各地で相次いだ豪雨。原因は?
2026年夏、命に関わるような大雨を経験するのも他人ごとではないと実感した人が多かったと思います。千葉県を襲った記録的な大雨は「令和8年8月千葉豪雨」と名称が定められました。この大雨によって何台もの車が水没し、街が様変わりしたショッキングな映像が印象に残ります。これに次いで、北陸でも大雨となったほか、9月には東海や関東でも豪雨による被害が発生しました。各地で水害が相次いだ背景として、日本付近の大気の流れに大きな特徴がありました。
今夏の後半は日本の天気に大きく関わる「偏西風」が日本付近で蛇行し、東海上では南北に分かれて流れていました。偏西風がどこで蛇行するかによって、気圧配置は大きく変わります。北に分かれた偏西風の影響で、日本の東の海上では高気圧が勢力を強めました。
一方、日本の南海上では「モンスーンジャイア」という大規模な渦が生じていました。これは、アジアモンスーンに伴う強い西風などを取り込んで形成される、大きな低気圧性の循環です。
8月13日から14日にかけて発生した「令和8年8月千葉豪雨」の原因も、この気圧配置が関係していたとみられます。千葉豪雨の発生2日前には、台風15号が茨城県に上陸しましたが、「東から西へ進む」異例の進路となったことで話題になりました。過去にあまり例のないコースを進んだ原因はなぜなのか。実は、台風15号は先ほどの日本の東海上の高気圧とモンスーンジャイアの間を西進していました。台風は自力ではほとんど動くことができず周辺の風の流れに大きく影響を受けるため、2つの渦の流れに沿って西向きに動いたのです。
この進路を取ったことで、関東地方のとりわけ房総半島付近には、台風の反時計回りの風に伴い東から大量の暖かく湿った空気が流れ込みました。また、上層では寒冷渦に伴う強い寒気が影響して、大気の状態が非常に不安定になったほか、これに加えて、関東内陸部では日中の雨などによって冷たい空気の塊が形成されました。暖かく湿った空気と冷たい空気の境目には局地的な前線である「シアーライン」が形成され、そこで積乱雲が次々と発生・発達して線状降水帯となり、記録的な大雨になったのです。千葉市では24時間降水量367mm、1時間降水量115mmを観測し、いずれも観測史上1位の記録を更新しました。
地球温暖化で変わる気候。“防災意識のアップデート”を
近年、日本全国、地域に偏らず命に危険を及ぼす豪雨が発生しています。地球温暖化がさらに進むと、経験したことのないような大雨災害に一層の警戒が必要となります。そうなると、今までと同じ対策では命を守り切れないといっても過言ではないでしょう。大雨に備えて「ハザードマップを確認する」「雨雲レーダーやキキクルを活用する」といった従来の対策に加えて、「防災意識のアップデート」が求められます。
最も意識したいことは、そもそも危険(大雨)には近づかない行動を取ることです。具体的には、大雨が予想される日は散歩を延期する、公園や河川敷での遊びを中止する、雨のピークと外出時間が重なるなら予定を変更する、友人との約束を「また今度」にする 、出社予定をリモートワークに切り替えるなどといったことです。
こうした予定の変更をすでにしているという人もいるかもしれませんが、率先して行うのは意外と難しいと感じた人もいるのではないでしょうか。「自分が行く場所で大雨が予想されている、だからアンダーパスを避けて車を運転しよう、別ルートを歩こう」ではなく、「そもそも車に乗らない、出かけない」という選択をする。予定の変更が「大げさ」ではなく、「当たり前」になる社会を目指す必要があるのです。
いざという時のためのマイルールを
大雨に対する意識をアップデートをした上で、外出時に心掛けたいことは次の3つです。
①雨の日は「帰宅できなくなる」ことまで考える
雨の日に散歩や外出をする時は「目的地やそこにたどり着くまでが安全か」だけでなく、帰り道が安全かどうかまで考えることが大切です。とりあえず出かけて、状況が変わったら帰ればいいという認識では危ない場合があります。
②いざという時に避難できる「安全な場所」を決めておく
自宅や職場、学校などよく出かける場所で大雨になってしまったら、どこへどのような道順で移動するか、ハザードマップであらかじめ決めておきましょう。
③スマホの防災通知を活用する
外出中、気象情報を何度も自ら確認するのは大変なこともあります。事前登録が不要な緊急速報メールに加えて、気象・防災アプリを利用して、雨雲の接近などの通知を受け取れる状態にしておくのも一つの手です。ただ、スマホの情報に頼るのだけではなく、空の様子や周囲の状況にも注意をする必要はあります。
自身の状況や家族構成に合わせて、いざという時のためのマイルール、我が家のルールを決めるのもおすすめです。あらかじめルールを設定しておくことで、「せっかく予定を立てたから……」という感情に左右されず安全な判断をできるようにしましょう。
予想が難しい「線状降水帯」。情報を活用しながら自身で命を守る
予定の見直しなどを行うのに参考にしたいのが、最新の防災気象情報です。気象庁は今年5月末より「新たな防災気象情報」の運用を開始し、レベルと色分けで、直感的に分かりやすい仕様に変更しました。新たな防災気象情報については、この連載の「改善された新たな防災気象情報が運用開始!」という記事でも解説しています。
今夏も各地で発生が目立つ「線状降水帯」の予測情報も新しくなりました。これまでは発生の半日程度前に「府県単位」で予測を出していましたが、これに加えて発生のおおよそ2~3時間前に、一時細分区域単位(例:千葉県北西部など)で出すようになりました。そして、今後3時間以内に線状降水帯による大雨のおそれがある大まかな領域は、気象庁のウェブサイト「線状降水帯予測マップ」で公開されます。
ただ、線状降水帯に関しては、現在も発生のメカニズムに未解明な点がある、予想のための数値予報モデルに課題があるなどといった理由のため、常に精度良く予測をするのは難しいのが現状です。将来的には線状降水帯による大雨が発生しそうな地域を「市町村」単位まで絞り込んで発表することを気象庁は目指していますが、私たち自身で危険を回避し、命を守る行動を取ることが最も重要です。最新の防災気象情報を活用しながら、「予定を変えることは大げさではなく、命を守るための当たり前の行動」という意識を、私たち一人ひとりが持つことが求められています。
文・画像作成=片山美紀
参考:
“令和8年夏を対象とした異常気象分析検討会の結果について”.気象庁,https://www.jma.go.jp/jma/press/2609/01c/kentoukai20260901.html,(2026年9月16日参照).
“線状降水帯に関する情報”.気象庁,https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/kishojoho_senjoukousuitai.html,(2026年9月16日参照).
“予報が難しい現象について (線状降水帯による大雨)”.気象庁,https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yohokaisetu/senjoukousuitai_ooame.html#naze,(2026年9月16日参照).
気象庁気象研究所
“【プレスリリース】令和8年8月千葉豪雨をもたらした線状降水帯の解析結果(速報) ―「スコールライン型」の降水システムが停滞 ―”.気象庁気象研究所,https://www.mri-jma.go.jp/Topics/R08/080910/080910_press.html,(2026年9月16日参照).








