築60年以上の単身者向けアパートが、最小文化複合施設に変身

この外観は、萩荘の大家さんの希望もあり、街に馴染むようにと『HAGISO』として生まれ変わる際に黒く塗られたのだとか。

もともと単身者向けアパートだった萩荘は、2011年に老朽化により解体される……はずだった。しかし、この萩荘に当時住んでいた住人たちが「この価値を後世にも残したい!」とアート展を開催したところ、1500人以上が集まりイベントは大成功。地域にとって萩荘は“なくてはならないもの”と認識され、2013年カフェやサロン、イベントなどを行う最小文化複合施設『HAGISO』がオープンした。

2階にはサロンスペースがあり、一角には萩荘時代の小物も展示されている。ここだけ見ると昭和にタイムスリップした気持ちになれる。

この『HAGISO』が大好きで2017年に入社し、現在は1階にある「HAGICAFE」の店長を務める星野茉子さん。もともと大手カフェチェーンで働いていたが、下町のゆっくりとした空気の虜になり「HAGICAFE」に初めて食事に来たその日に履歴書を提出して、働き始めたのだとか。そんな星野さんに「HAGICAFE」のおすすめを聞いてみた。

「初めて「HAGICAFE」にいらっしゃったなら、ラム漬け無花果(いちじく)のチーズケーキ630円と、HAGISOオリジナルブレンド550円のセットがおすすめですね。パフェやキーマカレー、サバサンドなどメニューが豊富なので悩まれる方が多いのですが、このセットを頼まれたら『この人、わかってるなぁ〜』って唸っちゃいます(笑)」

スタッフ厳選の逸品を味わえる“旅する朝食”

旅する朝食第10弾の東京morning 1000円。炊き立てのごはんとほっとするお味噌汁とともに、東京の美味しい逸品が肩を並べる。個人的なイチ押しは、増田屋のお好み揚げ!

「HAGICAFE」は、朝8〜10時までのモーニングタイムと、12〜20時までのカフェタイムの2部構成で運営されている。モーニングタイムに提供されるのは、旅先で出会ったこだわりの食材や郷土料理が味わえる『旅する朝食』。献立内容は半年ごとに変わり(東京は1年間提供中)、スタッフが厳選した食材がお皿に並ぶ。

青海ポークと奥多摩のわさびを使った「わさびのもろみ漬けポーク」は、驚くほど白米が進む。朝からガッツリかな? と思いきや、あっという間にご飯もお肉も無くなってしまった。

モーニングでもうひとつ注目したいのは、店内のBGM。季節ごとにご近所さんやスタッフ、アーティストの方々が選曲する「good morning ears 〇〇の朝」が行われている。朝食の提供時、献立とともに楽曲リストがもらえるので、「わ! 好きな曲だ!」「次の曲まで聴いたら帰ろう」など音楽を楽しむ喜びも感じられるのだ。

常連さんも新規さんも、いろんな人が楽しんでもらえるのが一番嬉しい

休日は若者に人気の『HAGISO』。雨の日や早朝は、常連さんがこっそり訪れる穴場スポットになるという

現在は『HAGISO』だけでなく、立ち飲み屋さん、お弁当屋さん、八百屋さんと谷根千エリアに複数の店舗を運営するまでに拡大し、働いているスタッフは80名以上になったそうだ。イベントごとにやってくるお客さんも変わり、日々変化していく『HAGISO』は今後どんなお店になるのだろうか。

「『HAGISO』のロゴって、Hの文字から線が伸びて受け皿のように文字を囲んでいるんですけど、今後もそのロゴのようにどんなものでも受ける場になることが理想です。コーヒーを飲みに来た常連さん、初めてイベントで訪れた方、ふらりと立ち寄っていただいた方、サロンをやる方、そのお客様、ここに関わる全ての人が思い思いに楽しんでいただける、街の公民館のような憩いの場になりたいです。」

手前の本棚は萩荘時代、下駄箱として使われていた棚をリメイクしたもの。コーヒーを頼んだ時に出てくるコースターもリニューアル工事の廃材を使っているそう。

「HAGICAFE」では「リハーサルカフェ」という接客をテーマにしたイベントや、関係店舗を横断した企画なども積極的に行っている。専門店やこだわりのルールを持った飲食店が増えている昨今、『HAGISO』のように自分から楽しみを見つける飲食店は少なくなっているかもしれない。何度も『HAGISO』に通いながら、自分なりの楽しみ方を見つけたい。

住所:東京都台東区谷中3-10-25/営業時間:8:00〜10:00LO・12:00〜19:00LO/定休日:不定/アクセス:JR日暮里駅、地下鉄千代田線千駄木駅から徒歩5分

取材・文・撮影=つるたちかこ