生活に溶け込んだ、この地ならではのグルメ
素食はすっかり生活に溶け込んでいて、特殊でも何でもない。肉抜きという縛りをあえて楽しみ工夫している気配すらある。それゆえ種類は呆れるほどに豊富だ。そしてうまい。定番のベジ中華のみならず、ベジ・イタリアン、ベジ・ベトナムなどなども登場して日々進化。個人的には台湾に戻るたび、この地ならではのガチなグルメとして気楽に楽しんでいる。
別に台湾の人々の健康意識がまぶしいほど高い、なんてことではない。ベジが支持されているのには、健康やエコ志向といった今風の理由もあるけれど、伝統に根ざした理由がいくつか組み合わさっている。
長い歴史を持つ算命学(中国占星術)のお告げや、神さまに願掛けして成就するまで肉断ち、なんて習慣もしばしば耳にする。さらに大きいのが道教と双璧をなす仏教の影響だ。台湾の仏教では、殺生を避けるため肉食を断つ。さらに欲望や怒りを刺激し、修行の妨げになるとして五葷と称する刺激の強い野菜(ニンニク、ネギ、ニラ、ラッキョウ、タマネギ)も取らない。時折ベジ料理店に仏像が鎮座ましましていることがあるのは、それゆえのこと。当然ながら寺での食事はベジである。
台中市の寺院で僧侶とランチを共にする機会ですと!?
台湾ベジの主流と言えるお寺の料理を、常々口にしてみたいものだと願っていたら、地元のベジタリアンの友人が、通いの寺で僧侶と彼らの普段のランチを共にする機会を作ってくれた。友人&仏様ありがとうございます。
訪れたのは台湾中部の台中市。在来線台中駅から車で30分ほど、北方の霧峰(ウーフォン)区にある護國寺(フーグゥオスー)。周囲を田畑に囲まれ、白い壁とオレンジの瓦屋根が印象的なコンパクトな寺院である。台湾の古刹によくある派手さはなく、凛としたたたずまいの現代建築だ。開口一番「日本にも護国寺があって、自宅の近所なんですっ」とか舞い上がって口走ったら「それは仏縁ですね」と、住職の海量法師が、たおやかにお答えになられた。
台湾では高学歴な女性僧侶が仏教界を支えているのが特色だそうだ。住職もそのひとりに含まれる。のみならず護國寺の僧侶は全員女性である。寺院内は山門の先にまず天王殿があり、道教の最高神・玉皇上帝と四大天王が祀られている。この地で共に祀られていた名残だ。仏教・道教・民間信仰が混ざり合っている台湾らしい仕様である。
天王殿の後方は中庭で回廊が取り囲み、突き当たりに立派な本殿が厳かに立っている。祀られているのは釈迦・薬師・阿弥陀仏の三尊像である。本殿の傍には、広い洗い場と厨房、食堂が続いている。三尊像に参拝したのち、さっそく調理スペースを見せていただく。
洗い場は吹き抜けになっていて、床に野菜が丁寧に並べられている。厨房にお邪魔すると、僧侶がひとりで料理作りに勤しんでいた。この部屋もゆったり広い造り。行事がある時などにはベジのご馳走が大量に用意され、信者も大勢手伝いに集まるゆえの広さだ。一角には南無大聖緊那羅王のお札とともに像も飾られていた。あとで調べたら中国式仏教寺院でつきものの料理人を管理する菩薩なのだそうな。こういった日本との微妙な違いがまた興味深い。
食材は自然の恵み。せっかく食べるなら、おいしくいただくべき
厨房の隣は食堂で、壁に穿ったカウンター越しにバットに盛られた料理が運ばれていく。準備が済んで正午になると、係の僧が板を叩いて食事時を知らせる「打板」が行われる。僧侶が食堂に次々と集まってくる。それぞれ小ぶりな鉢を手に、バットから料理を黙々と取っていく。さまざまな野菜の肉風の煮物や揚げ物、炒め物、果物……と10種類以上並んでいる。台湾軽食の定番、自助餐廳(ズゥヂュツァンティン)というビュッフェ形式の店と見た目そっくりだ。台湾におけるこの形式、お寺がルーツなのかな。
全員が料理を取り、正面奥の住職の席を中心に4列に並ぶ席に腰掛けると、まず食前のお経を合唱。そしてさあ食事となる。食事中の会話は一切なし。おのずと自分の皿に盛った料理に真っ直ぐ向き合うことになる。
ゲスト待遇であらかじめ皿に取り分けてもらったものを頂戴する。見た目は素朴だが、多彩かつなかなかのボリュームである。丁寧に作られていてさっぱりとした味わいがしみじみうまい。鶏を彷彿させる揚げ物の衣のサクサク加減なども乙だし、白米もキヌアをかけてあったりして手抜かりがない。見事な日常のベジ食である。おかわり自由で、むしろ無駄に残さないように努めている様子もうかがえる。
食べ終えると全員で食後のお経を合唱して終了。それぞれが器を手に洗い場に向かい、黙々と洗って片付ける。
さらにその後、全員で本殿の周りを時計回りに歩いて巡る。「經行(きんひん/きょうぎょう)」という作法だ。仏様の前を通る時は一礼し、何周かゆっくり繰り返す。食後のいい運動である。
「料理はいかがでしたか?」經行を終え、回廊のテーブルでお茶を振る舞われながら、住職の海量法師に尋ねられた。
「好(はい)、非常好吃(とてもおいしかったです)、謝謝您」お世辞なしで答える。
伺った話によると、食材は自然の恵み。せっかく食べるのだからおいしくいただくべき、料理も修行のひとつという考えがあるそうだ。だからきちんとうまいのである。台湾人に食いしん坊が多い理由を、ちょっと理解できた気がする。ベジ料理ならではの、胃もたれしない満腹感に満たされながら、ゆったりとした時間を過ごして帰路についた。
お寺の食事は無料で提供される。そして善男善女の来訪は拒まない。護國寺も中国語がしゃべれるか、通訳がいればという前提をクリアすれば、誰でも歓迎してくれるであろう。訪れてみたいときはお寺のFacebookで連絡してもらえばとのこと。
台湾の食文化は深い。
取材・文・撮影=奥谷道草





