香りよく喉越し良いそばが楽しめる『池尻蕎麦』
東急田園都市線の池尻大橋駅から地上に出て徒歩30秒。通りからちょっと奥まったところにあるため入りにくいが、ここのそばを食べずに通り過ぎるのはもったいない。『池尻蕎麦』はもともと、近くにある製麺会社の宝録堂食品工業が経営していた立ち食いそば店「ホーチャン2号店」。そこがいったん閉店して『池尻蕎麦』として生まれ変わった経緯がある。製麺会社が関わっているだけあって、そばのうまさは折り紙付きだ。
細めな江戸風のそばは香りよく喉越しも抜群。バランスの良いツユとサクサクたぬきが絡んだそばをズズッとすすれば、うっとうしい暑さも途端に吹き飛ぶ。麺量も多めなのもうれしい。お酒も飲めるので、軽く飲んでそばで締めるというのもアリだ。
『池尻蕎麦』店舗詳細
大久保『長寿庵』のゆで麺とは思えないうまさのそばとコク深いツユ
JR大久保駅の南口から小滝橋通りへと続く飲み屋通りにある『長寿庵』は、とにかく安い。この物価高のご時世に、なんと冷やしたぬきが320円で食べられるのだ。2024年9月1日から20円の値上げとなるが、それでも安い。
しかし、安いからといって手抜きは一切なし。そばはゆで麺だが、製麺所に特注しているだけあってコシがあって、冷やしで食べると存在感を増す。ツユもダシの旨味がしっかり。濃いめでありつつまろやかさもかえしと合わさって、力強いうまさだ。小エビの入ったたぬきもサクサクで、これがこの値段で食べられることが信じられない。
こぢんまりとした店だが、昼どきは近隣の学生やサラリーマンで行列ができることも。安くておいしい。『長寿庵』は立ち食いそばの真髄を体現した名店なのだ。
『長寿庵』店舗詳細
富士見台『盛盛』赤たぬきそばのジャンクなうまさで夏の暑さに立ち向かう
西武池袋線の富士見台駅近くにある『盛盛(もりもり)』は肉そば推しだが、たぬき系も頑張っている。中でもイチオシなのが、紅しょうがとあおさで作ったたぬきをのせた、赤たぬきそばだ。ゴロゴロと大粒の赤たぬきはジャンクなうまさがあり、これがなかなかクセになる。パンチがあってそばやツユが負けてしまいそうだが、そこは心配ない。そばはガッチリとした太麺。ツユは生かえしでしょうゆの香りがキュンときいていて、どちらも赤たぬきをしっかりと受け止める。爽やかさはあまりないが力強いうまさでグイグイ食べさせるパワー系のそばで、食べているとなんだかテンションが上がってくるのだ。
そしてもうひとつの名物はねこ。聞き慣れないメニューだが、きつねとたぬきののった、いわゆるむじなだ。赤たぬきに比べると、あっさりした味わいでツユのうまさが存分に楽しめる、こちらもなかなかの一品だ。
『盛盛』店舗詳細
新小岩『うどん鈴木鰹節店』カツオ香る極上のツユをまとったうどんをすする幸せ
当たり前だが、冷やしたぬきはそばだけのものではない。うどんでおすすめしたいのが、新小岩にある『うどん鈴木鰹節店』だ。こちらの経営は、千葉県鴨川市にある店と同名の鰹節問屋『鈴木鰹節店』。それだけに、ダシに使う鰹節はかなりおごっている。
うどんをすすると、ぶわっとカツオの香りが立ちあがり、旨味が口中に広がっていく。とはいえ、カツオだけ立っているわけではなく、煮干しや昆布の旨味もバランスよく味をフォロー。とにかくうまい。こちらには冷やしたぬきというメニューはないのだが、無料トッピングのたぬきがあるので、夏季限定の冷がけにそれをのせれば良い。自家製麺のうどんはツルモチ食感で噛むのも楽しく、あおさ入りのたぬきもサクサクで香りよしと、とにかく完成度が高い。冷がけは10月ぐらいまで食べられるそうだが、できれば年間やってほしい!
『うどん鈴木鰹節店』店舗詳細
そばはツルッとツユはキリッと。西新宿『大橋や』の美しい冷やしたぬき
西新宿の青梅街道沿いにある『大橋や』は、昼どきになると近隣のサラリーマンで長い行列ができる大人気店だ。こちらの冷やしたぬきはとにかく丹精で美しい。たぬき、わかめ、ねぎに大根おろしが配された姿はバランスよく整えられている。
細めのそばはしっかり締められ喉越し良く、食べているだけでなんとなく背筋が伸びてくる。ツユもまた、旨味をたたえながらキリッとしていて上品で、これが500円というのが信じられない。まさに、並んででも食べたいそばなのだ。店は先代の娘夫婦が主に切り盛りしている。店内も2019年にリニューアル。この先も、長くこのそばを食べられそうだ。
『大橋や』店舗詳細
取材・撮影・文=本橋隆司