増山かおり 著『東京の文学館ぶらり旅』(エクスナレッジ)

増山かおり 著/エクスナレッジ/1980円。
増山かおり 著/エクスナレッジ/1980円。

『東京のちいさなアンティークさんぽ レトロ雑貨と喫茶店』(エクスナレッジ刊)や、共著『町中華探検隊がゆく!』(交通新聞社刊)で知られる増山かおり氏による本書は、1都3県にわたる、89軒の文学館を案内する一冊。

扱うジャンルは小説にとどまらず、絵本、映画、漫画、アニメと多岐にわたる。構成は3段階に分かれ、1人の作家を深く知る場から、多様な作家に出会える場、さらには「ジブリ美術館」のように誰もが親しみやすい施設へと、段階を踏んで文学の世界へ誘ってくれる。

各館は基本情報に加え、カフェや売店などの施設設備がアイコンで整理されている点が実用的だ。また、作家と館の結びつきや歴史的背景もコンパクトに解説。未読の作家であっても不思議と「行ってみたい」と思わせる魅力がある。足を運んだ記念に、その作家の本を買って帰る楽しみ方もできそうだ。

本書は、日常と距離があるイメージの文学館を、ぐっと身近な「お出かけ先」へと引き寄せる。まずは本書を携え、心惹かれた「旧江戸川乱歩邸土蔵」から、のんびりとお散歩を始めてみたい。(奥田)

胡原おみ 著『ふたり街あるき 01』(KADOKAWA)

胡原おみ 著/KADOKAWA/913円。
胡原おみ 著/KADOKAWA/913円。

室外機、給水塔、トマソン建築……『散歩の達人』でも度々取り扱ってきた、いわゆる都市観察界隈のスターたち。ネットや雑誌などからその素晴らしさを享受することはあれど、まさか漫画でそれを体験することになるなんて……!

本書は、胡原おみ先生による“散歩”を題材にした漫画作品。

日々の生活に退屈している主人公のヒナが、都市観察趣味のあるカゲくんに出会い、何の変哲もないと思っていた街中や、カゲくんに少しずつ興味を持ち始める、というあらすじ。

読み始めは「女子大生が内気な成人男性を散歩に誘う!? そんなわけ!」と思ってしまったが、ヒナが街中の見落としていた景色に気が付き、視界が開けてくる様子は素直に共感できたし、なによりそういった気付きを他者と共感できることの素敵さが、めいっぱいのみずみずしさで描かれていて、恋愛(?)漫画としても、都市観察漫画としても満足のいく内容に感じた。

ちなみに本作はコミックウォーカーで連載中の作品なので、今後のテーマやヒナとカゲくんの行く末にも注目したいところ。

さらにちなみに、筆者も都市観察者の端っこの端くれとして、犬NG看板(敷地内の犬の侵入をお断りする看板)を散歩先で見つけては撮影し、SNSにアップしている。毎度ほぼ反響はなく、まれに友人S君の弟が「いいね」をしてくれる。カゲくんへの道は、遠い。(守利)

中前結花 著『ドロップぽろぽろ』(講談社)

中前結花 著/講談社/1870円。
中前結花 著/講談社/1870円。

読み終えてから、おひさまの温かさを抱きしめたような心地がした。まばゆさに目元をうるませながら。大切な人を失ったときのこと、好きな人と交わした何気ないやり取り、家族との時間、そんなささやかな自分自身のワンシーンが想起させられる読書体験だった。

本作は、著者が友人に「ZINEを作ってみないか」と誘われたことがきっかけで制作された私家版エッセイ集が原形となっている(商業出版にあたり追加エピソードも収録)。そんな「誰にも頼まれていないエッセイ」だったからこそ、著者の感性がより光り、その筆を通して紡がれる交流が愛おしく映る。

印象的だった一編をひとつあげるなら、「アイスコーヒーで」。登場人物の上手く紡げなくても言葉を尽くそうとする姿勢に「良いな……」と思いつつ、終盤の「青春のクライマックスじゃなかった」という言葉に、背中を押してもらえたような気がした。

ちなみに、本稿の序盤で「おひさま」という単語を用いたのは、ちょっとした意図あってのものだ。ぜひ本書を手に取って、そしてぜひ「おひさま」を聴いてほしいとも望んでいる。(阿部)

天竜川ナコン 著『世界は解釈でできている』(KADOKAWA)

天竜川ナコン 著/KADOKAWA/1870円。
天竜川ナコン 著/KADOKAWA/1870円。

「病は気から」と言うように、物事はこちらの気の持ちようでいかようにも捉えられる。この世界のすべて、実は自分の手のうちにあるのかもしれない。そう考えれば明日がちょっと生きやすくなるかも? 「世界は解釈でできている」という秀逸なタイトルで綴られるのは、ラッパー、ブロガー、YouTuberとして活躍する天竜川ナコンさん自身の経験則に基づくマインドの数々。ナコンさんのYouTubeチャンネル「現実チャンネル」の視聴者ならお分かりだろうが、ナコンさんにしかない表現がキラキラ光る1冊だ。だから自己啓発本のようでありながら、文学として読むのも楽しい。著者本人に共感しながらも自分を顧みて、ハッとさせられることばかり。生きづらさを感じているすべてのひとに手を差し伸べてくれるようで、読み進めるうちにわたしはその手を掴んで、そのままハグでもして労いたいようなあたたかな気持ちにさせられた。ありがとうございます、ナコンさん! これからのご活躍も楽しみにしています!(中島)

陣内寛大・樋田英能・株式会社GEOTRA 著『まちづくりのための人流ビッグデータ活用入門』(学芸出版社)

陣内寛大・樋田英能・株式会社GEOTRA 著/学芸出版社/2750円。
陣内寛大・樋田英能・株式会社GEOTRA 著/学芸出版社/2750円。

私は散歩をする時、かばんも、財布も、携帯電話も持たない。スポーツ選手が競技中にそれらを持たないのと同じで、私はこの「競技」に集中し、空を眺め、足元の植物に目をやり、初めての道をあえて進むのである……。しかし、携帯電話(スマートフォン)を持っていたら、自分がどこにいるのかが分かるし、自分がどのくらい歩いたのか、あるいはその途中で何にお金を使ったのか、詳しいデータとして知ることができる。実は、これらのデータは自分が確認するためだけではなく、社会のためのデータとして活用されている。私がスマートフォンを持って歩く時、それはとある市民のとある行動データとして収集されているのだ。もちろんスマートフォンだけでなく、防犯カメラや、交通状況などのさまざまな情報からも人の動きを読み取ることができる。これらの「ビッグデータ」をもとに、まちづくりのためにどのような分析が行われているのかを解説。私たちの日常がこんなにもデータ化されているのかと驚かされるが、まちを「データ」の視点から読むことで散歩の新たな視点を得ることができると思う。(小野)

村瀬秀信 著『令和になっても気がつけばチェーン店ばかりでメシを食べている』(講談社)

村瀬秀信 著/講談社/990円。
村瀬秀信 著/講談社/990円。

『散歩の達人』本誌の連載でもおなじみ、「絶頂チェーン店」村瀬秀信さんの書籍化第4弾。チェーン店について20年近く書き続けている筆者をもってしても、今回は特に激動の時代だったことを痛感させられる内容だ。その中心は、言うまでもなくコロナである。

「新型コロナ下の飲食チェーン店」の回は2020年春、最初の緊急事態宣言が出された頃の連作。カウンター主体の店は感染リスクが低いのではないか? とささやかれつつも外出自粛を迫られ、チェーン店ですら休業してしまうデストピア感。「UBER EATS」で久しぶりに頼んだ焼き肉のうまさに、コロナ前の幸せを痛感してしまう……。今でこそ「そんなこともあったなぁ」と懐かしく思えるが、本当に価値観が変わった時期だった。

他にもAIを導入したオートメーション化やタッチパネルの普及、配膳ロボットも珍しくなくなった現代。「早く」「安く」「誰でも等しく提供できる」という原則に則って、日々アップデートされているチェーン店は、テクノロジーの集合体であり、社会の縮図でもある。個人的に好きなのは、執拗にQRコード注文を迫られる「QRコード始末記」の回。理屈は分かるが、どうも実利にかなわないことがある。それでも、反発せずに受け入れなければならない時代であることを、悲哀たっぷりに描いた名作だ。

コロナ禍の生活も、今ではこうして読まないと思い出せなくなるように、「慣れ」は人間の感覚を鈍らせてしまう。だからこそ、この本は50年後、100年後にこの激動の時代を市民の視点から捉えた貴重な史料になる可能性を秘めている。(高橋)

構成・撮影=散歩の達人/さんたつ編集部

毎月、「今月のサンポマスター本」と称して編集部おすすめの本を紹介している本連載。街歩きが好きな人なら必ずや興味をそそられるであろうタイトルが目白押しだ。というわけで、今回は“サンポマスター本”6冊を紹介する。
文学作品の表現の一節に“散歩”的要素を見出せば、日々の街歩きのちょっとしたアクセントになったり、あるいは、見慣れた街の見え方が少し変わったりする。そんな表現の一節を、作家・書評家・YouTuberの渡辺祐真/スケザネが紹介していく、文学×散歩シリーズ【文学をポケットに散歩する】。今回は、織田作之助、太宰治、永井荷風、西行の作品・文章をご紹介します。これまでの本シリーズでは、キーワードを設定して、散歩に役立つ気持ちや視点を考えてきました。だが散歩とは具体的な「場所」あればこそ。そこで今回は「聖地巡礼」をテーマに、東京や上野といった実在の場所を描いた作品を味わってみたい。
4月23日は「本を贈る日/サン・ジョルディの日」。その日に合わせ、「さんたつ編集部メンバーがそれぞれのおすすめ“散歩本”を紹介する企画をやりましょう!」、という1人の編集部員の思い付きで実施が決まったこの企画。はじめは1人1冊、ということでしたが、なかなか1冊に絞り切れず……結果、厳選して1人3冊ずつセレクトしてきました。この記事がきっかけで「本を贈る」瞬間が生まれたらこの上ない喜びです。文京区本郷の登録有形文化財『旅館 鳳明館 本館』に集い、おすすめ本について自由気ままに語り合ってみました!