お客さんの健康を意識した食材と味選び
『和伊わい亭』の看板メニューは、トロトロポークカツレツ1000円。
カリカリの衣に包まれたお肉はとろとろとしていて、ナイフを入れた瞬間、その柔らかさに驚く。さっぱりとしたソースは、こってりとしたスタンダードなデミグラスよりも程よく酸味がきいていて、フルーティーな味わい。シンプルではあるものの、その中に奥深さがあり、最後まで飽きない。
また、サラダ、温泉玉子、玉子スープ、そしてご飯もしくはパンが付いて1000円という安さで、ボリュームたっぷり。特に玉子スープには卵が丸々1個分使われていて、贅沢な一品だ。口に入れると、卵が醸し出す優しい味に包まれる。
「お昼はできるだけたくさん食べて、おなかいっぱいになってほしいですから」。店主の千野光朗さんは、そう語る。
千野さんは、創業当初から健康志向の食材にこだわってきた。国産の有機野菜や、お酒に合う味と薄味を意識したメニュー作りを心がけている。元々はパスタがメインのお店であったが、お客さんが飽きないように、という思いから、少しずつカツレツやステーキなど他のメニューも取り揃えるようになっていったそうだ。
「ワインは、無農薬の自然派ワインにこだわって揃えています。体によくて、二日酔いにもなりにくいんです」
さまざまなメニューにおいて、千野さんが意識しているのが”健康志向”なのだそう。使用する素材は、国産かつ無農薬にこだわって千野さん自ら選んでおり、ワインもしかり。メニューひとつひとつから健康を意識した工夫を見ることができるのが、このお店の何よりの魅力だ。
さまざまな経験が、このお店に
千野さんが料理の道に進むきっかけとなったのは、15歳の時に働いていた水道橋の飲食店だ。
「芸能人も頻繫に来るようなお店だったんですが、そのホールで働いていたときに、お客さんから“おいしかったからまた来るね”という言葉をもらって。その言葉がすごく良くて。ああ自分は、おいしいものを作りたいんだ、と思ったんです」
商業高校を卒業後、調理師学校で料理を学び、フレンチ、焼肉、寿司、カリフォルニア料理などさまざまな店で働いた。
「本当は10年働いたら独立するつもりだったんですけど。それから3年ほど遅れてやっとお店を持つことができました」
知り合いが店をやっていた場所を譲り受け、現在の水道橋で、2006年に『和伊わい亭』をオープンした。
「商業科の高校で学んだことも、結局はお店をやる上ですごく活きているんです。だから調理以外のことも含め、これまでの経験はすべて今の役に立っていると思います」。千野さんは経緯を穏やかな表情で振り返る。
料理に込められた店主のやさしさ
お店のあるエリアは学生やサラリーマンが多いため、テイクアウトのお弁当も人気だ。からあげ、ハンバーグ、生姜焼きなど、お弁当の種類はさまざま。千野さんとお客さんとの交流も深い。時に、料理や趣味のことについて、お客さんと話が盛り上がるときもあるという。
「お店を経営する上で、8割は苦しいことです。どうやって、もっとお客さんに来てもらおうかとか、集客で苦しむこともありますしね。でもお客さんが“おいしかった”と言ってくれる時が、お店をやっていて何よりうれしいんです」と千野さんは語る。
「もっとお客さんが来て、お店がにぎやかになってくれるとうれしいなと思います」
今後を語る千野さんの言葉には、料理人としての情熱と、まだまだ成長を続けていこうという前向きで力強い気持ちを感じる。
おいしく健康的なものを食べてほしいという、千野さんのあたたかな思いがたっぷりと詰まった隠れ家的名店は、今後もさらに多くのお客さんでにぎわい、地域に愛されるお店になっていくだろう。
取材・文・撮影=谷頭和希