越田皓太さん

1989年石川県金沢市生まれ。金沢・香林坊で三代続く飲食店を経営。ライフワークとして路上観察を続け、ZINEやSNSなどで発信している。P箱以外には、七夕の短冊に書かれた言葉、古いサインポールの駆動音など街にある古い物の音、あまり知らない人の銅像などを収集。

@pbako_p_container

P箱は天下の回りもの

奥能登芸術祭にて、会場となった廃屋の一角で見かけたP箱。
奥能登芸術祭にて、会場となった廃屋の一角で見かけたP箱。

「飲食店を営んでいるので、P箱は日々のおなじみアイテムです。仕事で酒蔵や醤油蔵に行くこともあるんですが、蔵の前でカラフルなP箱が大量に並んでいる風景は、もともと好きでした。

P箱にグッと惹かれたきっかけは、奥能登芸術祭です。廃業した古い米問屋を使った展示会場の一角に、かつて使われていたP箱が当時のままの状態で置かれていたんです。箱の外装には『プラッシー』という、米穀店で売っていたらしい飲料のロゴが入っていました。

運搬用として使われていた時代。その後、作業台として使われていた時代。やがて建物が廃屋になり、今こうして僕が見ている──。一つのP箱の背後に流れる複数の時間を感じて、感動したんです。P箱は面白いと思い、注目するようになりました」

8本収納可能な岩手の清酒P箱。
8本収納可能な岩手の清酒P箱。
広島・尾道の酢工場前で見かけた、岡山の清酒P箱。
広島・尾道の酢工場前で見かけた、岡山の清酒P箱。

P箱はもともと、ビール大国・ドイツでビールの運搬用として誕生したという。ひとくちにP箱と言っても、製造元によってロゴや色が異なり、その多様な組み合わせも魅力の一つだ。

「お酒だと『清酒』と書かれた赤色のP箱がメジャーですが、醤油だと組合や会社ごとに色はさまざま。また牛乳用のP箱は、形状や箱に書かれたブランド名に地域性が色濃く出ています。

形状については6本入りが主流ですが、岩手や新潟の醸造組合のP箱は8本入りなど、地域によって箱のデザインは異なります。地域名やローカルな会社名が箱に書かれていることもあるので、旅行先でその土地ならではのP箱を見つけるのは楽しいですね」

野菜を販売するかごとして利用される牛乳P箱。
野菜を販売するかごとして利用される牛乳P箱。
金沢で見かけた、奈良の酒蔵のP箱。P箱はときどき転勤する。
金沢で見かけた、奈良の酒蔵のP箱。P箱はときどき転勤する。

よくビニール傘は“天下の回りもの”だと言われるが、実はP箱にも同様に“回りもの”の側面があるという。

「巷で見かけるP箱は、多くの場合レンタル会社が管理しています。面白いのが、お酒を注文した時に一升瓶が入っていたP箱は、購入時と違う酒屋さんに返しても引き取ってもらえること。酒屋さんはそれに一升瓶を入れて、今度は別のお客さんのところへ届ける。ある意味みんなの共有財産のような使われ方をされています。

そのせいか、例えば『岡山県の清酒』と書かれたP箱を広島で見かけたり、奈良県の酒蔵がつくったオリジナルP箱を金沢で見かけたりしたこともあります。おそらく流通の過程で紛れ込んでしまったんでしょうね。

『なぜここに?』と背景を想像するのも楽しいです」

P箱は働き者

鉢植えの台は、P箱のセカンドライフとして人気。
鉢植えの台は、P箱のセカンドライフとして人気。
耐水性があり丈夫なP箱は、工事現場や作業所などでも大活躍。
耐水性があり丈夫なP箱は、工事現場や作業所などでも大活躍。
バス停で椅子に生まれ変わったP箱。連結し天板を付ける工夫も。
バス停で椅子に生まれ変わったP箱。連結し天板を付ける工夫も。

頑丈で軽く、使い勝手のいいP箱。“回りもの”として流れ着いた結果、路上でさまざまな“第二の箱生”を歩んでいる。

「よくあるのは、鉢植えの台としての活用です。花を植えたいという気持ちと、ありあわせのP箱を使うという緩さのギャップがいいですよね。

また、お酒を取り扱う飲食店はP箱が手に入りやすいので、椅子や机、看板スタンドとして使われているのをよく見かけます。ほかにも工事現場や漁港、バス停など、さまざまな場所で活用されています。

車止めや仕切りなど、パイロンと似たような役割を担うこともありますね。パイロンとコンクリートブロックは、P箱とセットで使用されがちな“仲良しトリオ”です。

酒場ではP箱が椅子や机、看板スタンドとして活躍。
酒場ではP箱が椅子や机、看板スタンドとして活躍。
屋根がついた正体不明の改造P箱。
屋根がついた正体不明の改造P箱。
P箱とハロゴ(歯医者のロゴ)をまとめたZINE『箱と歯のポケット図鑑』。
P箱とハロゴ(歯医者のロゴ)をまとめたZINE『箱と歯のポケット図鑑』。

中には、鉢植えのための穴が空いていたり、屋根が付いていたりと、改造されているP箱もあります。本来はレンタル品のはずですが(笑)、路上で思い思いの使われ方をされているP箱を見ると、生活の中の工夫や、『そのへんにあったから』という適当さが混ざり合っているのが面白いです。

本来の運搬用として働いた後、“転職先”で違う形で活躍している。P箱はずっと働き者ですね」

 

取材・構成=村田あやこ ※記事内の写真はすべて越田皓太さん提供
『散歩の達人』2026年6月号より