日本にいながら台湾気分を味わえる場所
自由が丘駅からほど近い、閑静な住宅街。緑豊かな園芸店を通り過ぎ、その先に見えるテラス席が目印だ。店の中に入ると、台湾人の洪藝庭(ホン・イーティン)さんと、日本人の高橋浩二さん夫婦が迎えてくれた。長らく台湾の茶藝館で働いていた洪さんが、高橋さんとの結婚をきっかけに、日本の人にも本当に美味しい台湾茶を知ってもらいたいと、2019年この店をオープンした。
洪さんが培ってきた審美眼と、現地のお茶業者とのつながり。それを駆使して揃えられた茶葉と茶器は、どれも貴重なものばかりだ。日本ではまだ知られていない、高山茶の優良生産者を発掘し、ここでしか飲めない高品質な茶葉を扱っている。また、『蓮月庭』が扱う茶葉の最大の特徴は、無農薬栽培であること。台湾でも提供できる店はごくわずかという無農薬の茶葉は、何煎淹れても苦みを感じずに楽しむことができるのだそう。
それを最も感じることができるのが、席茶(シーチャ)と名付けられた工夫茶。
台湾で買い付けたという美しい茶器のセットで供され、1煎目はスタッフがお茶を淹れてくれる仕組みだ。2煎目以降は、スタッフがレクチャーしてくれた作法を思い出しながら、自身でお茶を淹れる。お茶は煎を重ねるたびに、異なる味わいが楽しめ、その奥深さに驚いてしまう。また、茶器によっても味わいが変わるため、この店ではお茶の美味しさを最大限引き出せるような茶器を選んでいるそうだ。繊細な造りが美しいこの茶器は、手作業で絵付けを行っているため、描かれている絵柄が一つひとつ異なるという。茶器は販売もしているため、気に入ったものがあれば自宅でも楽しむことができる。
体のことを気遣って考案された本格スイーツとフード
「実はスイーツも人気が高く、それを目当てに訪れるお客さんも多いんですよ」
豆花(トウファ)や愛玉子(オーギョーチ)、パイナップルケーキなど、この店のスイーツはどれも洪さんの自家製。慣れ親しんだ祖国のスイーツを「自分が一番美味しいと思う味で作っている」と、洪さんは話す。一番人気の花生豆花(ピーナツトウファ)は、トッピングに柔らかく煮たピーナツのみを添えたシンプルさ。しかし、豆花のプリンのような食感が満足感を与え、十分な食べ応えを感じられる。仕込みに3日かかるというピーナツは、素材本来の甘さが引き出され、豆花との相性も完璧だ。夏の間はクラッシュアイスを添えて、ひんやり冷たく仕上げている。
また、9月からは新たなランチメニューである、ヴィーガン対応の魯肉飯(ルーローファン)を始める。日本でも人気のある魯肉飯をヴィーガン向けにアレンジした珍しいメニューだ。
食べてみると肉を使っていないとは思えないような味わいで、肉好きな人でも満足できる完成度の高さ。ヴィーガンのレベルに応じて、煮卵のトッピングの有無を選ぶこともできる。魯肉飯は単品だけでなく、お茶とミニスイーツが付いたセットにすることも可能。お茶は茶葉が日替わりで、スイーツは豆花・愛玉子・ドライマンゴーから選べるため、その日によって様々な組み合わせが楽しめる。
「私たち夫婦はどちらもヴィーガンではないけど、無農薬栽培のお茶と同じように、スイーツやフードも体に優しいものを提供したいと思ってます」
そう話す洪さんは、お客さんが美味しそうにお茶を飲んだり、スイーツを食べたりする姿を見るのが何よりの幸せだという。お客さんへの気配りを大切にする二人の姿から、一度訪れたお客さんの多くがリピーターになるというのも頷ける。
『蓮月庭』店舗詳細
※9月よりランチタイム開始/12:00~14:30/定休日:年末年始/アクセス:東急東横線・大井町線自由が丘駅から徒歩4分
取材・文・撮影=柿崎真英