オープンは2022年。駅近の路地に面した、懐かしい洋食店
2022年にオープンした『食堂 サビーズ』。もし「何十年も前からこの場所で営業しています」と言われたら信じてしまうかもしれない。すっかり路地になじみ、どっしりとした貫禄さえ醸し出している。
メニューはハンバーグを筆頭に、とんてきやオムライスと、こちらも安心感のあるラインアップだ。しかもほとんどのメニューが1000円台という価格設定もありがたい。料理長を務める川合茂(かわいしげる)さんは、ビーフステーキのような高価格なメニューは取り入れず、普段使いしてもらえる店を目指した。
店を代表するメニュー、ハンバーグの肉はポーク100%。珍しいこの選択は、値段を抑える目的なのかと川合さんに尋ねてみたところ「今、50代や60代の人にとって、お母さんが作ってくれたハンバーグはポークだと思うんですよ」との答え。やはり懐かしさのある味わいが、店としてもポイントのようだ。つなぎには王道の玉ねぎや卵、パン粉を使うが、玉ねぎは生のまま。「焼いている間に玉ねぎから水分が出て、その分柔らかく仕上がります」。お箸やスプーンで切れる柔らかさを目指している。
『食堂 サビーズ』には、ベーキライスという気になる名前のメニューがあり、洋風チャーハンと説明されている。心ひかれる2つのメニューが一度に食べられるベーキライスのハンバーグのせを注文した。
洋風チャーハンのベーキライスに、豚肉180gのハンバーグのせ
ハンバーグは注文を受けてから成形してオーブンで焼き始めるため、提供まで時間がかかる。ランチタイムは、急いでいる人向けに煮込みハンバーグも用意されている。
ハンバーグがオーブンに入っている間に、川合さんはベーキライス作りに取り掛かる。ベーキライスは、もともとは川合さんが通っていた、とある洋食店のメニューへのオマージュだ。閉店してしまったその店のベーキライスは、シンプルな炊き込みピラフで、他の洋食メニューと組み合わせて食べるものだった。『食堂 サビーズ』では、玉ねぎとにんじん、卵も入れた洋風チャーハンにアレンジし、やはりハンバーグ、チキンカツ、ロースカツなどの洋食メニューと組み合わせて提供されている。
ベーキライスのハンバーグのせは右に生野菜のサラダ、左に180gのハンバーグがのる。ハンバーグにはデミグラスソースがレードル一杯分かけられ、スープが添えられる。湯気の立つこのひと皿を目の前にして、心が躍らない食いしん坊はいないだろう。
ハンバーグは、確かにスプーンで切れるし、ジュワッとジューシーで柔らかい。豚肉らしいうまみがしっかり感じられ、同時にマイルドな味わい。口の中が懐かしさでいっぱいになる。
ベーキライスはしっとりした食感。そのままでもシンプルにおいしいが、デミグラスソースとの相性もばっちりだ。
「いつか役に立つ」と思った若き日の経験が、蒲田で開花
川合さんは、高校卒業を控えていたとき、「お前はこの会社に行け」と担任の先生に強引に勧められた社員食堂を運営する企業に就職。中華の厨房に配属されたことをきっかけに、長く中華料理の現場で腕を振るってきた。仲間と自分たちの店を開く直前も、中華を軸とする有名飲食企業で店舗の立ち上げを担当していたという中華畑の人だ。
それでは洋食は、いつどこで? と疑問をぶつけてみたら、「最初に入った社員食堂で、洋食や和食担当のオヤジさんたちにかわいがってもらって、特に洋食のことをいろいろ教えてもらいました」との答え。川合さん自身は当初洋食志望だったこともあり、社員食堂の重鎮たちから「これ、やってみろ」などと、当時の現場らしいやり方で技術を受け継いだ。そのころから、この経験がいつか役に立つかもしれないと考えていたというが、それから20年以上を経て『食堂 サビーズ』につながっているのだからおもしろい。
蒲田はかつて短期間勤務経験があった程度で、大きな思い入れはなかった川合さん。ところが約10年ぶりに店舗物件を探すために訪れてみたら、街が明るくなっていて驚いたという。路地に入ったところにある今の物件も気に入った。
2026年9月8日には4周年を迎えた。「お客さんにも恵まれて、周りの飲み屋さんたちにも温かく受け入れてもらいました。蒲田、いい街ですよ」。夜の営業時間には、お酒のアテになるメニューも用意している。業務用の大きなウイスキーボトルをキープする人もいて、昼夜問わず蒲田の人たちから親しまれる食堂に成長している。
取材・文・撮影=野崎さおり







