柏を拠点に“人と食”をつなぐ場所
JR柏駅東口に隣接する「ファミリかしわ」1階に『クラフトビールとジビエ 地産地消Cafe&Bar Cluster』(以下、Cluster)がある。木の温もりが心地よい空間だ。
店主の秋谷英二郎さんは柏市出身。2012年から市内の住宅地で輸入ビールの専門店を営んでいた。「でも、もっとたくさんの人に気軽に楽しんでもらいたくて。駅前のほうに移転し、2019年からこの場所で営業しています」と話す。
店名の『Cluster』には、“集まり”や“群れ”という意味がある。
「うまいもんを囲んで、人が自然に集まってくれたら、それがいちばんうれしいですね」
店の前を6度通りすぎ、ある日ようやく扉を開けてくれた、なんてお客さんもあったそうだ。
「外から見て『入りづらいのかな』、『お酒に詳しくないと恥ずかしいんじゃないかな』って思われることもあるみたいですけど、そんなこと全然ないです。わからないことはなんでも聞いてください」。そんな言葉にも秋谷さんの人柄がにじんでいる。
初めて訪れても、いつのまにかみんなの会話のなかに入っている。そんな温かさがこの店にはある。
「食材の宝庫」千葉の食材のうまさをちゃんと伝えたい
料理の柱は「地産地消」。扱うのは千葉県産の「林SPF豚」や「もち豚」など、信頼できる生産者から仕入れる素材ばかりだ。
「千葉って広いんですよ。海も山もあって、肉も魚も野菜だってある。だから“食材の宝庫”なんです」
近年特に力を入れているのがジビエだ。県南にある房総半島には山が多く、鹿やイノシシ、キョンなどを地元の漁師が狩っている。
「でも、仕入れるのは猟師さんから直接じゃなくて、食肉問屋さんを通すんです。血抜きや衛生管理をプロに任せたほうが確実なんで」と秋谷さん。
きれいに処理された肉は、臭みがなく、滋味深い旨味がある。
「食べたお客さんが“え、これが鹿?”って、おいしさに驚く瞬間がうれしいですね。うちのジビエは本当にウマイですよ」
野菜もできるだけ地元産を使用。松戸で農業を営む秋谷さんのいとこから枝豆や葉物が届くこともある。
「季節で手に入るものが違うから、メニューもよく変わります。だから、うちの料理は“今日の味”なんですよ」
チェコで学んだビール愛が柏で花開く
店のもうひとつの柱が、クラフトビール。
秋谷さんはチェコでピルスナー・ウルケルの研修を受け、公認タップスターの経歴を持つ。
ピルスナー・ウルケルは、世界で初めて淡色ラガーとして誕生したチェコの国民的ビールだ。クリアな黄金色と繊細な泡、豊かな香りが“世界中のラガービールの原点”といわれるほどのもの。本場では“注ぎ方”も重要とされ、醸造所が認定した者だけがこのビールを取り扱うことができる。
「本場チェコのレストランや研修所で注ぎ方を叩き込まれました。あれは本当にいい経験でしたね」
その経験をもとに、店では県内ブルワリーとのコラボも積極的に展開。柏の葉「リオブルーイング」、佐倉市の「ロコビア」など、地元の造り手たちとの交流が生まれている。
さらに、秋谷さんは“動くタップルーム”として、キッチンカーで千葉ロッテマリーンズの本拠地にも出店。
「年間60試合くらい行ってます。スタジアムで飲んだ人が、後日お店にも来てくれるんです。人の輪が広がっていくのが一番楽しい」
扱うスピリッツも地元中心。木戸泉の日本酒、大多喜のブランデー、房総のラム、野田のクラフトジンなど、千葉の酒を一堂にそろえる。
「せっかく千葉にいるんだから、千葉のうまいもんで酔ってもらいたいんですよね」
秋谷さんは誰よりもお酒が好き。そして千葉が大好きなのだ。
ジビエを気軽に。ガーリックが効いた肉がやわらか〜い、千葉県産ジビエ鹿肉丼
地産地消のランチメニューは、肉料理が中心。フレンチレストランなどでは高級なイメージがあるジビエが、ここでは1000円前後で味わえる。また、スパイスから作る本格カレーも評判がいい。
今日のランチに決めたのは、鹿の内もも肉を使うという千葉県産ジビエ鹿肉丼1200円だ。
「鹿肉って火を入れすぎるとすぐ硬くなるんです。表面の色が変わったくらいでソースを合わせるのがベストですね」とシェフが調理の合間に解説してくれた。
さっと炒めて、温かいご飯にのせれば完成だ。オーダーから調理すること約5分! 着丼までの時間が短くて、ランチタイムにはありがたい。
ガーリックとオニオン、黒コショウを効かせたソースは、濃厚なのに後味が軽やか。
「肉が強いのにソースが薄いと“ボケちゃう”んですよ。だから味も香りもちゃんと立たせます」
確かに、口に運ぶとスパイスの香りがふっと鼻をくすぐり、赤身の旨味があとからじんわり広がる。
この日の丼に使用した部位は内ももだったが、仕入れによって変わることもあるという。
「千葉県産のブランド豚は一頭買いなんですけど、鹿肉は肉屋さんがそのとき持ってきた品質の良い鹿肉の部位で出すんです。だから、同じ“鹿丼”でも味が違いますね。そもそも野生だし、生き物を扱ってる以上、同じものは出せないですから」
それが面白い。今日ここで食べた味は、もう二度と味わえないかもしれない。そう思うとありがたみが増してくる。
ジビエ料理もカレーも、クラフトビールも……。メニューには秋谷さんの好奇心と遊び心が詰まっている。
地元の人だけでなく、遠方からやってくる人たちも満喫できる濃厚な千葉タイム。
『Cluster』は今日も柏の街の真ん中で、“おいしい時間”をゆるやかにつないでいる。
取材・文・撮影=パンチ広沢





