心地よい音楽と空間の中でいただく、体にやさしい食事
朝8時、自由が丘駅にほど近いしらかば通りを歩いていると、どこからともなくカーペンターズの曲が聞えてきた。
音楽が流れるビルには『CARMEL FARM&DINING』の店名と、朝食のメニューが書かれた立て看板。興味を引かれて店舗につながる階段をのぼる。
店の扉を開けると、入り口の向こうは一見してバーのような空間で、朝の空気感が一変したように感じる。店内に心地よい音楽が響きわたり、1人で来ても落ち着けるのが良い感じ♪
おや? 客席の端にステージやら楽器やらがあるぞ? 店長の浅野真雄さんに話を伺うと、「ここはもともと、生演奏を楽しめるダイニングカフェだったんです。音楽仲間や飲食の仕事関係のつながりで、2020年に設備や雰囲気をそのまま活かして今の店をオープンしました」とのこと。
毎月第2水曜の夜は、予約をすればだれでもステージで演奏を披露できる「MUSIC DAY」を開催している。客は出入り自由で、飲食代以外に費用はかからない。
「自由に音楽を楽しめる場所と時間をつくりたくて、「MUSIC DAY」を始めました。スタッフが演奏することもあり、ぼくもギターを弾きながら歌います」と浅野さん。「MUSIC DAY」以外にもさまざまな音楽イベントが行われている。
炊きたて&握りたてのおにぎりで、ほっとする朝のひと時
「地元の人たちが元気に一日をスタートできるように」との思いで、開店と同時に始めたモーニング。週末でもモーニングをいただけるのはありがたい。
浅野さんは店を立ち上げる際、スタッフと店のコンセプトなどを話し合うなかで、「おいしいご飯とお味噌汁以上のものはないよね」という結論に至り、モーニングではおにぎり定食を出すことに決めたのだそう。ならば、おにぎり定食を注文するしかないでしょう。
おにぎりの具材は、自家製大葉味噌、塩、昆布、ピリ辛高菜、おかか、しそひじき、赤じそ、いか昆布、梅の8種類。その中からお好みの2種類を選べる。“自家製”が気になったので大葉味噌と、おにぎりの定番ともいえる梅をチョイス。
炊きたてご飯をややしっかりめに握ったおむすびは、ほんの~り温かく、かたすぎずやわらかすぎず、口の中でぱらりとほどける。こりゃ旨い!!
「北海道産の米、ゆめぴりかはモッチリとしていて粒感もしっかりしているので、おにぎりにうってつけなんです。冷めてもおいしいんですよ」と浅野さん。
大葉味噌は、こだわりの麦味噌と刻んだ大葉を酒やみりんで煮詰めたもの。これが白米にめちゃくちゃ合う!! 梅干しは酸っぱすぎず、ほんのり甘めで食べやすく、白米の旨味を引き立たせている。
シンプルだからこそ、ごまかしの効かないおにぎり。浅野さんのおにぎりは、ご飯の握り加減、塩のふり方、具材選び、どれも絶妙なさじ加減なのだ。
「本来、おにぎりって贅沢な食べものではなく、いつでも食べやすいというか飽きないというか……ごく日常的で、どこか安心感があるようなものだと思うんです。そんなおにぎりのように、お客さまの心がほっとやすらぐような食事というのが、ぼくが思い描く理想の朝ご飯です」と浅野さん。
奇をてらわず、おにぎりのために選ばれた素朴な具材たち。早くもテイクアウト分は何にしようかと筆者は頭を悩ませるのだった。
「おいしい朝ご飯を食べると、その日1日、がんばれるような気がしますよね」
モーニングの注目ポイントは、おにぎりのおいしさだけではない。味噌汁や小鉢料理も、そのやさしい味わいに心も体もほっこりしてくる。
『CARMEL FARM&DINING』は開店以来、“できるかぎり安全な食材を使って、おいしい料理を提供する”ことをモットーに掲げ、神奈川県にある畑で自家栽培した野菜を食材として使用している。
採れたての野菜や旬の野菜のおいしさに気づき、「この野菜でつくった料理をお客さまに食べてもらおう」と思うようになった浅野さん。自分たちが大切に育てた野菜を使うことで、より自信をもって料理を提供できるようになったという。
また、食材や調味料は、浅野さんが自ら足を運んだ地でおいしいと思ったものをスタッフの方々と共有し、意見や感想を取り入れて選定している。「ぼく一人がおいしいと思っても、“こだわり”とは言えないので」と言い、スタッフ1人1人の思いやその存在を大切にしていることがよくわかる。
おいしい料理で客が笑顔になること、そして「おいしかったよ」といってもらえてうれしそうにしているスタッフの姿を見ることが、浅野さんの喜びなのだ。
「おいしい朝ご飯を食べると、その日1日、がんばれるような気がしますよね」と浅野さん。1日の始まりを大切にする。そんな何気ないけれど大事なことを、『CARMEL FARM&DINING』の朝ご飯が気づかせてくれた。いつもは忙しない朝をゆったりとした気持ちでスタートすることができて、なんだかいい1日になりそうだ。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=コバヤシヒロミ