お話を伺ったのは……

ten. / YMP 代表 丸山佑樹さん

群馬県太田市出身。起業家として活動する中で、ローカリズムに着目。2017 年より、川崎を拠点にまちづくりを生業とする。

溝の口で研究する豊かな暮らし『ノクチラボ』

施設名は「溝の口」と研究の「ラボ」を掛け合わせた造語から。飲食、物販、教室など、小商いを考えている人たちの暮らしを豊かにするサービスと設備が整っているほか、溝の口の人気カフェ「TETO-TEO」の支店も併設されている。

シェアマーケットは出店料やスペース、利用回数などが幅広く設定されているので自営業だけでなくサイドビジネスとして出店を考えている人にも優しい場所。
シェアマーケットは出店料やスペース、利用回数などが幅広く設定されているので自営業だけでなくサイドビジネスとして出店を考えている人にも優しい場所。
SALOON(サルーン)は18時30分以降に開催されるサロンコミュニティー。ビジネスアイデアを相談したり、音楽イベントを行ったり。開催内容や日時は企画によってさまざま。コンセプトは大人の社交場(写真提供=ノクチラボ)。
SALOON(サルーン)は18時30分以降に開催されるサロンコミュニティー。ビジネスアイデアを相談したり、音楽イベントを行ったり。開催内容や日時は企画によってさまざま。コンセプトは大人の社交場(写真提供=ノクチラボ)。
店内もテラスもワークショップの会場として利用できる。過去にはスパイスやハーブティー、種植え、苔玉、キャンドルなどの教室が行われ、手を動かす楽しさを伝えてくれる(写真提供=ノクチラボ)。
店内もテラスもワークショップの会場として利用できる。過去にはスパイスやハーブティー、種植え、苔玉、キャンドルなどの教室が行われ、手を動かす楽しさを伝えてくれる(写真提供=ノクチラボ)。
写真提供=ノクチラボ
写真提供=ノクチラボ

市民ファーストのコミュニティー『WORLD CAFÉ』

「学び×体験」がテーマのイベント「たかつ たいけんPARK」のワイン教室(写真提供=ノクチラボ)。
「学び×体験」がテーマのイベント「たかつ たいけんPARK」のワイン教室(写真提供=ノクチラボ)。

「企業とビジネス」「趣味とイベント」「学びと教育」の3つを軸に市民が気軽に集まったり、つながったり、意見を交換したりできる。共通の関心や趣味を持った人に出会えるほか、学生も子供連れでも参加できるのがいい。

アート、飲食、運動など、コミュニティーのジャンルは幅広い(写真提供=ノクチラボ)。
アート、飲食、運動など、コミュニティーのジャンルは幅広い(写真提供=ノクチラボ)。
「WORLD CAFE」に参加したことをきっかけに写真家・松山佐保さんは初の個展を開催。
「WORLD CAFE」に参加したことをきっかけに写真家・松山佐保さんは初の個展を開催。

まちを盛り上げるプロジェクト「まちの企画室」

2023年開催の「春のふるさと館まつり」内で行われた「光る泥だんごコンテスト」(写真提供=川崎市高津区役所まちづくり推進部地域振興課まちづくり推進係)。
2023年開催の「春のふるさと館まつり」内で行われた「光る泥だんごコンテスト」(写真提供=川崎市高津区役所まちづくり推進部地域振興課まちづくり推進係)。

2022年に発足した、行政と市民が一緒になってまちを盛り上げるプロジェクト。一般公募で集まった、地域の活性化につながる企画を元に、毎年2~3イベントを実施。2025年3月までにジャンルの異なる10のイベントが開催された。

約1000人が来場した「まちの文化祭」(写真提供=川崎市高津区役所まちづくり推進部地域振興課まちづくり推進係)。
約1000人が来場した「まちの文化祭」(写真提供=川崎市高津区役所まちづくり推進部地域振興課まちづくり推進係)。
多摩川河川敷を会場に世界の楽器に触れたり、太鼓をたたいたり、楽器を作ったりした「大山街道リズムフェス」(写真提供=川崎市高津区役所まちづくり推進部地域振興課まちづくり推進係)。
多摩川河川敷を会場に世界の楽器に触れたり、太鼓をたたいたり、楽器を作ったりした「大山街道リズムフェス」(写真提供=川崎市高津区役所まちづくり推進部地域振興課まちづくり推進係)。

溝の口はポテンシャルを秘めた街

溝の口界隈で見つけた、いい雰囲気のお店や興味深いイベントの数々。あったらいいなを作ったり、人と人をつないだり、シン・溝の口へと牽引するのはまちづくりをライフワークとしている「ten. / YMP」代表の丸山佑樹さん。

「点が線となり、“街”を成す」というビジョンの下、カフェ『TETO-TEO』やベーカリーとパティスリーのお店『Len』、カフェ、シェアキッチン&スペース、菓子工房が一体となった「ノクチラボ」、同じ興味を持つ人たちに出会い集えるコミュニティー「WORLD CAFE」、市民が企画したイベントを行政と共に実現する「まちの企画室」など、経営者として、そして地域プロデューサーとしてあらゆるモノ・コトを企画し実践している。そのすべての取り組みにおいてブレることなく共通しているのが、溝の口が持つ個性と価値を見出し高めていくことだ。

丸山さんのこれまでの実績はもちろん、取材中の会話からもとてつもない溝の口愛があふれているので「地元ですか?」と問うと出身は群馬県。大学進学を機に上京した先も溝の口ではなく横浜だという。その後に立ち上げたスタートアップ企業の拠点、生活圏内も都内で、縁もゆかりもない溝の口を「盛り上げたい」とまちづくりをスタートさせたのは8年前のこと。

「イベントの企画や運営など、DJだった学生時代の活動を仕事にするために仲間と起業したんです。のちに会社が株式上場し、はっと気づいたことがあって。自分が本当にやりたいことは、会社を大きくすることではなく“地域活性化”だと。いちから一人で始める場所を探しているとき、ほぼ初めてきた溝の口に『このまちなら!』と感じたんです」

「住みやすい」から「住みたい」へ

都会すぎず田舎すぎず、交通のアクセスがよくて買い物するにも便利、畑や自然が程よくあって、家賃相場は都心より低い。「日常に不便は感じないものの、もっと何かあればと市民はフラストレーションを持っていそう」と興味をかき立てられた丸山さんは、溝の口の魅力を可視化してきた。

地元の食材で作るおいしいものを食べたり、買えたりするお店、老若男女が楽しめるイベント、個人経営者や生産者、クリエイターなど、新たな一歩を踏み出したい人を後押しするコミュニティーなど「住みたい、住み続けたい」と思える理想のまちづくりは今も真っ只中だ。

取材・文=新居鮎美 撮影=加藤熊三