明らかに今までにないツユ
『肉蕎麦盛盛』ひばりが丘店は、練馬区富士見台にある本店の支店として、2025年にオープンした。本店と同じくキリッとした生かえしを使ったツユの肉蕎麦が売りで、駅から離れた立地ながら、地元の人気店となっていた。その『盛盛』ひばりが丘店が、2026年6月11日に、駅から徒歩2分の好立地に移転再オープン。肉蕎麦が売りなのは変わらないのだが、今度は背脂肉蕎麦の専門店としてやっていくのだという。
実は、背脂肉蕎麦自体は、富士見台本店で先行提供していて、以前食べたことがある。背脂でコクを増したツユと、新開発の生麺が、なかなかに合っていた。しかし、あらためてひばりが丘店で背脂肉蕎麦を食べてみて、驚いた。ツユの印象がまったく違う。明らかに進化していたのである。
ツユ自体の味はかなり濃い。しかし背脂の甘みがツユ全体を包み込んでいて角は感じず、むしろまろやかさを感じる。そして、最初にドンと旨みが来たあとに、ダシの旨みがジワッと広がっていくのだ。その見た目から背脂系ラーメンスープの味をイメージしていたのだが、全然、違う。ちゃんと、そばのツユなのだ。しかも、今まで味わったことのない代物だ。
富士見台でも使っていた生麺は太くてツユ絡みがいいうえ、しっかりした風味で背脂に負けていない。噛み応えもあって、肉と一緒に食べていると、なんだかテンションがあがってくる。トータルで完成度が高いのだが、やはりこのツユのインパクトがすごい。
地球上にまだないツユ
店主の島田さんが「地球上にまだないツユ」と胸を張るこのツユは、完成するまでにかなりの試行錯誤があったようだ。普段から新メニュー開発に熱心な島田さんは、ある日、スーパーマーケットで豚の脂が売られているのを見て、ひらめきを感じた。さっそく購入し、店でツユに合わせてみたところ、これがかなりいける。すぐに豚の背脂を使ったツユの開発に着手し、『盛盛』のそばと合わせたところ、ゆで麺だったこともあってスープに負けてしまう。それならと製麺会社に頼み、独自配合でしっかりした生麺のそばを作ってもらった。
一方でベースになるツユをさらにブラッシュアップ。ダシに使っていた昆布としいたけを抜いて、カツオとソウダなどの節系だけにした。かえしを煮立てて焦がし、香ばしさを加える。こうして、濃くありながらまろやかで脂の甘みが立つ、独自のツユを作り上げたのだ。ちなみに豚の背脂は使っているが、豚骨は使っていない。島田さんが言うには「骨を使うと脂の透き通った甘さが生きない」のだそうだ。背脂を使ったツユと聞くと、ラーメンのスープをイメージするが、発想はまったく違う。たとえば鴨そばのツユは、鴨の脂が加わることでコクが増す。『盛盛』は、それを背脂にしたのだ。要するに、ラーメンスープの文脈とはまったく違うところから生まれた、新しいそばツユなのである。
まだまだ進化する背脂肉蕎麦
ちなみに開店して間もないにも関わらず、鶏油をプラスするオプションが加えられた。鶏のネックからとった鶏油は、背脂と同じく国産のもので香りがいい。これが加わると、またうまいのだ。ガツッとくる旨み、背脂の甘さに鶏油の軽やかな甘さと香ばしさが加わり、華やかな味わいになっている。背脂のみのしっかりしたおいしさもいいが、こちらもおすすめだ。
背脂肉蕎麦には、ほかにも楽しみがある。卓上にあるさまざまな調味料で、味変を試せるのだ。スタンダードに唐辛子を加えるのもいい。コショウがツユに合うのは、言うまでもないだろう。ニンニクを足すと、一気にパンチが出る。意外なのは青タバスコで、酸味が加わることで脂の甘みが増す。食べている途中に二番ダシを加えると、急にそばっぽくなって、これも楽しい。味わいがしっかりしているからこそ、さまざまなプラスアルファを受け止められるのだろう。客も試行錯誤を楽しめるというわけだ。
調味料の中で出色だったのが、青唐辛子の醤油麹漬け。そばに入れるのもいいが、サイドの塩むすびに肉を乗せ、その上に青唐麹をちょんと乗せて食べるのがおすすめだという。聞いたとおりにやってみたが、おいしくないわけがない。ちなみに背脂肉蕎麦にいかにも合いそうなライスはやらず、米類は塩むすびのみ。「立ち食いそばはおにぎりかじって熱いツユを飲む」のがベストだからだそうだ。そのざっくりした感じは、とてもよくわかる。
店は大通りから一本入った路地にあるが、駅に向かう道なので、朝晩は多くの通勤客が前を通る。それもあってか認知は早く、客足は順調だという。背脂肉蕎麦と聞くと、かなりのキワモノに思えてしまうが、いやいや、そばの正当な進化である。一度、食べてみれば「そばってここまでできるんだ」と、ワクワクしてくるはずだ。
取材・撮影・文=本橋隆司






