【1】元“魚屋さん”で街の人と憩う
お茶を手に魚と本でつながる人の輪『fish and books azumaya』
シェア本棚のそばではお茶を手に、4人で満席の卓で四方山話。狭小ながら、元魚屋らしく月に2日のお魚ランチ、煮魚やその煮汁で炊く卯の花などの魚系総菜を気まぐれに販売する。店主は好奇心旺盛な斉藤亜希子さん。その朗らかさにひかれた常連客たちとともにイベントも多々催す。仲間が仲間を呼ぶ場だ。
11:30~19:30(土・日は~18:30)、月〜木休。☎090-5217-0579
【2】山崎製パンの聖地を巡礼!
ご当地ランチパックは水曜を狙うべし『ヤマザキプラザ市川店』
ルヴァン種を用いた焼きたてパンに洋菓子、和菓子、大判焼き売り場が並び、1階のカフェでイートインも可。しかもコーヒーは朝10時まで100円で「16年、値段はそのままです」と、店長の植木一敦さん。また、ランチパックコーナーには毎週水曜にご当地モノ1種が登場し、「予約だけで完売することもあります」。トリビアパネルも要チェックだ。
7:00〜21:00(日・祝は〜20:00)、無休。☎047-369-6338
【3】民藝の系譜を味わい倒す
和み系雑貨と焼き菓子にほっこり『hana クッキーと本とくらし』
染色家の柚木沙弥郎を祖父にもつ丸山祐子さん・土谷尚子さん姉妹が営む小さな店は、温もりを感じる数々の民藝と焼き菓子の共演に心躍る。祖父の展覧会を機に誕生したクッキーは、絵本に登場するイヌやネコたちがモチーフ。素朴な味とキュートさが手みやげにもうってつけだ。マフィンやタルトを味わいつつ、沙弥郎さんの本や手拭い、ポストカードを物色したい。
11:00〜18:00、日〜木休。☎047-727-9157
【4】創作意欲が街をつくる
アートで変身し続ける商店街の一角『ギャラリーf』
時にジャズ喫茶、時に映像展と、展示の幅は無限大。運営は斜向かいに構える「かめ設計室」だ。大門通りで催される麻まるしぇ参加を機に「手作りに目覚めました」と代表の羽渕雅己さん。空き店舗を活用して建築模型や文具雑貨を並べるうち、地元作家たちから貸しギャラリー要望が続き、今に至る。第2・4土曜は踏切マルシェを開催。
10:00ごろ〜 17:00ごろ、火・水休。☎047-383-9522(かめ設計室)
【5】神保町からやってきた老舗のロシア料理店
市川流にロシアを楽しむ『ろしあ亭』
建物の老朽化で神保町から移転する折、友人に誘われたのが市川。「ロシア料理を法事で利用する方もいます」と、初めての経験に店主の北市泰生さんは相好を崩す。ソバの実米が付け合わせのまろやかな白いビーフストロガノフに、甘みと酸味がやさしいボルシチなど、看板料理はそのまま。
11:30〜14:30LO・17:30〜22:00LO(土・日・祝は21:00LO)、火休。☎047-711-3223
【6】ここでしか味わえないお酒と出合う
ポツンと一軒酒屋でほろ酔う『ささ蔵 成桝』
明治期から営む商店だが、「私、お酒が大好きで」と、店主の石原敏子さんは日本名門酒会が発足したのを機に酒専門店に転身。仕入れは味に納得したお酒のみ。「お客さんも、味を確かめないとわからないでしょ」と、始まる試飲の嵐に歓喜。4蔵に特注した店オリジナル日本酒を含めて120種以上あり、稀有な和ウイスキーも揃う。
13:00~19:00(日・祝は~18:00)、月・木休(月が祝の場合は翌火休)。☎090-1555-2980
【7】アートなラビリンスを探検
元銭湯を生かした秘密基地『アトリエ*ローゼンホルツ』
店主の佐藤真里さんは「本を読まない人にも楽しさを知ってもらう場」として大正12年(1923)築の銭湯のバックヤードを活用。元炊き場は百円古本コーナーで、住み込みの人が暮らした隠れ小部屋、2階に連なる小部屋と廊下にアートを月替わり展示。入り組んだ構造まるごとアートインハウスだ。和室カフェでは韓国ランチやおやつがいただける。
12:00〜17:00、火〜木休。☎090-1808-8911
まるごと迷宮の街をさまよう面白さ
駅前で燦然と主張するのはヤマザキの文字。市川が拠点だけあって、デイリーヤマザキは石を投げれば当たるほど林立し、『ヤマザキプラザ市川店』は聖地というべき場所だ。とはいえ、駅近だけで済ますなんて、もってのほか。駅の南北に商店街がポツポツと延び、路地に民家系店舗が隠れていたりして、思わぬ発見の連続だ。
その最たる場所が『アトリエ*ローゼンホルツ』。入り組んだ路地は「以前は見番もあった昔ながらの町割り。芸者さんも数多くこの第二大正湯に通っていらしたと聞いています」と、店主の佐藤真里さん。路地のみならず、店内がまた迷宮のようで、探検し、展示や本に見入っていると時間は瞬く間。「うちの時計はみんなすぐに狂ってしまって、時間が分からなくなるやばい場所って言われます」。
けれど、不思議と心地いいパラレル感。甘い目まいに襲われる。
モノもイベントも、のほほんと手作り
この店を足がかりに、市川にほれたと打ち明けるのは「かめ設計室」の羽渕雅己さん、山田晶子さん夫妻だ。「大門通りの雰囲気がまたいいんですよ。のんびりした空気感があって。面白い方もたくさんいますよ」。羽渕さんらは周辺の店主らに感化され、自らかめ雑貨を作り『ギャラリーf』を開設。果ては約500mの大門通りに点在する店舗有志で同時にマルシェを開催するように。どこも店舗周りだけの小さな規模だが、そぞろ歩きが楽しいのなんの。「人通りも増えたかな?」と羽渕さんは目尻を下げる。
「かめさんが来てからみんながつながって、面白いことが始まった気がします。市川の魅力を地元に気づかせてくれました」と目を輝かすのは、祖父の沙弥郎ファンが全国から訪れる『hana』の丸山祐子さんだ。そしてこの店もシェア棚主に名を連ねる『fish and books azumaya』は、ジャズを流す魚屋『東屋』が前身。強みを生かした魚料理のみならず、カルチャー発信も魅力で、客たちが手伝いを買って出たくなる、心浮き立つイベントは増える一方。地元の交流が深く広がっている様子だ。ほかにも、まちはずれの酒屋に次々と人が足を運ぶパラダイスもあり、さまようたび、新たな扉が開かれる。
ふと見上げると、酒を飲ませた縄製の愛嬌たっぷりの手作り大蛇が木に巻きついて人々を見守っていた。今じゃ珍しい風習は、力を合わせてみんなで手を動かした賜物。素朴な手作りの温もりが、古来より脈々と街のすみずみにまで浸透し、紡がれているのだ。
空が広く、樹木が繁り、たっぷり水を湛えて蛇行する江戸川もあって、市川は里の風情が濃厚だ。川べりで地域猫が惰眠を貪り、節分の頃はダイヤモンド富士だって見られ、大らかな情景が街の気質を形作っている。住民たちと並んでうっとり夕焼けを眺めたら、夜の街にも出かけたい。老いも若きも、左党も下戸も、一緒に卓を囲むごはん処が待っている。
取材・文=林 さゆり 撮影=泉田真人
『散歩の達人』2026年1月号より







