松戸の街の溜まり場的カフェ

松戸駅西口からほど近くの鮮魚街道(なま道)は、松戸カフェストリートと呼びたくなるほど良いカフェがそろっている。2016年3月、現在の場所から200mほど離れた古民家で『MAHAMERU COFFEE』は誕生した。店主はインドネシアから日本に移り住んで20年となるリノ・センレワさん。日本で学業を積み、製薬会社に勤めながら、コーヒーを仕事にする決意を固めたそうだ。

「コーヒーは世界共通の言語みたいもの。将来性のある仕事で、長く住んでいる松戸の街に恩返しのつもりで始めました」と、流暢な日本語でテンポよく話すリノさん。

ジャワ島の農園で摘んできたというコーヒーの実を手にした店主のリノ・センレワさん。
ジャワ島の農園で摘んできたというコーヒーの実を手にした店主のリノ・センレワさん。

松戸市内で物件を探していたところ、巡り合った古民家が「ひみつ堂」という松戸の観光案内所だった。所長の石上瑠美子さんの後押しで「ひみつ堂」のスペースを借りて最初のカフェ稼業の船出を果たし、古民家の取り壊しを機に、現在の場所で2022年8月に再オープン。

「誰かしら出たり入ったりして、街の溜まり場みたいなお店になってます」とリノさんが口にするそばから、また次の常連客の登場。覇気のあるリノさんに元気をもらっているお客も多いようだ。「コーヒー芸人って言われます」とジョークも弾む。

じつはジャワでコーヒー農園も経営する実業家

ほぼ毎日お昼ごはんを差し入れしてくれるという料理人の常連さんとの気の置けないひと時。
ほぼ毎日お昼ごはんを差し入れしてくれるという料理人の常連さんとの気の置けないひと時。

オーナーであり、バリスタであり、カフェコンサルタントでもあるリノさんは、ジャワ島ではコーヒー農園を経営する実業家でもある。しばしば母国と日本を行き来するエネルギッシュなリノさんの今後の抱負は、もっといろんな街で『マハメルコーヒー』のお店をひらくことだという。

「しかも都内ではなく地方で。地方のいろんな街の日本人にインドネシアのコーヒー豆を知ってもらうことで、インドネシアをもっと身近に感じてもらいたいんです。お世話になった第2の母国に足跡を残したい」と、”世界共通の言語”と自負するコーヒーに託す夢は広がる。「黒い水商売ってところですか」と、笑いながらまたもやジョークが飛び出した。

インドネシアは、コーヒー豆の産出で世界代3位というコーヒー大国でもある。日本と同じ列島群から成り、1万7000は下らない数の島々と300以上の言語を保有する多様性に富む国だ。そんなカラフルな故郷で育んだリノさんの人柄ゆえだろうか、いろいろな客とフランクな会話が繰り広げられている。

インドネシア産のスペシャルティコーヒーの豆で淹れるマハメルブレンドは、パンチの効いたコクある深みが特徴。また、お客の好みに合わせたブレンドも、注文すればその都度提供してくれる。

マハメルブレンド一杯600円。
マハメルブレンド一杯600円。

カフェという名の国際交流の場

ボランティア団体である観光案内所の人たちや常連客の協力を得て作り出された店内は、壁色の赤茶が明るく温かな空間。椅子は壁際に木製のベンチ形式で設えられ、喫茶テーブルは風通しのよさげな、どこか南国風のデザインだ。

溶岩の色のようなエネルギッシュな色調の店内はアジアンモダンといった雰囲気。
溶岩の色のようなエネルギッシュな色調の店内はアジアンモダンといった雰囲気。

「お客さんが皆肩を並べて同じ方向を向いて座ってくれたら」と、リノさんの理想とする話しやすい喫茶空間は、どこかベンチのある駅の待ち合い室を想像させる。解放感のある雰囲気を生かして、ときどき手品やインドネシアカレーを食べる会など、楽しいイベントも開催している。最近では常連客を連れてインドネシアの観光案内もするというリノさんの店は、カフェという名の国際交流の場でもある。松戸カフェムーブメントの一翼を担う元気なお店でしばし英気を養おう。

店の名はジャワ島を代表する活火山の名を冠した。
店の名はジャワ島を代表する活火山の名を冠した。
古民家から移転して再オープンしたお店は全体にコーヒー色。
古民家から移転して再オープンしたお店は全体にコーヒー色。

取材・文・撮影=常田 薫