(左上から時計回りに)『革工房 yino』の店主・井上祐司さん。参道にあった「宝月堂」の松丸美加さん、『発酵レストラン 醸し』を手伝う。市川在住、社会保険労務士の加藤正紀さん、アートイベントも開催。市川在住のフォトグラファー・神谷和女さん。株式会社アノニギワヰの山岡優斗さん、千葉商科大学の学生プロジェクトも進行中。『104powerflower』を営むフラワーアーティスト・加藤年恵さん。株式会社地域会議の上坂 理さん。デザインを務めたミカヅキ合同会社の佐藤ヒロックさん・森 弥生さん夫妻。
(左上から時計回りに)『革工房 yino』の店主・井上祐司さん。参道にあった「宝月堂」の松丸美加さん、『発酵レストラン 醸し』を手伝う。市川在住、社会保険労務士の加藤正紀さん、アートイベントも開催。市川在住のフォトグラファー・神谷和女さん。株式会社アノニギワヰの山岡優斗さん、千葉商科大学の学生プロジェクトも進行中。『104powerflower』を営むフラワーアーティスト・加藤年恵さん。株式会社地域会議の上坂 理さん。デザインを務めたミカヅキ合同会社の佐藤ヒロックさん・森 弥生さん夫妻。

『なかやまBASE』は、新たに何かを始めたい人のためのチャレンジの場

「子供が生まれたらここで記念写真を撮るのが夢だった、っていう人もいるんです」。2010年ごろまで「湯浅寫眞館」として営業していたこの建物は、人々の思い出を形に残してきた場所。しばらく空き家になっていたが、市川市の中山参道活性化事業「なかやま参道にぎわいプロジェクト」の拠点『なかやまBASE』としてリノベーションし、2025年9月に新たなスタートを切った。

事業を担う地域会議の上坂さんは、千葉県内を中心に数々の地域振興に携わってきたまちづくりプロデューサー。船橋市出身で鬼高(おにたか)や高石神(たかいしがみ)など近所に住んでいたこともあり、参道を見渡して「以前よりは商店が減りました」と話す。

「にぎわいを取り戻すには単に観光地化するのではなく、この場所を好きで理解してくれる人を増やしたい。だから、まずは愛着を持って取り組んでくれる人に仲間になってもらったんです」

集まったのは、それぞれの分野で街にかかわるプロフェッショナルたち。上坂さんいわく「みんな多才で活動の幅が広く、感性が共通している」メンバーだという。

京成本線の踏切とその奥に見える黒門。参道はゆるやかにつづく上り坂だ。
京成本線の踏切とその奥に見える黒門。参道はゆるやかにつづく上り坂だ。

デザインやブランディングを担当したのは、事務所も近所だというミカヅキの佐藤さん夫妻。「デザインの力で地域を盛り上げたい」と市川のご当地ガチャを手掛け、鬼越(おにごえ)のマルシェにも携わっている。『なかやまBASE』のロゴは門と門の間に延びる参道をイメージしたもので、まさに歴史と人をつなぐ取り組みの象徴だ。また、建物は電気配線をすべて入れ替えるなど施設として機能させるために手を加えつつ、長く親しまれてきた写真館としての風合いもなるべく残してある。

そして『なかやまBASE』の大切な役割として掲げているのが、新たに何かを始めたい人のためのチャレンジの場。「市川には熱い思いを持っている人がいっぱいいるので、がっちりと決めすぎずに器を用意しておきたいんです。見る場所によって主役が変わるほうがいい」と上坂さん。短期間の出店やワークショップ用のスペース貸し出しなど、スタートアップを手助けするシステムで挑戦したい人を柔軟に迎え入れてゆく方針だ。

逆境を乗り越えて、課題に取り組んだ試行錯誤の轍

境内入り口にそびえる山門。大正時代の再建で、赤門や仁王門とも呼ばれる。
境内入り口にそびえる山門。大正時代の再建で、赤門や仁王門とも呼ばれる。

こうして走り出したプロジェクトの土台には、地域による長年の尽力もある。

「かつて参道には八百屋や魚屋、寿司屋にそば屋もたくさんあったんですよ」と話すのは、法華経寺の執事・田中さん。「しかし、祖師堂を建造時の形に復元する解体修理が1987年から10年間続きました。大規模な工事だったので参拝スペースがなく、その影響で参詣者がぐっと減ってしまったんです」。ただでさえ商店街にとっては苦しい時代、大型商業施設が登場したこともあって、参道の店が逆風にさらされる時期が続いたのだ。

サトイモを皮付きのままふかした「きぬかつぎ」は中山名物。
サトイモを皮付きのままふかした「きぬかつぎ」は中山名物。

途絶えた行事の復活や骨董市の発案などで参詣者は戻ってきたものの「こんなに立派なお寺があるのに、そこへ向かう参道は通り過ぎるしかない状況でした」と田中さん。ほかの寺社を視察して参道がどうあるべきか考え、活性化のため方々に働きかけたという。2004年には法華経寺と商店会・自治会でまちづくり協議会が発足し、当時まだ珍しかった無電柱化や木製の看板に統一するなど景観の整備が進んだ。参道の商店に呼びかけてイベントも開催し、おひなまつりでは幼稚園や学校でつくったつるし雛(ひな)がすべての店に飾られて参道が春一色になる。

「お寺だけではなく市と商店会とが一体となって、若い人たちが『ここで商売したい!』と思ってくれる参道にしたいんです。みんなでやろうという雰囲気がようやく定着してきたかな」

人が集い、思いが実り、チャレンジがスタートした。中山参道は、新しい歴史を刻みはじめている。

仁王門より先は石畳の参道。龍淵橋手前にはお茶屋さんも並ぶ。
仁王門より先は石畳の参道。龍淵橋手前にはお茶屋さんも並ぶ。

『なかやまBASE』

築70年を超える建物は、長年積み重ねられてきた温もりをあちこちに感じる。
築70年を超える建物は、長年積み重ねられてきた温もりをあちこちに感じる。

【2F】写真館の面影色濃い空間を可能性広がる場に「チャレンジワークショップ」

2階は、写真館時代に撮影スタジオだった部屋がほぼそのまま残っている。
2階は、写真館時代に撮影スタジオだった部屋がほぼそのまま残っている。

階段を上がった先は、市川市内に在住・在勤する人が借りられるワークショップスペース。市川の『104powerflower』によるフラワーアレンジメントレッスンなどを開催している。

【1F】チャレンジショップ

「手しごと」と「食プロジェクト」の2軸でチャレンジやスタートアップの場を提供するプログラム。それぞれ出店者や参加者を募集し、数カ月ごとの期間限定で出店・営業する。

かゆいところに手が届く手づくり革小物『革工房 yino』(1F)

『なかやまBASE』の一角が工房兼店舗。
『なかやまBASE』の一角が工房兼店舗。
キーケース4500円。
キーケース4500円。
トート1万8000円と持ち手に取り付けられるミニマムトート3600円。
トート1万8000円と持ち手に取り付けられるミニマムトート3600円。

「お客さんとの会話でヒントやアイデアをもらっています」と話す井上さん。趣味で続けてきたレザークラフトを2024年から本格始動、第1期出店者として手を挙げた。自転車の鍵を取り外せるキーケース、ポケットティッシュを畳んで持ち運べるカバーなど、シンプルながら工夫が光る。

10:00~18:00、水休。
2026年3月末まで営業予定。
Instagram:leather_craft_yino_official

地域の食文化を醸(かも)す、地産地消の発酵料理『発酵レストラン 醸し』(1F)

ランチコース3080円には、並木家に代々伝わるイカの麹漬けを使ったお茶漬けも。
ランチコース3080円には、並木家に代々伝わるイカの麹漬けを使ったお茶漬けも。
内装は並木シェフのDIYで、和洋折衷の昭和レトロな雰囲気。
内装は並木シェフのDIYで、和洋折衷の昭和レトロな雰囲気。
並木シェフ。
並木シェフ。

香取市佐原にある本格イタリアン『リストランテ カーザ・アルベラータ』のオーナーシェフで、地域活性化にも尽力する並木一茂さんがプロデュース! 東庄(とうのしょう)産のSPFポークや銚子港直送の旬の魚など、千葉県の食材を伝統の発酵調味料で際立たせる。「飲食にトライしたい人がかかわってくれたら」。

11:30~15:00、月・火休。
☎070-9447-2996

住所:千葉県市川市中山4-8-8/営業時間:10:00~18:00/定休日:不定/アクセス:京成電鉄本線京成中山駅から徒歩2分、JR総武線下総中山駅から徒歩7分

日蓮宗大本山の一つ、由緒ある名刹(めいさつ)「中山法華経寺」

祖師堂は1997年に建立当時の姿に復元された。
祖師堂は1997年に建立当時の姿に復元された。
国宝でもある日蓮聖人真筆の遺文を保管する聖教殿。
国宝でもある日蓮聖人真筆の遺文を保管する聖教殿。
宗門最古の法華堂。
宗門最古の法華堂。
執事を務める田中見定(けんじょう)さん。朱色が美しい五重塔は国指定重要文化財だ。
執事を務める田中見定(けんじょう)さん。朱色が美しい五重塔は国指定重要文化財だ。
鐘が設置された宝殿門をくぐった先に聖教殿がある。
鐘が設置された宝殿門をくぐった先に聖教殿がある。

鎌倉時代創建、日蓮聖人が最初に開いた五勝具足の霊場。広い境内には、国指定重要文化財の祖師堂や法華堂、五重塔、四足門など由緒ある貴重な堂宇がいくつも並ぶ。日蓮聖人の命を救った子母神も法華経行者の守護神として祀(まつ)られ、厄除けや子育ての神様として信仰されている。毎年11月1日~翌年2月10日までの100日間、全国から僧侶が集まる過酷な修行「大荒行(だいあらぎょう)」が行われることでも有名。

取材・文=中村こより 撮影=加藤熊三
『散歩の達人』2026年1月号より