国分寺の路地で幅広い年代に提供するスペシャルティコーヒー

お店のある場所は、元はスナックだった。
お店のある場所は、元はスナックだった。

新卒で日本の大手コーヒーチェーンに入社した吉田さんが、独立に当たってテナント探しをしようとなじみある国分寺を訪れたのは2014年のこと。

「雑多でディープな雰囲気がある国分寺を改めて気に入りました。通っていた大学がある街で仲間も多い場所だし、当時まだスペシャルティコーヒーの専門店がないベッドタウンだったからこそ可能性があると思ったんですよ」と翌2015年にお店をオープンした。

中国産など珍しいコーヒー豆も。100g 1000円〜。
中国産など珍しいコーヒー豆も。100g 1000円〜。

店内奥で焙煎するコーヒー豆はブレンド2種類、デカフェ1種類を含めて全部で11種類。焙煎度合いは、中浅煎りから深煎り手前までをメインにしている。入り口から近い場所にコーヒー豆がディスプレイされていて、色の違いがよくわかる。

吉田さんは、コーヒーについてのコミュケーションの中で、相手になじみがありそうな言葉を選ぶように心がけている。

「ご年配の方に『このコーヒーはフルーティーですよ』と話したとき、よくわからないという表情をされたことがありました。だから、たとえば浅漬けは塩辛いけど、爽やかな酸っぱさもありますよね。このコーヒーもおもしろい爽やかな酸味があるんですよと話したりします」

店内利用は、1グループ2名まで。
店内利用は、1グループ2名まで。

常連には近隣に住むコーヒー好きのお年寄りも。長いことマンデリンやブルーマウンテンといったメジャーな豆を好み、深煎りのコーヒーしか飲んだことがなかった人もいるという。来店したことがきっかけで、浅く焙煎したコーヒーや、シングルオリジンのコーヒー、カフェラテなどこれまで知らなかったコーヒーの一面を知り、気に入って通ってくれているそうだ。

さまざまな豆や焙煎方法があるが、「ブレンド」や「ホット」、「アイス」とだけ注文する人もいる。もちろんそれはそれでOKといった具合で相手を尊重している。

コーヒーチェーンの店長から、憧れのバリスタへ

吉田さんは社会人になってからずっとコーヒーに携わってきた。日本の大手コーヒーチェーンに新卒入社して、店長にスピード昇進。

同じころバリスタというプロフェッショナルに興味を持ち、バリスタのいる店として『Paul Bassett(ポールバセット)』を訪ねるようになった。初めて訪れた日に、他の店では砂糖を加えて飲んでいたエスプレッソをバリスタに砂糖なしで飲んでほしいと言われたこと、そしてそのエスプレッソに衝撃を感じたことを今も鮮やかに覚えている。

「砂糖を加えていないのに、ダークチョコレートのような味がして華やかさもあって、ずっと口の中に留まるような……。初めて感じる味わいでした」

店名でもあるポール・バセット氏が、オーストラリア人で、2003年度に「ワールドバリスタチャンピオンシップ」というコーヒーの大会で世界チャンピオンに輝いた人物だと知ったのは、そのあとのことだ。

口調の柔らかな吉田一毅さん。趣味は三味線とカメラとのこと。
口調の柔らかな吉田一毅さん。趣味は三味線とカメラとのこと。

あまりに魅せられて、約半年後には店長職を辞し、アルバイトとして『Paul Bassett』に転職。熱意と努力が認められ、短期間で抽出と焙煎の学ぶチャンスを得て、必死で技術を身につけた。そして27歳だった2015年、独立して現在のお店を構えた。

吉田さんにとって焙煎機は愛車のような感覚だとか。
吉田さんにとって焙煎機は愛車のような感覚だとか。

吉田さんが店名にLife Size=等身大と付けたのは、虚勢を張らず、気兼ねもせず、その人らしくお店を使ってもらいたいと考えたから。

コーヒーチェーンからスタートして、有名店で技術を身につけた吉田さんは、コーヒーに関してはオールラウンダーだと自分を分析し、「だから地域に合った、味の作り方、空間の作り方もできていると思います」と話す。

素直な味わいが人気のカフェラテと、浅煎りのフィルタードリップ

カフェラテは680円。ガレットブルトンヌは国立の『Vivant(ヴィヴァン)』から仕入れていて350円。
カフェラテは680円。ガレットブルトンヌは国立の『Vivant(ヴィヴァン)』から仕入れていて350円。
フィルタードリップは650円〜。ガラスのカップに注いで飲むと、まるで日本酒のとっくりとおちょこのよう。
フィルタードリップは650円〜。ガラスのカップに注いで飲むと、まるで日本酒のとっくりとおちょこのよう。

カフェラテは、お店でいちばん焙煎が深いコーヒー豆・ブレンドNo.2で淹れてもらった。ミルクもコーヒーも主張しすぎない素直な味わいが飲みやすい。エスプレッソにフォームドミルクを流し込む過程で、流体力学を駆使して描くラテアートは飲んでしまうのがもったいなくなる出来栄えだ。

次にフィルタードリップコーヒーとして淹れてもらったのは、少し浅めのブレンドNo.1。ガラスの器を両手で持ってゆっくり味わっていると、浅めの焙煎と温度変化のせいか、「お煎茶みたいだなぁ」という言葉がふわりと浮かんだ。

実は吉田さんは「コーヒーは提供方法によってその“体験”が変わるはずだ」という仮説のもと、作家に依頼して新しいカフェオレ用のカップ作りに取り組んでいる。フィルタードリップと呼んでいるドリップコーヒーも、ガラスの水差しとコップを組み合わせたような容器に入れて渡し、飲む人に自分で注いで飲んでもらうという体験ごと提供している。

カップ内の対流を都度見極めて作るラテアートはもはやマジックにしか見えない。
カップ内の対流を都度見極めて作るラテアートはもはやマジックにしか見えない。

「日本でコーヒーをやるって、どういうことか。いろいろ考えたんです」と吉田さんは提供方法を工夫している理由を話してくれた。確かに飲んでいるのはコーヒーなのに、器の中の動き方が異なったことで、「まるでお煎茶のようだ」と連想してしまったのだから面白い。コーヒーの印象が変化した体験は、吉田さん自身が『Paul Bassett』で初めてエスプレッソを飲んだ衝撃と少し重なる部分なのかもしれない。

『Life Size Cribe』で吉田さんが淹れるコーヒーは、いつの間にか固まってしまっていたコーヒーとの関係を幸せな迷路に導いてくれそうだ。

住所:東京都国分寺市本町3-5-5/営業時間:12:00〜18:00LO/定休日:日(不定あり)/アクセス:JR・私鉄国分寺駅から徒歩3分

取材・撮影・文=野崎さおり