仲間の叡智が集結。懐かしい屋台を近未来感のある空間として再現
『中華そば きくたに』の聞谷さんと田中さんは、荻窪『There is ramen』の高橋佑之輔さんを師匠と仰ぐ。『There is ramen』はビブグルマンに選出されたこともある名店で、田中さんは師匠の高橋さんと共にラーメンの開発をしてきた人物だ。飲食店運営のベテランである聞谷さんとは、20年以上の仲間。聞谷さんと田中さんの2人でラーメン店を立ち上げるにあたって、高橋さんも力を貸してくれた。その結果、味、雰囲気共にたくさんの人をひきつけるラーメン店が蒲田に誕生した。
店の間口に使われている透明のカーテン、やや青みを帯びた照明、白い壁のポイントのように使われている短冊のメニューに、少し高めのスツールが並ぶ。店内は屋台を意識してデザインされているそうだが、白とシルバー、ところどころに赤が効果的に使われていて削ぎ落とされた印象。20世紀の映画に登場する宇宙船の中に迷い込んだような印象もある。厨房もコの字型で、店員さんはさながらコックピットで働いているようだ。
自家製麺とチャーシューの喉越しに脱帽するワンタンチャーシュー麺
入店前に券売機で買った食券は、ワンタンチャーシュー麺に、店自慢の鮪ちらしのセットにしたもの。ラーメン店なのに、生のマグロを使ったごはんものは珍しいと気になった。
カウンターには、味の特徴が詳しく書かれた案内書が貼られていた。「出汁を味わう新中華そば」と書かれている。
その自慢の出汁は、ベースとして豚と鶏を強火でしっかり炊いたあとに、京都の乾物屋さんの鰹節、鯖節、うるめいわし節を時間差で加え、火力を落として炊き続ける。火にかける時間は全体で9時間ほど。スープには魚の出汁をしっかり炊いたときに出る酸味や深みが溶け出している。
しっかり複雑な味わいが溶け出たスープに合わせる醤油ダレは、3種類の醤油がメインだ。3つのうち1つは愛知県のたまり醤油を使っている。
そして目の前に出されたどんぶり。しっかりした色合いのスープが、チャーシューやワンタンの隙間からのぞく。まずは、と口に運んだスープは、醤油の深みが感じられるが、後口はほんのり甘い。魚系の出汁による酸味は醤油ダレに隠れてながらも、味の奥深さにつながっている。
岩手県産のもち麦を使っている自家製麺は、中太ストレート。麺を口に入れると、つるつるした舌触りに驚く。もっちりしたかみごたえで、小麦の味がストレートに感じられる。店内奥にある製麺機で作っていて、丸1日以上寝かせて熟成させているそうだ。
麺のツルツルした食感を楽しんだあと、ワンタンを食べてみると、こちらはぷるっとと流れるようななめらかさだ。中の肉餡もジューシー。ワンタンの皮は製麺所のものだが、店で肉餡をこねて一つひとつ包んでいる。自家製麺が持つ喉越しのいいもちもち感とワンタンのぷるるんとした食感の競演。炭水化物好きなら何度でも味わいたくなるだろう。
煮込まれた国産豚のバラチャーシューもとろとろ。別添えの味たまにも驚かされた。黄身の中央部分だけがとろりと流れ出す絶妙な火の通り加減だ。
深くて安心感のある出汁の味をベースに、自家製麺やワンタン、チャーシュー、味玉とそれぞれ食感が高みを目指すよう。中華そばって咀嚼以上に、喉越しと舌触りで楽しめる食べ物だったのかと思わされる。
たくさんの飲食店に携わってきたから到達した後引く味と店づくり
いくつもの飲食店に携わる多忙な聞谷さん。けれども、週に一度はタオルを頭に巻いて『中華そば きくたに』に立つほど現場を大事にしている。
「この店では、食べ終わった人から手招きされて『おいしかったです』と言われることが多いんですよ。これまでの店では、経験しなかったことです」と聞谷さんは話す。
手間をかけた深みが感じられる味と清潔な店内。また来ようと思わされるラーメン店だ。
取材・文・撮影=野崎さおり





