そばにスリランカの調味料を!
『蕎麦食堂 つぐみ』があるのは、京葉道路沿い。ロードサイド店というと、ドライバー向けの丼セットなど、ガッツリメニューが充実していることが多い。『つぐみ』もカレーやかつ丼などのセットが人気なのだが、こちらの魅力は、なにより丁寧な作りのそばだろう。
たとえば、最近始めた「つぐみ式タンタン蕎麦」という変わりメニュー。想像するのはおそらくゴマダレにラー油を混ぜて肉みそをのせた、「担々麺」のそばバージョンだろう。普通のそば店がやる「タンタンそば」は十中八九、それだ。
だが、つぐみ式タンタン蕎麦は、ツユはそばツユらしく透き通っていて、上にニラと粗挽き肉がスパイシーに炒められたものがのる。名古屋の台湾ラーメンに近い。驚くのが、このスパイシーな具がそばツユを邪魔していないことだ。ダシの旨味がしっかり感じられ、そこに肉の旨味と辛味がのっかってくるのだが、ツユのうまさはしっかり残る。味付けが実にうまく組み立てられていて、ちゃんと「そば」として成り立っているのだ。
店長の平良伸さんに聞いたところ、最初のモデルにしたのは勝浦タンタンメン。しかし、中華にいかず和食に寄せるため、スリランカのスパイスを使っているという。スリランカで和食? 実はそのスパイスには乾燥させたマグロの身(モルディブフィッシュ)が使われていて、和食の味つけに合うのだという。ツユとスパイスがなじんでいたのは、そのためだったのである。
再オープンで方針転換
独創的なそばが楽しめる『つぐみ』だが、以前は普通の立ち食いそば店だった。もともとこの場所には『絆』という立ち食いそば店があった。そこが2021年に閉店したあと、建設関係の仕事をしていた平良さんの父親がオーナーになり、『つぐみ創心』という立ち食いそば店を始めた。
当時はドライバー客狙いで、椅子なし立ち食いオンリーのスピード勝負の店。ある程度の客入りはあったもののいろいろな事情が重なり、1年後に店を閉めることに。平良さんは洋食や和食の飲食店で働いていたが、ちょうど怪我をして仕事を休んでいた状態。店を閉めるなら自分がと手をあげ、22年に『蕎麦食堂 つぐみ』として再オープンすることになった。
その際に椅子を設置して、もっとゆっくり食事を楽しめる店に方針転換。「蕎麦食堂」という店名には、その思いが込められている。メニューも開店当初こそ前の店のものを踏襲していたが、丼ものや変わり種など、だんだんと増やしていった。前職の経験を生かしたかったという。
変更当初は以前の客が離れて売上は落ちたが、そのおいしさがじょじょに広がって、客足もだんだんと増えていった。店があるのは車がひっきりなしに行き交う京葉道路沿いだが、そこからちょっと入ると住宅が多く立っている。ドライバー需要もあるのだが、「ゆっくり食べたい」需要も実はあったのだ。現在は月~金はドライバー客メイン。土曜はドライバーにプラス、高速利用のレジャー客。日曜はレジャー客にプラス、近隣の住民と、切れ目なく来てもらえているという。
手間ひまがかかっている新メニュー
『つぐみ』の変わり種はどれもこれもよくできているのだが、平良さんが全部考えているわけでなく、従業員からのアイデアも多いそうだ。「こういうの面白そう」という提案を平良さんがすくい上げて、煮詰めていく。試作は何度も行い、従業員や知り合いに試食してもらってさらにブラッシュアップし、店に出すのだという。けっこうな手間がかかっているが、平良さんは「楽しい」と言う。根っからの料理好きなのである。
「パクチー小エビかき揚げベトナム風そば」をいただいたが、これが秀逸だった。普通のそばツユかと思えば、これがスッパ辛い。このツユに小エビの風味とパクチー独特の香りが抜群に合う。名前の由来はベトナムの発酵調味料を使っているから。しかし、これまた出しゃばりすぎず、ツユの風味とうまい具合に混ざり合っている。「ベトナムそば」にならず「ベトナム風そば」なのだ。
もちろん、普通のそばの出来もいい。ツユはダシの風味がしっかりしつつ、バランスの取れた味わい。そばは生麺使用で、注文後に丁寧に茹でられる。これまた注文後に揚げられる天ぷらは(朝は揚げ置き)、具材のバランスが絶妙だ。人気の「ゲソ紅しょうがかき揚げ」は、なにより具材である紅しょうがとゲソ、タマネギの量のバランスがちょうどいい。どの具材も存在感があり、なおかつ一体化したときのおいしさが楽しめる。
まだ28歳と若い平良さんは、今後は支店を増やし、将来は海外にも進出したいと語る。おいしさのために手間を惜しまない『つぐみ』なら、どこでやっても支持されるだろう。
取材・撮影・本文=本橋隆司





