駅から距離はあるけれど、人のつながりが詰まったカフェ

『TAILWIND coffee brewers』の最寄り駅は国分寺駅だが、住所は府中市だ。

店主の大塚祐貴(おおつかゆうき)さんはもう何年も府中市在住。2023年1月30日にお店をオープンする直前は、いくつかの場所で間借り営業としてコーヒーを淹れていた。店舗がある場所は、国分寺駅からは徒歩18分となかなかの距離だが、目の前はスーパー、周辺に学校も複数あり、コインパーキングも多い。

「居住する地域に貢献できる店を作りたいと場所を探して、やっと見つかったのがここです。2面彩光で明るいことが気に入って、バス通りに面しているので近隣に住む方はもちろん、会いに来てくださる方も来やすいかなと思って」

窓を背にしたベンチシートは奥行きが広くて過ごしやすい。
窓を背にしたベンチシートは奥行きが広くて過ごしやすい。

大塚さんには「会いに来てくれる人」がたくさんいる。以前は大手コーヒーチェーン、スターバックスで15年勤務し、かつて日本に数軒のみ存在した業態の店舗、インスパイアード バイ スターバックスを担当。店長やバリスタとしてトレーナー業に従事した他、社内のコンテストでも数回優勝した実績を持つ。100名以上のスタッフたちの指導に携わってきて、同僚や後輩たちがお店に訪ねてきて、ちょっとした相談を持ちかけられることもしばしば。

フランクで話しやすい印象の大塚さん。開業準備中のストーリーにも人との縁を大切にしていることが伺えた。居抜きだったお店の内装や外装について相談した建築士は、かつての間借り先のオーナー。長々と話し込みながらDIYできる部分のアドバイスを受けたり、図面を描いてもらったり、施工会社を紹介してもらったりもした。

店主の大塚祐貴さん。土曜日が定休日なのは「子供と過ごすため」とパパの一面もちらり。
店主の大塚祐貴さん。土曜日が定休日なのは「子供と過ごすため」とパパの一面もちらり。

ブルーが美しいオリジナルのカップは沖縄在住の陶芸家夫妻に依頼して作ってもらったものだ。その夫妻とは以前下北沢の店舗の勤務していたときに仲良くなったのだとか。こんなところにも人とのつながりが見える。

ラテアートも美しい! 特徴を生かした6種類のコーヒー豆で入れるカフェラテ

コーヒー豆はかつての同僚2人がそれぞれ営む焙煎所から6種類を仕入れている。どれもシングルオリジンだ。「うちでいちばん深煎りの豆も、他のお店なら中煎りとか中深煎りぐらい。見た目もそれほどテカテカしていません」と、浅煎りと、少し煎りの深い豆を見せてくれた。

焙煎の度合いは、アフリカ産の香りや酸味などを強調したい豆は浅煎り、インドネシア産はコクを感じてほしいから中煎り~中深煎りと、豆の個性を生かすように考えられている。

カフェラテを含めてエスプレッソに使う豆は1週間ごとに変更。変化が分かりやすいように、深め、浅めを交互に出していて、今週の豆はどれかと楽しみにしている常連客も増えてきたのだとか。

カフェラテ600円。躍動感のあるラテアートに、おぉっと感嘆の声が出た。
カフェラテ600円。躍動感のあるラテアートに、おぉっと感嘆の声が出た。

「今週は『KABU COFFEE roast works』という焙煎所から仕入れている、ミトラ ウエットハルというインドネシアのコーヒーを使っています。香ばしさとオレンジやパパイヤのような酸味も感じて、ミルクを入れるとメープルシロップのような味わいになります」

営業時間前に最初にその日の豆で淹れたコーヒーを飲んで、どんな風に説明するか考えているそうだ。教えてもらったコーヒーの特徴、オレンジやパパイヤのような酸味を口の中で探しながら飲むのも楽しい。

スイーツの人気No.1はレモンスクエア。魅力たっぷりの焼き菓子

カウンター上の焼き菓子。お菓子はすべて店内で焼いている。
カウンター上の焼き菓子。お菓子はすべて店内で焼いている。

フードメニューも魅力的な『TAILWIND coffee brewers』。カウンター上のガラスケースに並べられた焼き菓子のラインナップは、全部おいしそうで、ニヤニヤしてしまう。

レモンスクエアは500円。
レモンスクエアは500円。

人気No.1はレモンスクエアだ。あまり見かけないが、アメリカの家庭で焼かれるケーキで、レモンピール入りの素朴なタルト生地にレモン果汁をたっぷり使ったフィリングをのせて焼いている。二層になった上の部分は、ねっちりと柔らか。はっきりとレモンを感じる甘酸っぱさがたまらない。カフェラテの酸味とのペアリングも絶妙だ。

バスク風チーズケーキ プレーン550円。季節ごとにフレーバーが異なるチーズケーキもある。
バスク風チーズケーキ プレーン550円。季節ごとにフレーバーが異なるチーズケーキもある。

もうひとつのおすすめは、カウンターのケースにはないバスク風チーズケーキ。表面の焦げには風格さえ感じるが、小麦粉は使わず、チーズ、生クリーム、卵が主な材料だ。こちらはレモンスクエアとは対照的にやさしくてあっさりとした味わい。最後に香るラム酒が大人っぽい。

ホットサンドや、曜日によってはナポリタンなど肩肘張らないランチメニューもある。カフェラテ好き、エスプレッソ好きは、今週のコーヒーにどのフードメニュー合わせるか、組み合わせを考える楽しみも味わえるカフェだ。

住所:東京都府中市栄町2-27-10 1F/営業時間:11:00~20:00(日・祝8:00~17:00)/定休日:火・土/アクセス:JR・私鉄国分寺駅から徒歩18分

取材・撮影・文=野崎さおり