『丸忠蒲鉾店』の中華揚
最初に紹介するのは葛飾区立石にある『丸忠(まるちゅう)蒲鉾店』の中華揚だ。少し大きめの平たい練り物に、ニラやもやしが入っており、味はピリ辛仕上げとなっている。
これがなぜ「中華」という名前が付くのかは不明だが、おそらく具材がレバニラ炒めのような中華料理に使われるものに近いからだと思われる。
『丸忠蒲鉾店』は“せんべろの聖地”で有名な立石仲見世商店街にあり、併設した飲み屋が人気のおでん種専門店だ。おでん種を販売する店舗では揚げ蒲鉾のほか、調理済みのできたておでんを購入できる。
中華揚は江東区北砂の砂町銀座商店街で営業する『増英(ますえい)蒲鉾店』にも同様のものが販売されており、こちらでも人気商品となっている。
実は『丸忠蒲鉾店』の先代店主と『増英蒲鉾店』の先代おかみさんは姉弟の関係であり、両店舗で中華揚を取り扱っているのはその関係があるのかもしれない。詳細については「増英の系譜」という記事をご覧いただきたい。
ニラやもやしのほか、複数種類の野菜が混ぜ込まれており、ボリュームもたっぷりだ。さらに唐辛子の辛さが食欲をかきたてる。そのまま食べてもおいしいし、煮て食べても身体がぽかぽかと温まる。
ちなみに、後述する足立区綾瀬の『増田屋蒲鉾店』にも「とうがらし入」という似たような商品がある。また、「スタミナ」という名を冠する商品には似たような具材を用いることが多い。どのような経緯で名前が付けられ、広まっていったのかは不明だが、非常に興味深い。
『増田屋蒲鉾店』(綾瀬)の中華ボール(肉ボール)
次に紹介するのは、足立区綾瀬で営業する『増田屋蒲鉾店』(綾瀬)の中華ボールだ。現在では肉ボールという名称に変更されている。
肉ボールというだけあり、魚のすり身の中に挽き肉が混ぜ込まれている。すこし濃いめの味付けになっているので、おでんに入れるとほどよい味わいになる。
製造販売しているのは足立区綾瀬の綾瀬五丁目商店街にある『増田屋蒲鉾店』(綾瀬)だ。1973年に開業し、店主ご夫妻で50年以上営業を続けている。
こちらも揚げ蒲鉾のほかに店頭で調理するできたておでんを販売している。おかみさんが非常に明るく話し好きな方で、筆者はいつも1時間近く滞在してしまう。店主も職人気質で物静かだが、非常にやさしい方だ。
『増田屋蒲鉾店』(綾瀬)の魚のすり身は弾力が強く、昔ながらの味わい。中華ボールの名前の由来は不明だが、中華料理の肉団子を連想させるからだろうか。
『増田屋』(立石)の中華巻
最後に紹介するのは『丸忠蒲鉾店』と同じ、葛飾区立石にある『増田屋』(立石)の中華巻だ。
こちらの商品は他店ではみられないユニークなもので、なんと魚のすり身にシュウマイの皮が巻いてある。
『増田屋』(立石)は先ほど紹介した『増田屋蒲鉾店』(綾瀬)の店主が修業をしたお店で、綾瀬、堀切、京成小岩(葛飾区鎌倉)といった現在も営業する『増田屋』の屋号を持つ店舗はすべて立石から暖簾(のれん)分けしている。
綾瀬店と同様に、立石のお店にも肉ボールという商品が存在するが、綾瀬の店主が立石店で修業をしていたことに関係するのだろうか。また、立石の3代目店主が修業を始めた際には綾瀬の店主が練り物の作り方を指南していたことから、相互に影響しあっているのだと思う。
『増田屋』(立石)の中華巻の中身は挽き肉の入ったすり身で、お店で出している肉ボールと同じ具材なのだそうだ。先代が考案し、名前の由来は不明だという。
巻いているシュウマイの皮は炙るとぱりっとした食感となり、煮ると水餃子やワンタンのようにふわふわになる。店主いわく、特定の業者の皮でないとおいしくならないらしく、廃業を見据えてストックしているそうだ。
揚げ春巻と同じ要領で、からしと醤油をつけて食べてもおいしい。ぱりっとした皮とふんわり柔らかなすり身との食感のコントラストが心地よく、何杯でもビールがすすむことだろう。
今回は「中華」の名を冠する揚げ蒲鉾を3つほど紹介した。どれも個性豊かで、魅力的であることが伝わればうれしく思う。それぞれ実際に味わっていただき、好みのものを見つけてみていただきたい。
『丸忠蒲鉾店』の基本情報
丸忠蒲鉾店(おでんの丸忠)
東京都葛飾区立石1-19-2
03-3696-6788
定休日:木・第3水
営業時間:11:00~19:00(飲み屋の『おでんの丸忠』は15:00~22:00)
『増田屋蒲鉾店』(綾瀬)の基本情報
増田屋蒲鉾店(綾瀬)
東京都足立区綾瀬5-12-9
定休日:日
営業時間:9:00~19:00
『増田屋』(立石)の基本情報
増田屋(立石)
東京都葛飾区東立石4-50-3
03-3691-0477
定休日:日・祝
営業時間:10:00~19:30
増田屋(立石)のWebサイト(葛飾区商店街連合会のWebサイト):https://www.katsushika-kushouren.jp/store/s08012/
取材・文・撮影=東京おでんだね