1965年、東京交通会館の3階にオープンした喫茶店

JR有楽町駅京橋口を出ると目の前にある『東京交通会館』。著者はあまり知らなかったが、調べてみると1965年に竣工したビルで、オフィスや飲食店、展示場、パスポートセンターなども有する複合施設だ。

かつては東京都交通局が入居していた『東京交通会館』。
かつては東京都交通局が入居していた『東京交通会館』。

そんな歴史ある建築物で、オープン以来営業を続けているというのが3階にある『喫茶 ジュン』だ。店頭にあるランチのサンプルにひかれて店に入った。

店頭にあるランチのサンプルがすごくおいしそう!
店頭にあるランチのサンプルがすごくおいしそう!

中に入ると席を案内してくれたのはオーナーの福田洋子さん。世間話を交えながら、この店の歴史を教えてくださった。

「この店は『交通会館』の隣で美容室を経営していた私の父が始めたんです。当時は純喫茶だったから食べ物はトーストとサンドイッチくらいしかありませんでしたが、1987年に店内をリニューアルした頃からランチを始めたんですよね。そのタイミングで私も店を手伝い始めました」

落ち着いたトーンで統一された店内。窓が広く自然光がたっぷり注ぎ込んでいる。
落ち着いたトーンで統一された店内。窓が広く自然光がたっぷり注ぎ込んでいる。

1965年ごろ、喫茶店といえば路面か地下にあるのが普通で「先代の父が言うには、3階でしかもこんなに明るい場所で喫茶店をやるっていうのはお客さんを呼び込むのに苦労したそうです」と福田さん。

外のテラス席は走り抜ける新幹線が見える絶景スポット。テラスに出られるのは16時30分まで。
外のテラス席は走り抜ける新幹線が見える絶景スポット。テラスに出られるのは16時30分まで。

開店当時、福田さんは小学生だった。「3階だとなかなかお客さんが入りにくいとされていましたが、現在の東京国際フォーラムの場所に東京都庁があり、その周辺の関連会社や出入りの業者も含めると何十万という人の往来があったので、うちもお客さんが多かったんですよ」とその頃の記憶を話してくれた。

都庁移転やコロナ禍などの危機を乗り越え重宝される穴場スポットに

開店以来、時代に合わせ純喫茶からカフェバーを経て、ランチやスイーツメニューを強化するなど少しずつ変化しながら現在まで営業を続けてきた『喫茶 ジュン』。「危ないときは何度もあった」というが、最大の危機は1991年に東京都庁が西新宿に移転したときだった。

「都庁だけでなくて、そこへ出入りしている業者や関連会社が一気にこの街からいなくなるんですから半端じゃない。しかもその後、上階にあった東京都交通局までも全部移転したんです。上階で働いていた人がうちへ毎日2回か3回、お茶を飲みに来てたんですからこの店にとっても大きな打撃でした」

「HAVE A NICE DAY」の文言がグッとくる看板。
「HAVE A NICE DAY」の文言がグッとくる看板。

それから数年間は厳しい時期が続いたが、再びチャンスがやってきた。『東京交通会館』から徒歩10分ほどのところにある『東京宝塚劇場』の建て替えに伴い、1998年に旧劇場の隣に仮設の『TAKARAZUKA 1000days劇場』がオープンしたのだ。

「劇場は土・日もフル稼働で、1日に2回公演があるときは1回目と2回目の間に長い休憩があるんです。そこでたくさんの方が来てくださいました。本当に助かりましたね」

先代が美容室で使用していた1点もののシャンデリアを喫茶店で再利用。「レトロで貴重なものだけど、毎年掃除をするのが大変なの」。
先代が美容室で使用していた1点もののシャンデリアを喫茶店で再利用。「レトロで貴重なものだけど、毎年掃除をするのが大変なの」。

そのあとも幾度となくピンチが訪れたが、福田さんの人柄やこの店に愛着をもつ常連客らにより支えられてきた。

約60年、有楽町の人々に愛されてきた『喫茶 ジュン』のコーヒー。
約60年、有楽町の人々に愛されてきた『喫茶 ジュン』のコーヒー。

「最近では土・日に混み合うことが増えてきました。どうしてだろうと思ったら、コロナ以降ウチみたいなフルサービスの喫茶店が減っているそうですよ。銀座のカフェ難民には密かにうちが“穴場”なんて言われてるみたいです(笑)。キャッシュレス化していないのも高齢の常連さんには喜ばれていますね」

そういえば、入り口の看板にも“お支払いは現金のみ”と書かれていたっけ。次に来るときもおサイフの中身をチェックしてから店に入らなくちゃ。

リゾットみたいなやさしいテイストのびっくりオムライス

ランチタイムは11時から15時まで実施。平日のランチメニューにはハーフサイズのピラフとパスタ盛り付けたワンプレートランチ1200円、週替わりで3種類あるパスタランチ、日替わりのお楽しみランチ、オリジナルメニューのびっくりオムライス各1050円、野菜のビーフカレー1000円などがある。

平日のランチにはスープ、サラダ、コーヒーor紅茶が付く。銀座エリアにありながらこの価格はお値打ちだ。
平日のランチにはスープ、サラダ、コーヒーor紅茶が付く。銀座エリアにありながらこの価格はお値打ちだ。

ユニークなメニュー名にひかれびっくりオムライスをオーダーしてみた。どんな驚きがあるのだろう。ワクワク!

ご飯に卵、生クリーム、エビとマッシュルームをよく混ぜて塩コショウで味付け、バターを熱したフライパンで焼く。
ご飯に卵、生クリーム、エビとマッシュルームをよく混ぜて塩コショウで味付け、バターを熱したフライパンで焼く。
これをオムレツのように焼いていくのが難しい。調理するのは、和食、洋食なんでもござれ! この店で10年以上勤務するコックのエンドウさんだ。
これをオムレツのように焼いていくのが難しい。調理するのは、和食、洋食なんでもござれ! この店で10年以上勤務するコックのエンドウさんだ。
ニンニクが香るトマトソースをたっぷりかけて完成だ。
ニンニクが香るトマトソースをたっぷりかけて完成だ。

オーダーからものの5分で仕上がり、テーブルに運ばれてきた。オムライスは想像以上に大きめ。けっこうなボリュームがあるじゃないですか!

びっくりオムライス、このクオリティで1050円ということにまず驚いた筆者。だってここ、有楽町の駅前ですよ!?
びっくりオムライス、このクオリティで1050円ということにまず驚いた筆者。だってここ、有楽町の駅前ですよ!?

ぽってりとしたオムライスは表面がキツネ色に焼かれていて食欲をそそられる。スプーンでひとさじすくってみると、外側はよく火が通ってムッチリとしていて、中は卵かけご飯のようにトロ〜リ。食べてみると、まずはバターの香りがフワッとしたが味付けはごくシンプルで思った以上にやさしい味わい。ニンニクが効いた旨味たっぷりのトマトソースがアクセントになっている。

お米ひと粒ひと粒に玉子が絡み、トマトソースの甘酸っぱさが全体の味を引き立てている。
お米ひと粒ひと粒に玉子が絡み、トマトソースの甘酸っぱさが全体の味を引き立てている。

「見た目はオムライスだけど、食べるとリゾットみたいじゃない? だからね、ちょっと風邪気味のときでも食べやすいんですよ。しかもケチャップじゃなくてトマトソースだからあっさりいただけるでしょう?」

そうです、これはまさしくリゾット! 具材を入れ味付けたライスを薄焼き玉子で包んだオムライスではなくて、全部混ぜちゃうという。だからリゾットのようにすべての具材から醸し出される味の一体感があるのだ。初めて食べるこの感覚にびっくり!

エビやマッシュルームがゴロッと入っている。
エビやマッシュルームがゴロッと入っている。

スープ、サラダも平らげ、食後のコーヒーをゆっくりいただいた。窓の外を見ると、また新幹線が走り過ぎていった。少し酸味のあるコーヒーを片手にまどろみながらぼーっと窓の外を眺めている“何もしない時間”が愛おしい。また、ひとり時間を満喫しにここへやってこようと思う。

住所:東京都千代田区有楽町2-10-1 東京交通会館3F/営業時間:11:00〜17:30LO/定休日:無/アクセス:JR・地下鉄有楽町駅から徒歩1分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢