インパクトのあるテイクアウトメニューが人気
蓮馨寺(れんけいじ)付近を散策中、一軒のうなぎ専門店を発見。思わず駆け寄ると、店先にあるテイクアウトコーナーに「うなぎ串」「うなぎの焼きおにぎり」とある。店の名前は『鰻 小日向』といい、「リーズナブルな価格でうなぎを楽しめると好評をいただいています」と店主の小日向一志さん。人力車の車夫(しゃふ)が観光客にもおすすめしているようで、「インバウンドの方々もたくさんいらっしゃいます」。
商品をのぞくと、とにかくインパクトがあるのがうなぎの焼きおにぎり。トッピングと呼ぶには大きすぎるうなぎが、おにぎり本体を覆い隠すようにドーンとのせられている。その隣には、食べ歩きにぴったりなうなぎ串が。ビールと相性が良さそうな肝串も並んでいる。
どれにしようか絞りきれず、一つずつ注文。商品を受け取ってから蓮馨寺の境内で空いているベンチを探す間、早く食べたい、早く食べたいとソワソワして気が急くばかり。ようやく腰を落ち着けるやいなや、うなぎの焼きおにぎりにあむっとかぶりつく。とろけるようなうなぎの食感と旨味、タレの甘み、香ばしさにうっとり〜。
厳選したニホンウナギとこだわりの特製タレが決め手
「養鰻場が水とエサにこだわって育てたニホンウナギを使用しています」と小日向さん。通常の1.5倍ほどある、大ぶりで身が厚いものを選んでいるそうだ。それを関東風に背開きにし、蒸し焼きにすることで理想の食感に。口溶けが良く、頬張った途端に力強い旨味、朗らかな甘みがふんわりと広がる。
うなぎの焼きおにぎりは見た目もボリューミーだが、手で持ってみると、伝わってくる重みにさらに心が踊る。上にのせているのは、半身のうなぎを半分にしたものだ。ご飯はうなぎのタレで炊き込み、焼きおにぎりに。ちなみに、このタレにもかなりのこだわりが詰まっているという。
小日向さんが目指したのは「甘すぎず、あっさりしたタレ」。開業に先立ち協力してくれる醤油屋を探し回り、たどり着いたのは、徳島にある大正12年(1923)創業の老舗醤油醸造所だった。試行錯誤の末、ウナギの骨を煮詰めた特製タレを共同開発。あっさりとしていながら深みがある、甘みと辛味を兼ね備えた、ウナギやご飯とも相性がいいタレができあがった。
ウナギは火を入れすぎると固くなってしまうので、焼き色や脂が弾ける音で状態を確認。焼き上げる過程で余分な脂を落とし、ウナギ本来の旨味をぐっと引き出す。一方、醤油の焦げた香ばしさや、山椒の爽やかな香り、ピリッとした辛味も重要。これがアクセントとなり、口に運ぶ手が止まらなくなるのだ。
古くからある川越の食文化をカジュアルに体験
店内はカジュアルで気軽に入りやすい雰囲気。もちろん、テーブル席でうな重をゆっくり味わうことも可能だ。「厳選したウナギは臭みがなく、脂のノリもいい」ため、ウナギ本来のおいしさを感じることができる。太丸(通常より大きなサイズのウナギ)の半身をのせたうな重(並)が2100円と、比較的リーズナブルなのもうれしい。
蒲焼きや白焼き、肝串をビールや日本酒と合わせてみるのもいい。その日によって、自慢のタレに漬け込んだ味玉やチャーシューなど、オリジナルのつまみも登場する。ご当地ビールであるCOEDOビールは、クリアな飲み心地の「瑠璃-Ruri-」と、川越の伝統的な紅赤芋を用いた、豊潤な甘みと深い味わいが特徴の「紅赤-Beniaka-」を用意。ペリングを楽しむのも一興だ。
蔵造りの町並みなど、風情ある景色に浸った後は、うなぎを食べに行こう。古くから引き継がれる川越の食文化に触れ、江戸時代に思いを馳せてみるのはいかが?
取材・文・撮影=信藤舞子