2024年夏、牛込柳町に誕生した新たな店
牛込柳町は、牛込神楽坂駅、早稲田駅、若松河田駅、曙橋駅までそれぞれ徒歩15〜20分程度、お手軽な散策コースの起点としてちょうどいい。ドラマの舞台にでもなれば人気に火が付きそうなロケーション。今なら青田買い気分でゆったり散歩を楽しめる。
食に関しても味な店が潜んでいる。牛込柳町駅前の大久保通りと外苑東通りの交差点を軸に、シブ住宅地に潜む井戸付き古民家ビストロ『ido Bistro』、近頃人気のミャンマーコーヒー豆のテイクアウト専門店『AUNG COFFEE』 、元祖塩だしの立ち食い『白河そば』、昭和歌謡喫茶の聖地『まちぶせ』、USミスジ100%手作りバーガーの『ブランニューバーガー』、JA全農たまご直営でこだわり卵を用いたスイーツを提供する『TAMAGO COCCO』などなど、くせ者つぶ揃い。東京油断できないなあ。そして2024年夏、新たな店が加わった。
看板商品はベトナム骨董品の“バッチャン焼き”
ベトナム食器とフォーを扱う『MERAKI Viet Nam(メラキ ベトナム)』である。2024年9月1日にグランドオープン。牛込柳町駅西口を出て右向けば目の前という好立地。外見は以前あった飲食店のくたびれた外観をあえて継承。ベトナム旧市街地の外れから根こそぎ持ってきたような雰囲気である。
店主佐藤恭平さんは、御徒町「PARCO_ya 上野」で雑貨店『メラキ百貨店』を開いている方。メラキとはギリシャ語で「愛情をいっぱい注がれた物」のことだそうで、こちらは佐藤さんが集めた“メラキ”な器やアクセサリー、生活雑貨をそろえている。器類は和物メインだが、海外モノにも目を向けていて少量扱っている。
数年前、佐藤さんはひさしぶりに訪れたベトナムで骨董品のバッチャン焼きに魅了され、新たに専門店を出すことを決意。惚れ込みぶりが半端ない。そして物件を求めて出合ったのが、イメージ通りの間取りのこの店だった。それまで牛込柳町とは特に縁はなく、ロケーションへのこだわりは二の次だったという。廃屋同然の焼き鳥屋跡だった物件を、雰囲気ある床や造作の一部を残しつつ、できるかぎり家族や自分の手で改築、家具はイギリスやフランスのアンティークを使用(販売もしている)。狭いながらも居心地良い2階席まで仕立て上げた。くたびれた外観とカフェ風の店内とのズレ加減が面白い。
それゆえこの店の看板商品はあくまでバッチャン焼きである。ベトナム北部、首都ハノイ近郊にあるバッチャン村で15世紀頃から作られている陶器で、少しゆがんでいたり素朴な味わいが魅力の日常品である。『MERAKI Viet Nam』は、その中でもオールドバッチャンと呼ばれる上物を扱う。これは20〜40年前に作られた品で、最近の品より絵付けが細やかで趣がある事から注目されだした。価格は1000円〜1万円ぐらい。
日本においてベトナムは、1990年代上映された映画『青いパパイヤの香り』あたりからブームが始まり、2000年代以降多くの日本人が現地も訪れるようになる。カワイイセンスの雑貨が続々と輸入され、一時期は雑貨店にベトナムの品が何かしら並んでいたものだった。それも最近は一息ついた感がある。その一息ついているタイミングで『MERAKI Viet Nam』が、あえてメインに据えるベトナム骨董品は、ブームのフィルターで濾過され、生き残ったハイレベルな品と言える。
現地の味にオリジナル要素を加えたフォー
かつてベトナムにハマった一人として、ひさしぶりに接するバッチャン焼きは、魅力の再発見があり、思わず普段使いに購入してしまった。和洋アジア、料理のスタイルを問わず使えるので、やはりいい。
しかし、ベトナム食器の専門店となると店の敷居がちょいと高い。そこで店主佐藤さんは入店しやすいようにフォーも提供することにした。正確にはフォーガーで、鶏肉入りタイプのベトナム汁麺だ。骨董品の買い付けに足しげく通いつつ食べ回った現地の味に、オリジナル要素を加えて整えたものを出している。
添加物はなしでベトナム産のコクのある鶏肉を加えたスープが美味。具材はレモン麹で漬けて鶏ムネ肉と鶏ハムをミックス。それに、茎部分のみじん切りを加えたパクチーとライム。麺は乾麺だが幅広タイプを選び、食べている間にふやけすぎないよう工夫している。卓上にはレモングラスとニョクマムを合わせたラー油タレと、ニンニク酢の2種を用意。加えて味変させるのも楽しい。
量はS・M・Lの3サイズから選べる。料理に使われる緑がかった丼や皿は、オリジナルのバッチャン焼き(現代のもの)で、購入も可能なり。飲み物はジャスミンティー付き。今後ベトナム・スイーツも登場予定だとか。
牛込柳町さんぽに繰り出すとき、駅前で一息つける格好の店登場である。
取材・文=奥谷道草 撮影=唯伊、奥谷道草(メラキ百貨店)