倉嶋紀和子 著『口開け酒場でひとり呑み』(本の雑誌社)
かつて存在した雑誌「古典酒場」の編集長・倉嶋紀和子氏による一人呑み連載が単行本化。酒場雑誌を創刊するほどの生粋の酒好きは、夜を待たずして呑み始めている。中には朝から開店するお店も紹介されるのが参考になる。
そんなお店のガイドでもある本書だが、お酒や料理はもちろんのこと、店主を含めたお店の方々や、訪れるお客さんたちのことが語られているのが印象的。少々の写真を交えてはいるものの、これこそが酒場の雰囲気を伝えているように思う。酒場には人生がある!というと大袈裟かもしれないが、人々が集う場所に、各々の声や温度、気分や気持ちが渦巻いている。その雰囲気とはやはり独特のものであって、物語のようなものを見出すこともできるように私は思うのだ。本書は、そういった部分も酒場の空気と共に語られる。想像していたら、自分も今夜(あるいは今から?)、呑みに出かけたくなってくる。
そして驚きは、元TOKIOの松岡昌宏氏との対談が収録される点。語られる酒呑みスタンスがかっこいい。松兄と吞みたいな~!(小野)
阿部了 写真・阿部直美 著『おべんとうの時間 その5』(光文社)
海と空が交わるように、読みながら抱く感情と内側から湧き上がる言葉が、じわりと重なっていく感覚がした。その人自身が話しているような文の連なりに、何度か涙がこぼれそうになる。個人的には、尾道・向島のろ大工の方の章が特に胸に迫るものがあった。
本書は、前作から8年の時を経て刊行された、全日空機内誌『翼の王国』の人気エッセイの書籍化第5弾。カメラマンとライターの阿部夫婦が全国各地の手作り弁当を二人三脚で取材したフォトエッセイ集だ。本作で登場するお弁当は、潜り漁師、書店員から、映写技師、野球部や郷土芸能部の高校生まで、全国各地の幅広い方たちのもの。
撮影されるからと背伸びをしない、日常の、ありのままだと感じるようなお弁当が好きだ。写真だけで、暮らしの表情がうかがえ、日々の積み重ねが映し出される。握り飯だけの人もいて、そこにもきちんと背景がある。
どこまでも果てがないような海と空を思い浮かべながら、おべんとうの旅がこれからも続くことを願う。願ってやまない。(阿部)
舟橋左斗子 編『千住暮らし 12stories』(海象社)
都心へのアクセスばっちり。古いものも新しいものも元気で、毎日の生活に必要なものがお安く揃うし、無茶苦茶暮らしやすそうだなあ~というのが、私が最近の千住周辺をざっと歩いた雑感。そして、この『千住暮らし 12stories』は、「変幻自在な古民家の不思議な時間」「個性派シェアハウスが目指すもの」「まちと共に生きるうなぎの店」など、実際に千住で暮らす12人へのインタビューを通して、千住暮らしのリアルを描き出した一冊。人選も写真も少々かっこよすぎないか? と、つい勘ぐりたくなる気持ちにもなったが、それが千住のリアル。本編のほか「大黒湯」「大橋眼科」「旧板垣家」、次々オープンする大学、地口あんどんを取り上げたコラムも読みごたえがあり、千住の歴史をぎゅっと凝縮した前書き含めて、とても勉強になります。ちなみに編者の舟橋左斗子さんは、『散歩の達人』がまだB5判の超マニア雑誌だった頃を中心に取材スタッフとして参加されていた方(奥付にお名前あり)で、私にとっては大先輩です。(平岩)
おかべ たかし著・やまで たかし写真『しらべるふうけいのずかん』(東京書籍)
街を歩いていて「あっ」と思う風景があると、スマホで写真を撮る。この「あっ」の対象は建物や看板、道路などさまざまで、どこか変わっていたり違和感があるから「あっ」と思うものの、それらがどういったものであるかは大抵わからず、写真を撮ってそれきりになってしまうことがよくある。
本書は作家・ライターとして活動するおかべたかし(岡部敬史)さんと、『散歩の達人』でも大変お世話になっているカメラマン・やまでたかし(山出高志)さんによる、風景をテーマにした写真図鑑だ。本書でいう風景は、前述した「あっ」と思うものが中心となっており、「えっ!」「おや?」「なに?」といった、その風景を見た印象別に章が分けられ、それらがどういったものなのかが、わかりやすい言葉と迫力ある写真によって解説されている。
たとえば「えっ!」の章にある、UFOのような形をした給水塔。解説を読むと高さが40mもあること、UFOのような給水塔が実際に「UFO型」と呼ばれていることなど、日ごろ目にするものでも、読むことで十分な驚きと発見があった。
発見したものについて考えたり調べたりすることで、自分の世界をさらに広げることができる。そんな図鑑の楽しみを日常の風景から味わえる本書は、数ある図鑑の中でも特別な一冊なのではないかと思った。(守利)
進士素丸 著『文豪てくてくさんぽ』(KADOKAWA)
いつの時代も私たちを魅了してやまない文豪たち。本書は近代文学作品の舞台や、作家が暮らしたり、いきつけにしたりしていたお店などを紹介していくガイドブックだ。
文豪というと、当時としてはトップクラスの高等教育を受けている人が多く、また、最先端の西洋文化も享受しているから上流階級なイメージがある。したがって「文豪ゆかり」というと、上野や銀座にあるような立派な洋食屋や鰻屋、はたまた神楽坂の料亭なんかを思い浮かべる人も多いだろう。もちろん、そういったスポットも登場するが、この本の肝は、随所で豆知識的に語られる、文豪たちの風変わりなエピソードだ。
東大の入試で数学の試験をカンニングしていた夏目漱石、酔っぱらって新橋駅で暴れる梶井基次郎、関東大震災の数日後に不謹慎にも死骸を見に行こうと吉原弁財天に向かう芥川龍之介と川端康成……などなど。かなりぶっ飛んだ話も多いが、文豪といえども、必ずしも尊敬に値しない姿を垣間見ることができて、かえって親近感が湧くという、ユーモアのある一冊だ。(高橋)
瀧澤信秋 監修『すごいビジネスホテル図鑑』(イカロス出版)
「ビジネスホテル」と聞いてなにを思い浮かべるだろうか。一般的に“リーズナブルかつ簡易的、限定的サービスの提供”を行うホテルをビジネスホテルと呼ぶが、否! 近年、簡易的、限定的という枠を超えた多様な取り組みでお客満足度を高めるビジネスホテルが増えている。そのニッチなサービスをホテルごとに丁寧に紹介するのが本書だ。
例えば、ビジネスホテルの代表格ともいえるだろう「アパホテル」は、「1ホテル1イノベーション」をスローガンに掲げているため、立地ごとに独自のサービスを行なっているのだとか(それを知るだけで泊まりたくなってくる……)。また、富山には温浴施設のような休憩スペースを伴うサウナや無料の酒類が楽しめるラウンジを兼ね揃えた新形態の「アパホテルステイ」があるのだとか。もはやビジネスホテルは近くにあるから泊まるものではない。リゾートホテルと同様、旅先を決める上で重要な要素になりうるのだ。
これを読めばもう安心。急な出張だって、前々から予定を立てる旅行だって、ホテル選びで間違うことがぐんと少なくなるだろう。(中島)
風来堂 編著『豊臣兄弟の城 完全ガイド』(スタンダーズ)
2026年のNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』で注目を集める豊臣秀吉・秀長。本書『豊臣兄弟の城 完全ガイド』は、二人にゆかりのある94城を紹介するガイドブック。二人の出生から、大きな戦いや人生の転機に沿って構成され、姫路城や大坂城といった名城から、知る人ぞ知る城跡まで幅広く掲載。驚くべきは、編集者が94城すべてを訪れて実地調査を行っていること。撮り下ろした写真とともに、現地に足を運ばなければ分からない見どころを丁寧に紹介している。
さらに、94城すべてに縄張図が付いている点も大きな魅力だ。縄張図とは、本丸や堀、土塁など城の全体構造を示した図面で、城の構造や防御の工夫を理解するのに役立つ。実際に城を歩く際に本書を携えていれば、当時の攻防や城の役割に思いを巡らせながら、豊臣兄弟や武将たちの熱き闘志を肌で感じることができるだろう。
また、大河ドラマでこれから登場する城も数多く掲載されている。ドラマとあわせて読めば、豊臣兄弟が駆け抜けた時代をより深く味わえる。城好きはもちろん、大河ドラマをきっかけに興味を持った方にもすすめたい一冊だ。(奥田)
構成・撮影=散歩の達人/さんたつ編集部








