台湾のアートや文化も発信するカフェ
南阿佐ケ谷駅から青梅街道沿いを高円寺方面に進んだ途中に広がる住宅街。その一角に、ひっそりと現れる店が『茶嘉葉』だ。どこか昔懐かしい雰囲気を感じる店構え。引き戸を引いて店内に入ると、店主の杉本敏嘉(すぎもとびんか)さんが迎えてくれる。
台湾出身の杉本さんは、この店をオープンするにあたり、台湾茶だけではなく「生まれ育った台湾の文化も紹介する場にしたい」と考えた。そこで、近年台湾の若い世代の間で保存活動が進められているマジョリカタイル(20世紀初頭の日本で作られていた多彩色レリーフタイル)をモチーフとした商品や、レプリカを販売することに決めたという。
日本統治時代の台湾で、富の象徴や幸せへの願いを込めて、家庭の住宅の屋根や玄関に貼る風習があったマジョリカタイル。時代の流れとともに、老朽化した家屋ごと処分されていたのだが、台湾の文化の一部として残していこうと、保存活動が進められるようになった。2016年には、収集されたマジョリカタイルを展示する博物館も設立されている。この博物館の館長が、日本でもその価値を知ってもらおうと働きかけていた杉本さんの活動を認めて、所蔵していたタイルの一部を貸し出してくれたというのだ。
現存するマジョリカタイルが数多く展示されているのは「都内では恐らくここだけではないか」と、杉本さんは話す。
『茶嘉葉』では、ほかにも台湾のレトロ建築を撮影する写真家の写真展や、台湾に関する書籍を出版するイラストレーターの個展など、主に2階のスペースを利用して、様々なイベントを開催している。コアな台湾好きが集まる場所としても、一目置かれている存在なのだ。
台湾では当たり前の“お茶がある日常”を理想に
この店で提供する台湾茶は、全部で11種。お茶選びにもこだわり、どのお茶を扱うか決める際には、台湾中のあらゆる茶師のもとへ赴き、様々なお茶を試飲したのだそう。そんな自慢のお茶を紹介するメニューは、台湾茶の知識がない人にも分かりやすいように、簡単な茶葉の説明とともに発酵度順に並べられている。その背景には、杉本さんの「作法とか気負わずに、普段お茶を飲むような感覚で楽しんでほしい」という想いが表れている。
お茶は、凍頂烏龍茶や鉄観音茶といった一般的なもののほかに、五年老茶(ごねんろうちゃ)という見慣れないお茶も並ぶ。5年かけて発酵と焙煎を繰り返したこのお茶を飲める店は、東京では珍しいようで、このお茶を目当てに訪れるお客さんも多い。
お茶請けは、台南で無農薬栽培された、南国の果物を使ったドライフルーツ。マンゴーやドラゴンフルーツ、スターフルーツなど、果物本来の味が凝縮され、より一層味わい深く感じられる。台湾茶セットを頼むと、8種類ある中から3つまで選ぶことができる。日本では珍しい新感覚のドライフルーツの味わいに、きっと驚くはずだ。
台湾では、公園や通りに人々が集まっては、井戸端会議のようにお茶とおしゃべりを楽しむ姿が見られるという。杉本さんが理想とする店の姿も、そのような雰囲気に近いことから、お客さんとのコミュニケーションは欠かさない。お客さんと台湾の話で盛り上がったり、情報交換をしたりと、杉本さんのキャラクターも含めて愛される店となっているのだ。
『茶嘉葉』店舗詳細
取材・文・撮影=柿崎真英