に、診察や問診も怖い病気を見逃さないようにポイントを絞って行うようにしています。すぐに検体を採取して検査にまわすようにしています。感染の有無を確かめるには、検査するしかありません。

無駄をできるだけ省くことで、来院される方々やスタッフの感染リスクも軽減されます。検体採取は陽圧設備のあるテントの中で、完全防備のスタッフが手早く行うようにしています。受付から検体採取を終えるまで、おおよそ10分程度でしょうか。

Q.検体採取後、結果が判明するまでにどれくらいの時間を要しますか?

鹿野 鹿野

A.感染症の検査はスピードが最重要と考えています。無症状の人が他者に感染させるとか、無症状や軽症の人が急速に症状を悪化させて重篤化するといった事例が多く報告されていますから。もしもコロナに感染していた場合、それを早く本人が知ることが感染防止の最も有効な手立て。それが何日もかかるようでは話になりません。

当院では朝と昼の2回、検査会社に検体を送っています。検査会社に到着してから1時間30分で結果が判明するので、朝に提出した方ならば昼頃、昼に提出した方ならば夕方には検査結果を知ることができます。。

Q.最近は唾液でも検査できると聞いてますが?

鹿野 鹿野

唾液はですね、正直言って汚いんですよ(笑)。結構な量が必要なので採取できるまで時間もかかりますし、スタッフの感染リスクも上がるので現実的じゃないんです。きちんと感染対策して臨めば鼻の奥の検体採取がベストです。

インフルエンザの季節をどう迎えるか? 今大切な心構え。

Q.秋から冬にかけてはインフルエンザも流行します。その状況でコロナの流行が再燃すれば、見分けがつきにくいと言われてます。病院側も対応も難しくなると思うのですが、何か対策は考えておられますか?

鹿野 鹿野

A.インフルエンザと新型コロナの検査を両方行うなど、各病院や関係機関でも色々な対策を考えているようですね。私が考えているのは、来院した方を受付でトリアージして、インフルエンザを疑うような症状があれば、まず特効薬のタミフルを処方して飲んでもらう。そのうえでコロナの検査だけを行うというものです。

うちに来院される方が心配するのはコロナのほうですからね。また、インフルエンザの特効薬は、感染早期でなければ効果を発揮しません。検査結果を待っている間に服用の機会を逸する可能性もあるので、できるだけ早く処方したほうがいいと思います。

 

Q.やはり、誰もがインフルエンザよりも新型コロナのほうが心配ということですね?

鹿野 鹿野

A.まだ謎の多いウィルスです。しかし、新型コロナよりもインフルエンザのほうが感染力は強い。そんな気がします。だから、インフルエンザを予防するのと同じように、マスクと手洗いを励行しておけば、それで感染はほぼ防げるのではないか、と。実際、毎日何百件もの検体採取を行っている当院で、まだ感染者は発生していません。

Q.新型コロナは意外に怖いものではないと?

鹿野 鹿野

A.いや、それは怖いですよ。インフルエンザが大流行してもICUを圧迫する数になるほどの重篤患者は発生しません。ところが、新型コロナは確実にそれがある。現時点ではインフルエンザのように特効薬もありませんから、欧米のような数の患者が発生すれば、医療崩壊を起こしてしまう。そういった意味では、インフルエンザよりも恐ろしいウィルスです

しかし、マスクや手洗いなど、常識的な感染対策さえしておけば、ほぼ防ぐことができるのです。例えば飲みに行っても、食べたり飲んだりするとき以外はマスクをつけておくとか、ルールを決めておけばいいんですよね。

そこは大事なところだと思います。

 

人工呼吸器完備の入院棟は、検査施設の奥にある。
人工呼吸器完備の入院棟は、検査施設の奥にある。

正しい感染防御策を知り、それを確実に実行する。それでも感染が疑われることがあれば、検査して感染の有無を確かめることだ。幸い、最近ではふじみの救急クリニックのように、PCR検査が迅速にできる医療機関も増えている。

次回は、こちらのような「救急クリニック」とはなにか? 医療のコンビニともいわれる、そのシステムの利点について語ってもらう。

取材・文=青山 誠
撮影=中西多恵子

いままでなんとなく 「散歩は体に良い」 と感じてきたけれど、ほんとうだろうか。『散歩の達人』 編集部が長年心に秘めてきた深くて大きな疑問に取り組みます。脳内科医の先生によって語られる、散歩の良さ、朝さんぽの効能とは!?